藤井 彰夫

ことし4月の統一地方選で、一枚の候補者ポスターに目がとまった。 「増税反対派、財務省出身」。財務省出身と聞くと常に増税を画策しているとお思いかもしれませんが、そんなことはないので皆さんご安心を。この候補者はこんなメッセージを有権者に届けたかったのだろうと推測する。 国民の財務省へのイメージもおおよそこのようなものだろう。それを強烈に印象づけたのが2月に刊行された「安倍晋三回顧録」だ。 「財務官僚

3月10日の米シリコンバレーバンク（SVB）の経営破綻から始まった金融危機は、欧州にも飛び火し、日米欧の中央銀行はドル資金供給など緊急対応に追われた。 グローバル化が進んだこの30年、何度も繰り返された似たような光景だ。 ①危機は常に小さな問題から始まる。 「SVBは流動性と金利変動に大きなリスクを抱えていた。固有の問題で銀行システム全体の弱さから来るものではない」（パウエル米連邦準備理事会=F

「ポリクライシス（Polycrisis）」。世界経済フォーラム（WEF）が1月の年次総会（ダボス会議）前に公表した2023年版のグローバルリスク報告書では、この言葉がキーワードとして登場した。現在あるいは将来の複数のグローバルリスクが絡み合って複合的な影響や予測できない結果を生み出す。様々なリスクが連鎖して増幅する「複合危機」を意味する言葉だ。 ここ数年のグローバル経済はまさにこの複合危機にさら

「量的緩和と称する政策には、それに付随する実験的政策が『寄せ木細工』のように組み合わさっているのだ。（中略）日銀も出口を探る前に、寄せ木細工のどの部分がどう効いたかを検証する時間の余裕はあるはずだ」 これは最近の日銀の金融政策についての記述ではない。筆者が今から18年前の2005年3月に書いた記事の一部だ。見出しには「実験政策『寄せ木細工』、見直し機運　まず総括必要」とある。 当時の福井俊彦総裁

11月上旬、シンガポールで「ネクストステップ」という国際会議に参加した。米ピーターソン国際経済研究所とシンガポール国立大学の共催で「テクノナショナリズム」について、米欧アジアの学者、政府関係者などが非公開で話し合った。 米中を軸とした半導体など先端技術をめぐる覇権争いが激しくなり、各国が自国技術を守ろうとする動きが広がっている。特に議論になったのは米国が相次いで打ち出した輸出管理規制や電気自動車

来日したフランス中央銀行のフランソワ・ビルロワドガロー総裁が日本経済新聞とのインタビューに応じた。ユーロ圏の景気がエネルギー高で「減速する」との見通しを示す一方、物価についてはピーク越えが来年前半だと指摘した。一問一答は次の通り。 「必要なだけ利上げ」 ――欧州中央銀行（ECB）が7月から金融引き締めを始めましたが、（利上げの終着点である）ターミナルレートに達するまでどれくらいかかるのでしょうか

フランス中央銀行のフランソワ・ビルロワドガロー総裁は日本経済新聞とのインタビューで、欧州中央銀行（ECB）の金融政策について、今は年率10%超のインフレ抑制を最優先し「目標の2%まで戻すために必要なだけ利上げをする」と述べた。そのうえで「2023年前半にはインフレ率はピークを迎える」との見通しを示した。 総裁はECBの金融政策を決める理事会のメンバーだ。利上げの最終到達点についての議論は時期尚早

米国という1つの主権国家の通貨が基軸通貨になっていることで、米国が国内安定のために金融政策を行えば、それがドルの供給を通じて世界経済にも大きな影響を与える。米国経済の安定と国際的な流動性供給の安定という2つの目標が一致せず、利害が衝突することがある。 金・ドル固定相場時代の1960年にベルギー生まれの経済学者ロバート・トリフィンが指摘した「トリフィンのジレンマ」という国際経済学で有名な概念がある

2022年も残すところ2カ月半。ロシアのウクライナ侵攻、安倍晋三元首相の銃撃、英エリザベス女王の死去――。今年も大きなニュースが世界を駆け巡った。大量の情報が洪水のように流れる世界で、時代の先を示す羅針盤としての新聞。新聞週間に改めてその役割を考えたい。 デジタル機器の発達などで世の中はどんどん便利になっているのに、なぜか忙しい。そのように感じている人も多いのではないだろうか。 ネットショッピン

「今最も重視しているのはインフレ率を目標の2%に引き下げることだ」。8月26日、米ワイオミング州のリゾート地ジャクソンホールで開いた経済シンポジウム。例年以上に注目を集めたパウエル米連邦準備理事会（FRB）議長の演説は「2%インフレ目標」の貫徹宣言で始まった。 FRBが2%のインフレ目標を採用したのは今から10年前、2012年のことだ。その後を追うように日銀は13年に2%の物価安定目標を導入した