【イベントレポート】変化の時代に、組合員の学びと成長をどう支えるか
~富士通・三井住友カード労組の実践から考える、これからの労働組合の役割~
終身雇用・年功序列の前提が崩れ、、労働組合として組合員の学びや成長にどう関与すべきかが問われています。
本セミナーでは、組合員支援を実践・進化させてきた富士通労働組合・三井住友カード労働組合の2組合をゲストに迎え、日本経済新聞の編集委員がインタビュアーとなり、しました。
イベント概要
| タイトル | 「変化の時代に、組合員の学びと成長をどう支えるか~富士通・三井住友カード労組の実践から考える、これからの労働組合の役割~」 |
|---|---|
| 日時 | 2026年6月5日(金) |
| 会場 | 日本経済新聞社 東京本社 6階カンファレンスルーム(千代田区大手町1-3-7) |
| 登壇者 |
富士通労働組合 東日本グループ グループ長 加藤純一 氏 三井住友カード労働組合 中央執行委員長 福島左京 氏 モデレーター:日本経済新聞 編集委員兼論説委員 半沢二喜 |
| 主催 | 日本経済新聞社 デジタル編成ユニット |
1. 組合員の「エンプロイアビリティ(雇用されうる力)」向上を支援する
富士通労働組合東日本グループでは、自社を取り巻く環境の変化に対応するため、組合としても大きな変革を行っています。同グループ長の加藤氏は、組合の活動のコアとなる考え方として、組合員のを重視していると話します。
人事制度の変化と組合員のキャリア課題
富士通では1990年代から、成果主義や目標管理評価制度などといった先進的な人事施策を積極的に採用してきました。また最近でも、2026年4月入社の新卒採用から、職務に合わせて待遇を決める「ジョブ型」を取り入れるなど、従来の日本企業とは一線を画したキャリア形成の機会を従業員に用意しています。
こうした人事制度の変化もあり、在籍年数に関わらず「キャリアの自律」が求められる組合員からの相談・要望事項は多様化しています。自律的なキャリア形成には「新たな学び」や「スキルアップ」が不可欠ですが、すべての組合員が学習機会や学びの時間を捻出できるわけではありません。
さらに、社内のポスティング制度が普及したことで、最新技術を扱うような一部の部署に人気が集中し、業務遂行上必要な仕事へのアサインとの両立が難しくなるといった新しい課題も生じるようになりました。
AIをはじめとする技術の進化やDXの加速に伴い、企業間競争が激化する中、といいます。
「エンプロイアビリティ」を軸にした新たな組合の役割
こうした背景から、組合では2000年代前後の時期から「エンプロイアビリティ(雇用されうる力)」というキーワードを重視してきました。
加藤氏は、「人材流動性のある現代において、社内にのみ目をむけるのではなく、どこに行っても通用するスキルを自主的に身に付けるマインドセットが大事だ」と指摘しています。
こうした背景から近年では、組合が主導して有識者によるセミナーを複数回実施するなど、勤務以外での学びの機会創出に力を入れています。また日経電子版の活用など、組合員が日常的に情報に触れられる環境づくりも進めています。
加藤氏はこうした取り組みを総括し、「組合員の学びを支援し、キャリア形成の『つなぎ役』としての新しい組合の形を、試行錯誤しながら作り上げている」と述べ、組合の新たな役割への確かな手応えを示しました。
2. 「未来共創型」の労使関係を目指す。会社と組合員の成長を実現する組合の姿
次に、三井住友カード労働組合の福島氏より、同組合の取り組みについて紹介がありました。
三井住友カード労組は、2023年から2024年にかけてのグループ会社との合併を機に設立された新しい組織です。複数社の合併で国内最大級のキャッシュレスカンパニーへと成長した一方で、市場環境の変化の激しさから、といいます。
「未来共創型」の労使関係という新しいスタンス
同組合は、旧来の組合が持たれるイメージのような「会社と戦う組織」ではなく、。「会社の持続的な成長(発展)がなければ、従業員の労働条件(処遇)の維持・向上はあり得ない」という両輪の関係を大前提とし、目先の利益のために対立するのではなく、会社の中長期的な戦略を理解した上で、従業員目線から会社を良くするための建設的な議論を行うことを重視しています。
「会社(人事部など)がやるべきことでも、手が回っていないのであれば労組がやる」というスタンスを取り、現場の生の声をもとにマネジメント層を巻き込んで課題解決を図る取り組みを行っています。
5,000人との対話プロジェクトと具体的な成果
AIの進化やDX・自動化が進む中で、従業員の中に「自分の仕事がどうなるのか」といった雇用・業務維持に関する不安や、キャリア形成への不安、変化についていけないといった声が上がっているといいます。
同組合では、こうした声を吸い上げて会社に従業員の声を届けるべく、専従役員を中心に2年間で全組合員約5,000人と直接対話するプロジェクトを進めています。非常に骨が折れる取り組みだといいますが、こうしたリアルな現場の声を元に会社と交渉することで、特別休暇制度の新設(有給消化後の体調不良対応など)が実現したり、合併後の組織間の壁やマネジメント層の意識が改善され、現場の組織文化が良くなるといった具体的な成果を見出したほか、経営層からも労組のもつ従業員の生の声を聞かせてほしいと要請をうけるケースも増えました。
