牛のげっぷを可視化
温暖化促すメタンを減らせ
世界で排出される温暖化ガスの5%は「家畜の消化器官」から出たものとされており、代表的なのは牛のげっぷに含まれるメタンガスだ。メタンは二酸化炭素(CO2)の27倍の温室効果を持つ。脱炭素が叫ばれる中、畜産の現場でもガスを削減する取り組みが進んでいる。
特殊カメラで撮影
ガス漏れ検知に使う特殊なカメラで、牛を撮影してみた。茨城県つくば市の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)によると、牛の呼気にはCO2、水素、窒素、メタンが含まれる。カメラは呼気からメタンのみを検知するため、鼻先と口から出るガスの輪郭がぼんやりと浮かび上がった。
農研機構では4頭の牛が計測器に頭を入れ、せっせと餌を食べていた。ここでは乳牛の餌の量、排せつ物、呼気などを様々な条件で計測し、環境の変化が牛に与える影響を調べている。

牛の胃には数千種類の微生物が生息し、草を消化してエネルギーに変える。中にはメタンを生み出す微生物もいて、消化の結果、胃にたまったメタンが息に混ざり、げっぷとして外に出る。牛のげっぷは人間のように音を発することは少なく、静かに吐き出す。餌を多く食べる乳牛は、1日当たり約600リットルのメタンを排出するという。農研機構はメタンの排出が通常の牛より2割少ない牛に着目。すると胃に生息する特定の菌が、メタンを減らす働きを持つことが分かった。乳牛精密栄養管理グループの真貝拓三主任研究員は「菌を培養してほかの牛に与えると、ガスを減らせるかもしれない」と期待を膨らませる。
メタン減らす餌を研究
「牛がさも悪者であるかのように扱われている現状を変えたい」と話すのは北海道大学大学院農学研究院の小林泰男特任教授。カシューナッツ由来の成分を餌に添加することで、呼気のメタンが約2割減少することを突き止めた。

他にも天然素材由来の成分を複数テストしており、約5割削減できる可能性のある物質も見つけた。最終的な目標は、2050年までに牛のげっぷのメタンを80%削減し、生産性を10%上げることだ。
(目良友樹、野岡香里那、遠藤彰)