ロシア産原油を買いあされ
資源爆食のさだめ、富求める14億人の重圧

大中国の時代
次なる危機④

中国東部の山東省には全国最安値のガソリン店が並ぶ(7月、山東省臨沂市)

ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、米中間の緊張が高まる。周辺国にとって気がかりは武力衝突だけではない。

中国東部の山東省。世界的な原油高が続くなか、7月上旬に現地を訪れると、不思議な現象が広がっていた。

「ガソリン価格は中国最安値の1リットル6.78元(約134円)。洗車も無料だよ」。臨沂市のガソリンスタンド「山東石化」では、給油待ちの車列が絶えない。

政府の公定価格(1リットル9.05元、当時)を25%も下回る。「この辺は安いから、ガソリンタンクをできるだけ空にして来るよ」。1800キロメートル離れた広西チワン族自治区から仕事で訪れたという会社員の孟軍さんは話す。

山東石化だけでなく、付近のガソリン価格は7元前後の激安店が多い。関係者が内情を打ち明ける。「米国に隠れて、ロシア産の安い原油を大量に仕入れているんだ」

山東省には民間製油会社が集積する(山東東明石化集団の公式SNSより)

日本の25倍、世界4位の国土を持ちながら、中国は慢性的に資源が足りない。中でも原油は7割を海外からの輸入に頼る。供給網を閉ざされれば、たちまち国民の多くは現代生活が立ちゆかなくなる。

中国経済の膨張は続く。台湾有事も視野に置く習近平(シー・ジンピン)政権は資源の安定調達を急ぐが、それは同時に多くの摩擦を引き起こす。

山東省に集積する独立系製油会社の経営者らは日々の原油相場に目を光らせる。「ESPOを買いたたけ」。ESPOとは「東シベリア太平洋」石油パイプラインオイルの略称だ。東シベリアで産出し、極東のコズミノ港などから中国へ積み出す。

ロシアのウクライナ侵攻に、日米欧はロシア産原油の禁輸措置で応じた。しかし中国はそうした動きと一線を画す。

船舶データをみると、7月には46隻の大型船がロシアの極東から山東省の青島や董家口の港に渡った。1月の1.9倍だ。山東省の企業が陰で動いており、各社が7月に仕入れた原油量は5月のほぼ倍になった。

問題は決済だ。ロシアの主要銀行は国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除された。ロシアと資金をどうやり取りするか。

6月29日、内陸部の陝西省西安市。小米(シャオミ)製スマホなど中国のIT(情報技術)機器を満載した貨物機が飛び立った。向かうのは6000キロ離れたロシアのサンクトペテルブルクだ。

関係者によると、からくりは間接的な物々交換だという。中国はロシア産原油を人民元で買う。ロシアはそこで得た元を使って、中国製のIT機器を仕入れる。米国に制裁を受けたイランとの貿易に強い、国有石油系の崑崙銀行が裏で支えているとされる。

西側諸国がどんなに敵対国を締め出しても、中国には関係がない。

国有大手幹部に指令が下る。「ロシアからの調達を3分の1にまで拡大せよ」。中国の天然ガスの輸入依存度は46%、これに対してロシアの比率は1割程度にとどまる。ロシアとの取引拡大へ、矛先は日本企業が温めてきたガス開発事業「サハリン2」にも向かう。

サハリン2で液化天然ガスを積み込むLNGタンカー(2021年10月、ロシア・サハリン州)=AP・共同

日本勢との長期契約が切れる30年前後を狙い、じわじわと引き取り枠を広げていく構想を描く。環境負荷の少ない天然ガスは「青空を守る」を公約に掲げる習政権の命綱だ。すでに21年には液化天然ガス(LNG)の輸入量で日本を抜き、購買力も高まる。情勢は日本に厳しい。

23年にはインドが人口で中国を抜く。しかし1人当たりの豊かさでは中国が先行し、それだけ国民のさらなる富への希求も強い。ほかを押しのけてでも爆食を続けなければ、統治の体制が揺らぐ。日本はそんな隣人と向き合い続ける。



ロシア産ガス丸のみ
安価調達、危うい打算

ウクライナへの侵攻で、欧米日などから制裁を受けるロシア。そんなロシアを「下支え」するのが中国だ。

エネルギー価格の高騰に加え、新型コロナウイルス禍による景気低迷が追い打ちをかけ、中国国民の不満は高まるばかり。習指導部は社会不安の解消に向けてロシアからの調達拡大を模索するが、打算の構図には危うさが潜む。

「ガスの配管あり。掘り起こし厳禁」。中国東北部、遼寧省盤錦市。6月下旬、見渡す限り広がるトウモロコシ畑を歩くと、こう書いてある黄色いポールが目にとまった。「地下には、ロシアから届く天然ガスを運ぶ巨大な配管が埋まってるんだ」。この地で農業を営む王洪生さん(73)はそう教えてくれた。

畑の地下にロシアから中国に天然ガスを運ぶパイプラインが埋設されている(6月、遼寧省)

中国とロシアを結ぶ天然ガスの初のパイプライン計画だ。長さは中国内だけで延べ3300キロメートルと、北海道から沖縄の離島まで縦断する距離に相当する。

まず2019年12月にロシアの東シベリアから中国の吉林省までの区間が稼働する。その1年後に遼寧省を経由して河北省までつながり、25年に上海市に到達して完成する見通しだ。ロシアが制裁を受ける現在も、工事が止まる様子はない。

中国政府は計画達成に向けて強権を駆使し、各地で用地の接収や住民の強制立ち退きを進めた。王さんの場合、所有する約2千平方メートルの農地のうち、1割程度の地中に配管が埋まる。20年から約1年間続いた工事期間は農作業はできなかったが、政府からの補償金は3千元(約6万円)超にとどまる。

工事終了後は再び畑として使えるようになった。だが土壌が悪化したためか、収量が以前より1割減ったという。「国の重要プロジェクトだ。庶民はただ命令に従うだけさ」。王さんは力なく笑った。

中国は新型コロナの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策の影響で景気停滞が長引く。そこにロシアのウクライナ侵攻や欧米の利上げが重なり、経済状況は悪化の一途をたどる。足元では22年4~6月期の国内総生産(GDP)が、物価の変動を調整した実質で前年同期比0.4%増にとどまった。

ロシアから中国に天然ガスを運ぶパイプラインの関連施設(6月、遼寧省瀋陽市)

もともと資源を輸入に頼ってきただけに、足元ではエネルギー価格の高騰に伴う物価上昇といった経済の下押し圧力に苦しむ。そんな中国にとって、割安な価格での資源調達が見込めるロシアは魅力的な存在だ。

「低価格のロシア産を使うことで損失を減らしたい」。東部の山東省で製油所を運営する民営企業の幹部は打ち明ける。

同省ではイランとの取引で米政府から制裁を受ける山東海右石化集団など多くの民営企業が製油所を持つ。ただ景気悪化で大半が採算悪化に陥っており、ロシア産原油の大量輸入に踏み切った。

中国の商務省も6月下旬、今年2回目となる非国有企業の原油輸入枠を前年同期の1.5倍に増やすと発表。中国石油化工集団(シノペックグループ)など国有大手3社に比べて制裁リスクの低い地場企業を隠れみのに、ロシア産原油の調達拡大をもくろむ。

共産党幹部の人事を決める5年に1度の党大会を秋に控えるなか、習指導部は自国の安定を優先し、ロシアとの関係を深める。ただ米国は再三にわたり、中国が軍事・経済両面でロシアを支援しないよう警告する。行き過ぎた関係強化は、自国の孤立にもつながりかねない。