Global Foresight（NIKKEI Briefing）

シリア和解に映る中東の危うい「雪解け」 こんな風景を目にしようとは3カ月前には思いもよりませんでした。19日にサウジアラビア西部ジッダで開かれたアラブ連盟首脳会議でのムハンマド・サウジ皇太子とアサド・シリア大統領の抱擁です。両者は満面の笑みで握手も交わしました。 2011年の民主化運動「アラブの春」で平和的なデモを暴力で弾圧したシリアのアサド政権はアラブ連盟への参加資格を剥奪（はくだつ）されてき

令和日本のリアリズム 広島を「ヒロシマ」と書けば、そこには深い悲しみや憤り、そして未来への願いのようなものが込められます。同様に、瀬戸内海をはさんで対岸に位置する松山を「マツヤマ」と書くとき、欧米に伍（ご）する日本をつくるため懸命に生きた先人たちのことを思い出します。 日露戦争当時、日本は自国が遜色ない近代国家であることを世界に示すため、ロシア人捕虜たちを国際ルールに基づいて管理する捕虜収容所を

誠実に議論すべき核廃絶の道 主要国の指導者が広島に集まりました。19〜21日のG7サミット（主要7カ国首脳会議）でウクライナ支援や気候変動問題など山積するグローバルな課題を議論します。最大の注目は、被爆地・広島を舞台とした会議が核兵器の廃絶に向けた議論をどこまで深め、メッセージとして発信できるかです。 欧米のリーダーは「ヒロシマ、ナガサキの悲劇」を知識としては当然、知っているでしょう。でも、現地

「次なる標的」の窮余の策 民族や言語が同じなのに、歴史的経緯から別々の国として存在している事例が欧州にはいくつかあります。ドイツ語が公用語のドイツとオーストリア、ともにアルバニア系民族のアルバニアとコソボといった具合です。そんな中で、ロシアによるウクライナ侵攻後、今後の関係が気になっているのが、ともにルーマニア系が主体のルーマニアとモルドバの関係です。 モルドバといえば、ウクライナと同様にかつて

民主主義の行方を占う2つの選挙 新聞記者の仕事はじぶんの無知や非常識を思い知らされるのが日常のようなものです。30年の記者経験のなかで最も不明を恥じたのは、2011年の中東民主化運動「アラブの春」に遭遇したときでした。 エジプトの大学でアラビア語をまなび、中東の駐在記者として米同時テロやアフガニスタン戦争、イラク戦争といった大きなニュースの取材にかかわりました。それで、すっかり中東やアラブ人のこ

本格反攻後の3シナリオ ウクライナのゼレンスキー大統領が、侵攻ロシア軍に対する大規模な反転攻勢作戦の開始が近いことを示唆したり、ロシアの首都モスクワのクレムリンへの無人機攻撃が起きたりするなど、事態の新局面入りを感じさせる出来事が相次いでいます。そこで今回は、米欧装備で強化したウクライナ軍が本格的な反攻作戦に出た場合に起こりうる3つの展開についてシナリオ・プランニング風に考えます。 シナリオ①反

スーダン分裂、独裁者の置き土産 アフリカ北東部スーダンの情勢が急速に悪化しています。首都ハルツームなどで4月15日に発生した衝突は、またたく間に各地に広がりました。 日本は航空自衛隊のC2輸送機で在留邦人を出国させました。退避者のなかには小さなお子さんもいたようです。脱出までの道のりで、どれだけ大きな不安があったか想像もできません。襲撃や事故に巻き込まれることなく、無事に希望者全員の救出が終わり

気象要因と偶然要因 そうだったのか、知らなかった――。本を読み、それまで知らなかった事実や解釈に触れ、思わずそうつぶやくことが時々あります。同時に、半世紀以上生き世の中のことを多少はわかったつもりになっていた自分もまだまだだと痛感し、またそのことが不思議にうれしく感じられます。そんな気分にさせてくれた本はたくさんありますが、その中から今回特にご紹介したいのが、戦争特派員や歴史家など多様な肩書を持

正念場のマクロン改革 フランス語には「不幸は単独では訪れない」ということわざがあるそうです。弱り目にたたり目とは、こういう状況を指すのでしょうか。フランスのマクロン大統領にとって春はさんざんな季節となりました。国内では年金改革に反対するデモの嵐が吹き荒れ、その危機のさなかに足を運んだ中国では、米欧の結束を疑わせる不用意な発言が大きな批判をまねくことになりました。 マクロン氏は中国をおとずれた際に

政治と警察のもたれ合い2 安倍晋三元首相が狙撃された事件の後、2022年7月13日付の当ニュースレターとして「政治と警察のもたれ合い」をお届けしました。この国の政治と警察が戦後もたれ合いを続けたことが事件の温床になったことを指摘し、真の意味で独立した検証組織を設け、安倍氏殺害に至った経緯と改善策に関する国家レベルの報告書を残すべきだと書きました。けれど事件後の検証や体制見直しは、危惧していた通り