また、福島氏をはじめとする専従役員自らがキャリアコンサルタントの国家資格を取得し、キャリアに不安を抱える従業員をサポートする体制を構築しています。会社が提供する就業時間内の研修制度などを労組としてピックアップし、従業員の自律的な学びを促すのと同時に、福利厚生として日経電子版の導入を行うなど、組合員の成長を通じて会社全体の利益に寄与する活動を行っているということでした。
3. 熱を帯びた参加者も交えたディスカッション。各組合に共通する悩みについて議論
イベントの後半では、モデレーターの半沢編集委員も交えたパネルディスカッションが行われました。
現在の取り組みにおける課題・壁
半沢編集委員「それぞれの労組において、現在の取り組みにおける課題や壁を感じていることは何でしょうか?」
富士通労働組合 加藤氏:「新型コロナ禍以降、リモートワークの環境が整備され、会社では2割前後の出社率が現在も継続されています。多様な働き方が認められるという点ではとてもいいことですが、問題意識があっても組合に相談しない"サイレントな組合員"が増えており、彼らにどうリーチするかが壁となっています。そうした層に対して、専門知識を持ってどうリーチしていくかが大きな壁となっており、我々組合側も学びを続けながら試行錯誤しています」
三井住友カード労働組合 福島氏:「富士通労組の加藤さんも話されていたエンプロイアビリティの向上は我々も課題意識を持っており、AIの急速な変化の中で、一本槍のスキルしか持たない従業員の雇用が将来危ぶまれるという強い危機感を労組は抱いています。しかし、現場の従業員にスキルの多角化の必要性を伝えても、悲観的に捉えられたり、今の現場の実態からなかなか声が届かなかったりする点には苦労しているところもあります」
今後さらに力を入れていきたいこと
半澤編集委員「両組合において、非常に先進的な取り組みをされていることに驚きました。今後さらに力を入れていきたいこと、取り組んでいきたいことがあればお聞かせください。」
三井住友カード労働組合 福島氏:「労組を後ろ向きに捉える従業員が多い中、社会的なイメージを変えたいと考えています。労組が会社の健全なパートナーとして認知され、労組を経験した人がより会社で活躍し、担い手が増えるようなムーブメントを起こしたいです。我々は当初から、会社との対決ではない『未来共創』型の組織を目指しているので、多くの組合員に前向きな気持ちで参加してほしいです」
富士通労働組合 加藤氏:「今後やりたいことは「組合員との対話」に尽きると思います。対話の質を高め、信頼関係を構築していくことがまだまだできていない部分があるので、力を入れていきたいです。また、職場における情報の不平等をなくし、誰もが平等に活躍できる環境を作りたいです。そのためには組合役員の専門性を高めて対話を実践し、役員自身のキャリア形成にもつなげていくことが労組の価値だと考えています」
参加者からの質疑応答:AI時代のエンプロイアビリティをどう高めるか
イベントの終盤には同じく労働組合を運営する参加者から多数の質問が寄せられました。
ある参加者からは、「現在の雇用をも脅かされかねないAI時代における『エンプロイアビリティ(雇用されうる力)』の高め方」について質問があり、これに富士通労働組合の加藤氏は「AIに仕事が奪われると悲観するのではなく、AIに任せられる部分は任せ、それで生まれた時間を自己研鑽や他の仕事にどう活かすかを自分で描く『マインドチェンジ』が重要。今の仕事をずっと続ける前提ではなく、変化をイメージできるきっかけ作りを労組が支援していく」と答えました。また、三井住友カード労働組合の福島氏は、加藤氏の意見に同意した上で「自組織ではその手前の『キャリア自律』ができていない層が多いのが課題。時には、処遇を維持向上し安心して働き続けるためにも、危機感を煽り社会・会社の変化に対応するためにチャレンジする意識を促すことも必要なのでは」と、それぞれの立場からの所感を述べていただきました。
イベント後には、登壇者と参加者による懇親会も行われ、会社や業種を超えた交流が行われ、労働組合に関する共通の課題などに関して、。
4. まとめ
多くの会社が人事制度を再構築する中、生成AIなど技術の急速な発展を背景に従業員の不安も高まっています。そのような中でも従業員(組合員)の「エンプロイアビリティ」を高めるためには、会社に頼るだけでなく、労働組合自らが「情報の格差」をなくし、自律的な学びのきっかけを提供するという新たな役割が求められています。
組合役員が経済・業界の最新動向を正しく把握し、経営層や組合員と同じ目線(共通言語)を持って対話の質を高めることは、「未来共創型」の労使関係を築く第一歩となります。
- 富士通労働組合の取り組み
- 「エンプロイアビリティ(雇用されうる力)」を軸に、勤務以外での学びの機会を創出。有識者セミナーの実施や日経電子版の活用など、組合が「キャリア形成のつなぎ役」として新たな役割を担う
- 三井住友カード労働組合の取り組み
- 「未来共創型」の労使関係を追求。全組合員約5,000人との直接対話プロジェクト、役員によるキャリアコンサルタント国家資格の取得、福利厚生としての日経電子版導入など、組合員の成長を通じて会社全体の利益に寄与する活動を実践
- 両組合に共通する課題と展望
- リモートワーク普及による"サイレントな組合員"へのリーチ
- AI時代に求められるスキル多角化への意識改革
- 組合役員自身の専門性向上と、対話を通じた信頼関係の構築
日本経済新聞社では、執行部の情報力強化や組合員の自律的なキャリア形成(福利厚生)を支援する「日経電子版 法人・団体契約」を提供しています。これからの変化の時代を生き抜く強い組織づくりのために、ぜひご活用をご検討ください。