【高橋徹】投稿一覧

高橋徹

日本経済新聞社 編集委員・論説委員

日本経済新聞社 編集委員・論説委員

2010~15年にバンコク支局長、19年4月~22年3月にはアジア総局長として、計8年間にわたりタイに駐在した。アジアの政治・経済・産業動向をカバーする。元々は産業取材の経験が長く、自動車や通信、建設・不動産、エネルギー、商社、電機の各業界を担当した。著書「タイ混迷からの脱出」で16年度の大平正芳記念特別賞を受賞。日経電子版のコラム「Asia Analysis」等を執筆している。
【注目するニュース分野】アジア情勢、産業、経済

2010~15年にバンコク支局長、19年4月~22年3月にはアジア総局長として、計8年間にわたりタイに駐在した。アジアの政治・経済・産業動向をカバーする。元々は産業取材の経験が長く、自動車や通信、建設・不動産、エネルギー、商社、電機の各業界を担当した。著書「タイ混迷からの脱出」で16年度の大平正芳記念特別賞を受賞。日経電子版のコラム「Asia Analysis」等を執筆している。
【注目するニュース分野】アジア情勢、産業、経済

2022年

  • ASEANから7カ国というのは少し意外でした。TPPに加盟しているシンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイに加え、非加盟のインドネシア、タイ、フィリピンも創設メンバーに名を連ねました。米市場開放という「アメ」がないのに、という指摘がありますが、裏返せば、TPP交渉時のように米国から自由化など高い要求など突きつけられる恐れがない、と判断したのでしょう。構想の具体化はこれからですが、意地の悪い言い方をすれば、実効性が薄そうだからこそ、米国が掲げた指にとまったようにみえます。

  • 総選挙の結果が確定していないのに首相に就任?と不思議に思うかもしれません。かつて英植民地だった豪州は、英本国やマレーシアなどと同じく、国会で首相指名投票を行う仕組みがありません。英女王の代理である総督が国会で多数の支持を得ていると判断すれば、任命されて首相になります。それでも労働党の単独過半数獲得がまだはっきりしないなかでの就任は異例。あす24日のクアッド首脳会議への出席をそれだけ重要視しているといえます。

  • 国土や人口、資源に恵まれない都市国家シンガポールは、自由貿易協定(FTA)で失うものがありません。このためTPPの原協定だった「P4」をブルネイ、ニュージーランド、チリと共に始めたほか、ASEANで唯一、米国と2国間FTAを結んでいます。デジタル貿易に関する協定もNZやチリ、英国、韓国などといち早く締結済みです。その意味では米主導のIPEFへの参加表明も当然といえます。一方、対ロシアではASEANで唯一、経済制裁に加わっています。小国がゆえに、国家主権をいかに守るかにも敏感にならざるを得ません。国際秩序あってこその経済連携という位置づけを改めて示しています。

  • これまでの「感染者ゼロ」の主張ももちろん信ぴょう性を欠いていましたが、無謬神話に凝り固まった専制国家の典型例である北朝鮮が、こうした窮状を対外的に明かすのは異例中の異例です。弾道ミサイルの発射を2度続けて発表しなかったのは、コロナ感染が急拡大するなかで国内から批判的にみられるのを避けるためだったのでしょうか。とはいえそれでも発射実験を強行したのは、コロナ支援でも譲歩を引き出す狙いがあると考えるべきでしょう。

  • かつて「商社中抜き」「斜陽論」など存在意義を問われることもあった総合商社は、トレードから事業投資に軸足を移し、収益機会を創出してきました。資源分野はその典型です。ただ同分野にはもともと鉄鋼や電力など「買い手の代理人」として参入した経緯があります。過去の資源高局面でも、コスト高に悲鳴を上げる川下の業界から「商社はもうけすぎ」とやっかみ半分の声が挙がることがありました。買い手との関係や国益との難しい兼ね合いがあり、商社自身も手放しで喜べる最高益とはいかないのではないでしょうか。

  • マルコス氏は事前の世論調査でも一貫してトップを独走してきたため、想定通りの結果といえるでしょう。父が率いたかつての独裁政権の「負の記憶」については語らず、SNS発信を駆使してそれを改ざんしようとする姿勢は「歴史修正主義」とも批判されましたが、父の時代と大きく異なるのは、はっきりと民意によって選ばれたという点です。民主主義の力強さと危うさがないまぜとなった、世界の現在地を象徴する大統領選だったといえます。

  • 9日の日本時間夜に、ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領の兄で元大統領でもあるマヒンダ・ラジャパクサ首相がついに辞任を表明しました。支持者と反政府デモ隊が衝突し、死傷者が出た直後でした。それまでずっと辞任を否定してきましたが、事態収拾には身を引くしかないと判断したようです。ただデモ隊は大統領の辞任も要求しており、野党は「挙国一致内閣」の呼びかけを拒む姿勢です。政情混乱や物価高騰、長時間の停電が、ポスト・コロナで薄日が差してきた観光産業の足を引っ張るのが心配です。

  • 汚職の事実の有無はわかりません。しかし過去2回の判決の罪状は、選挙運動でのコロナ対策違反などで、とても禁錮6年に相当する重罪とは思えません。また裁判が非公開で、スーチー氏の弁護人に審理内容をメディアへ話さないよう命じるなど、著しく透明性を欠きます。全般的に、国軍が主導する、政治的動機に基づく司法判断であるのは明らかです。起訴された容疑がすべて有罪なら、刑期は合計で100年を超し、国軍の「スーチー氏憎し」の凄まじさがわかります。

  • 1970年代の2度の石油ショックをはじめとして、エネルギーは時に需給バランスが崩れて価格が高騰し、産油国の財政を一時的に潤します。しかし価格高は景気を冷やすほか、消費国を省エネ技術や代替エネの開発という「自衛措置」に駆り立て、そのうち価格が下がるプロセスを繰り返してきました。適正な生産量と価格が、結局は産油国・消費国ともに利益になるというのが、世界が得てきた教訓です。今回もロシアの皮算用とは別に、調整に少し時間がかかったとしても、エネルギー安保と脱炭素のバランスは、落ち着くところに落ち着くのでしょう。

  • 「ゼロコロナ」政策に固執する中国の経済が減速すれば、アジア周辺国にも多大な影響を与えます。例えばASEANの2021年の輸出の16%、輸入の24%を中国が占めていました。中国の消費落ち込みはもちろんですが、工場の操業停止で国際的なサプライチェーンが寸断されれば、素材や部品を調達しているASEANの生産・輸出にも打撃を与えます。また中国は外国人の入国だけでなく、自国民の出国も厳しく制限しており、せっかくASEANが「開国」に動いても、観光収入はなかなか回復しないでしょう。コロナの初期は中国の厳格な封じ込めをアジア各国が参考にしましたが、いまは足を引っ張っている印象です。