戦局動かすゲームチェンジャーか ドイツ製戦車供与

ドイツ政府は25日、ウクライナに独製主力戦車「レオパルト2」を供与することを決めた。ショルツ首相はこれまで供与に慎重だったが、欧州安全保障の強化に向けて方針を転換した。侵攻するロシアから国土を奪還するため、ウクライナはドイツに同戦車の供与を強く求めてきた。重要な攻撃兵器の供与は戦局を大きく動かすゲームチェンジャーとなる可能性がある。同戦車を巡る最新情勢を解説する。



慎重ショルツ首相、同盟国が決断後押し

レオパルト2はドイツが1970年代後半から採用してきた主力戦車で、これまで複数回にわたり改良を重ねてきた。攻撃能力の高さから、世界で最も優れた戦車のひとつとして評価されており、欧州、北大西洋条約機構(NATO)加盟の多くの国々が採用している。

同戦車を巡っては、ポーランドなどが自国で保有する車両のウクライナへの供与を表明したが、再輸出には製造国ドイツの承認が必要だ。ドイツは軍事支援での突出やロシアとの対立を懸念し、供与に慎重な姿勢を見せていた。

20日には約50カ国の国防相らによる国際会議が開かれたが、ドイツが決断を先送りし、国内外で批判が高まっていた。こうした圧力と同盟国の説得に加え、米国が戦車供与に前向きな姿勢を示したことで、外堀が埋まった。ポーランドなどによる提供も認める見通しだ。

レオパルト2の実戦投入に要する期間は明らかになっていない。ウクライナ軍は旧ソ連製兵器を主に使用しており、訓練には1〜2カ月ほどかかるとみられる。春には供与された戦車を軸とした部隊が前線に投入される可能性がある。



戦車、ロシアの防衛線突破に不可欠

ロシアは支配地を防衛するため塹壕(ざんごう)を築く。塹壕とは兵士が身を隠すために陣地の周りに掘った穴や溝だ。ロシア軍からすれば、領土奪還をめざすウクライナの攻撃から身を守りつつ反撃ができる。

ウクライナはロシアの防衛線を突破するため、欧米に強力な陸上兵器の支援を求めてきた。戦車を使えば、砲弾による打撃を防御しながら速いスピードで動き回り、塹壕を突破できる可能性がある。

戦車は銃弾をはね返す「装甲」と、足場の悪い場所で機動的に動ける「履帯(クローラー)」、遠距離の軍事目標に撃ち込む「重砲」を兼ね備える。舗装路が多い市街地戦ではタイヤで動く機動戦闘車が重視されるが、塹壕戦では戦車が重要とされる。

戦車が初めて本格的に登場したのは第1次世界大戦だった。欧州の戦線で塹壕戦が始まり戦況が膠着し、局面を打開するための新兵器として投入された。

第2次世界大戦後も戦車は陸上戦闘の主力兵器として各国が導入を進めた。日本の陸上自衛隊も旧ソ連の上陸侵攻に備える目的で、北海道を中心に多数の戦車を配備してきた。

ソ連崩壊後、戦車の需要は一段落していたが、ロシアのウクライナ侵攻を受け東欧諸国などが再び戦車を重視し始めている。



「欧州標準」のレオパルト2、ウクライナ切望

ドイツのレオパルト2はNATO陣営の三大戦車のひとつとされる。英国の国際戦略研究所(IISS)によると欧州の10カ国以上で計約2000両を保有する。このため、欧州各国からウクライナへの大量供与が可能な唯一の欧州製戦車と目されてきた。

ロシアから領土奪還を目指すウクライナは西側の最新鋭戦車の供与を切望してきた。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は2022年12月の英誌エコノミストのインタビューで、ロシア軍を撃退するには戦車だけで約300両が必要と主張した。

事実上の「欧州標準」戦車であるレオパルト2の供与決定で、NATOからウクライナに提供される戦車が100両規模に達する可能性がある。英米の主力戦車と比べて、交換部品の確保といった整備体制が整えやすい利点もある。

ウクライナへの戦車の供与を巡っては、他国に先駆けて英国が主力戦車「チャレンジャー2」14両を数週間以内に送る方針を14日に発表した。英軍のチャレンジャー2の保有は220両ほどにとどまり、レオパルト2ほどの大量供与は見込めない。

米国の主力戦車「エイブラムス」も本格運用の技術的なハードルは高い。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは24日、米政府がエイブラムスをウクライナに供与する案が浮上してきたと報じた。NATOで足並みをそろえる可能性があるが、数の確保や燃料補給の面からもレオパルト2が最適とみられている。

(押切智義、小川知世、安全保障エディター=甲原潤之介)