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黒田忠広

東京大学大学院工学系研究科 教授

東京大学大学院工学系研究科 教授

1982年から18年間、東芝で半導体集積回路を研究開発。2000年から20年間、慶應義塾大学とカリフォルニア大学バークレイ校で教壇に立った。現在は、東京大学システムデザイン研究センターd.labセンター長、先端システム技術研究組合RaaS理事長、国際会議VLSIシンポジウム委員長を務める。IEEEと電子情報通信学会のフェロー、慶應義塾大学名誉教授。
【注目するニュース分野】半導体、テクノロジー、教育

1982年から18年間、東芝で半導体集積回路を研究開発。2000年から20年間、慶應義塾大学とカリフォルニア大学バークレイ校で教壇に立った。現在は、東京大学システムデザイン研究センターd.labセンター長、先端システム技術研究組合RaaS理事長、国際会議VLSIシンポジウム委員長を務める。IEEEと電子情報通信学会のフェロー、慶應義塾大学名誉教授。
【注目するニュース分野】半導体、テクノロジー、教育

2021年

  • 物体が重力に従って落ちると、位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、摩擦や衝突で音や熱となってエネルギーを消費します。同様に、電子が電界に従って移動すると、回路の抵抗で熱が発生しエネルギーを消費します。微細化は、チップ内での計算に必要な電荷量を低減しますが、チップ間のデータ移動に必要な電荷量を削減できません。チップを重ねて実装すれば、データの移動距離を短縮でき、データ移動に必要なエネルギーを桁違いに低減できます。「3次元積層技術の重要性が高まっている」のは、このためです。

  • ちょっと乱暴ですが、脳と半導体チップを比べてみましょう。同じエネルギーを使えば、脳が100倍高性能です。容積を同じにすれば、チップが10倍高性能になります。脳の中の信号はチップより1億分の1遅く(100ヘルツ)、10分の1弱い(0.1ボルト)です。つまり脳は、粗悪部品を使いながらも効率の良い情報処理をしています。ただ、チップの効率も15年で100倍改善されてきました。ムーアの法則が減速しなければ、2035年には脳の効率に迫ります。

  • 宇宙ビジネスは衛星の通信利用で始まっています。スペースXの成功により、衛星を軌道まで運ぶ費用は、1キログラムあたり10万円程度に安くなりました。衛星自体も超小型になり、その数は急増しています。ムーアの法則のはじまりです。地上通信網を衛星と結ぶことで、カバレージを広げ災害に強くできます。ビッグデータのリアルタイム活用が広がり、宇宙の通信利用は急拡大するでしょう。今は車載半導体の不足が問題になっていますが、いずれは宇宙用半導体も不足する事態が起こるかもしれません。宇宙では放射線に強い半導体が必要です。

  • サーバー・ラックの中で雨を降らせて熱循環、すばらしいアイデアです。温度が10℃下がると、化学反応が遅くなって、電子部品の寿命はおよそ2倍延びます。さらに、液体冷媒を満たして湿度や酸素による影響を抑えた点も意外な効果でした。それにもまして大きなイノベーションは、故障率がある程度まで下がったら、「部品が故障してもすぐには交換しないという運用モデル」でしょう。信頼性は他社並みに揃えるというのがよくある守りの姿勢ですが、信頼性でビジネスの仕方を変革するという攻めに転じた姿勢がすばらしいです。

  • ロジック半導体は40ナノ、28ナノ、20ナノ、16ナノ、10ナノ、7ナノ、5ナノと2年ごとに世代交代を繰り返してきました。日本は40ナノで止まったまま。中国は16ナノ。TSMCは5ナノです。ここで一気に3世代ジャンプして16ナノの工場を日本に建設できれば、中国に並びます。
    さらに最先端を目指すには、需要喚起が必要です。たとえば、イメージセンサ。自動運転で需要が高まっています。AI処理で計算量が急増しますが、電力を抑さえなければ発熱で雑音が増えます。3世代進めれば、チップの電力効率を4倍改善できます。

  • 「空飛ぶクルマ」にとって軽量化と共に重要なのが知能化です。カーネギーメロン大学のモラベック教授によると、ロボットの知能レベルは、現在はネズミ程度ですが、2030年には猿並みになり2040年には人間のレベルに達します。クルマやドローンなどの移動・物流ロボットに加え、医療・介護、料理・エンタメ、警備・保守などの知能型ロボットが活躍する社会は、まさに「課題先進国日本」の出番。ロボットには沢山の半導体が使われるので、半導体復権の道も拓けます。

  • 心の規制改革も必要です。シリコンバレーの友人から相談を受けたときのこと。50億円の出資を集めたと聞いて、私は思わず守りの姿勢に入りました。リスクを分析して失敗を避けるような助言をしていると、「それでは50億円を集めた意味がない」と彼が言い出しました。はっと気づいた瞬間です。「イノベーションを起こすためには楽天的でなければならない。危険を恐れず変化を求め、安住の地を出て冒険の旅に出るのだ。」インテルを共同創業したロバート・ノイスの言葉です。

  • 半導体の流域には豊かな産業エコシステムが生育しています。川上には素材(6兆円)と製造装置(7兆円)が、川中にはロジックやメモリ、電力素子、センサー、アナログなどの多様なチップの設計・製造(53兆円)が、そして川下には電子情報通信(約300兆円)や自動車(約400兆円)などの広大なアプリケーションの大地が広がります。日本は、川上において高いシェアを確保し強い競争力を有しますが、韓国や中国もこの分野を強化する戦略を打ち出しており、さらなる高みを目指す対応が必要です。(数字は世界市場)

  • 2ナノは技術の世代を示す符丁です。チップのどこを測ってもその寸法はありません。同じメーカであれば数が小さいほどコスト性能比が良いことは間違いありませんが、メーカ間の厳密な比較には使えません。小さい数字を言った方が営業上は得になります。
    ところで、3、2、1とカウントダウンすると0で終了です。指標を変えた方がいいのではないかとスタンフォード大学の先生が真顔で言っていました。つまり、1ナノより微細な世代を目指しているのですね。

  • 大量のケーブルが露わになった量子コンピュータは、初期の電子式コンピュータに似ています。配線接続を一括してコピーできる半導体集積回路が発明されたのが1958年。コンピュータは半導体と出会って以来、急速な進歩を遂げました。コンピュータが電子式から量子式に進化しても半導体チップは必要です。ただし、マイナス273度の極低温で動作しなければなりません。そこには私たちがまだ知らない新しい物理があります。量子コンピュータは半導体を進化させる新素材の発見にも役立つでしょう。コンピュータと半導体の協演は続きます。