日本の領海とは 脅かす中国やロシア
イラスト解説
沖縄県尖閣諸島付近の領海に中国船が繰り返し侵入している。排他的経済水域(EEZ)内での漁船の違法操業も絶えない。また、3月にはロシア軍艦が宗谷海峡や津軽海峡を通過した。領海とは、接続水域とは、EEZとは何かイラストを交えながら解説する。
領海・接続水域・EEZとは
領海とは基線から12カイリ(約22キロ)の範囲を指す。基本的に他国の漁船は操業できない。ただし、平和、秩序、安全を妨げない限りは外国の船も航行できる「無害通航権」がある。
接続水域とは沿岸から24カイリまでの水域を指す。公海と同じように他国の船も自由に航行できるが、沿岸国は銃器や麻薬の密輸、密入国などを防ぐため、通関や出入国管理に関する自国の法律を適用できる。不審船などを見つけた場合は領海に侵入する意図があるかを考慮し、警告を発することが認められる。
EEZ(Exclusive Economic Zone)とは、沿岸から200カイリまでの範囲で天然資源の調査・開発や漁業活動の管理などの権利がある。また陸地から海底までの地形が地形的・地質的につながっている「延長大陸棚」だと認められれば、200カイリを越えて資源開発などの優先的な権利を主張することもできる。いずれも「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約に基づいている。


中国海軍、沖縄南方で活動
2022年5月上旬以降、領海侵入は確認されていないものの、沖縄県沖の太平洋で中国海軍の空母「遼寧」から艦載の戦闘機などの発着艦が300回以上確認された。また中国軍の東部戦区は9日、台湾の東や南西の海・空域で6~8日に実戦的訓練を実施したと発表。台湾の国防部(国防省)は6日に中国軍の航空機18機が防空識別圏(ADIZ)に進入したと公表した。中国軍が台湾有事を想定した大規模な演習を実行した可能性がある。

津軽海峡をロシア軍艦通過のワケ
領海は基線(国連海洋法条約に基づき、領海の範囲を測定する際に基となる線)から12カイリだが、 国際航行に使用される宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡西・東水道、大隅海峡 の5海峡は「特定海域」に指定。同海域に係る領海は基線から3カイリまでとなる。外国船は沿岸国の安全に影響を及ぼさない「無害通航権」より緩やかな「通過通航権」を保障され、軍艦のほか潜水艦も潜水航行できるとされる。3月10~11日、15~16日にロシア軍艦が太平洋側から津軽海峡を通過し日本海に入った。

絶えぬ尖閣周辺の中国船侵入
2012年の尖閣諸島の日本国有化以降、中国海警局の船舶などの領海侵入が絶えず続いている。日中間の海域は距離的に200カイリの範囲が重なり、EEZの境界線は未画定となっている。日本政府は地理的に同じ距離にある「日中中間線」を引き、日本のEEZとしている。一方、中国は大陸棚延長を理由に沖縄近海までを自国海域だと訴え、尖閣諸島の領有権も主張している。

大和堆で違法操業行う中国や北朝鮮漁船
スルメイカやズワイガニ、甘エビなどの好漁場である日本海の大和堆(やまとたい)周辺で北朝鮮や中国の大型漁船による操業が増加。自国のEEZ内にある漁場に日本漁船の操業ができない異常事態が続いた。17年には大和堆付近で北朝鮮船籍とみられる船舶が水産庁の漁業取り締まり船に小銃の銃口を向ける事態もあった。水産庁が警告を行う回数は21年は大幅に減ったものの脅威は消えていない。

領海を巡るキーワード
国連海洋法条約
海洋を巡る法秩序の包括的な条約として1994年に発効。領海、公海、大陸棚に加え、EEZについて各国の主権の範囲や海洋環境の保護などを規定する。170カ国・地域が締結。日本は96年に批准したが、米国は現在に至るまで批准していない。

特定海域
もともと日本は領海の範囲は3カイリだったが、国際情勢に合わせて1977年に領海法が制定され12カイリに拡大された。ただ、国際航行に使用される5海峡は3カイリのままにしており、外国船が自由に航行できるようになっている。

無害通航権
沿岸国の平和や秩序を乱さなければ他国船が事前通告なく領海を通過できる権利。潜水艦も航行できるが、潜航は認められず浮上して国旗を掲揚しなければならない。接続水域内だったが、18年1月に中国の原子力潜水艦が尖閣諸島周辺を潜航したことがあった。

グラフィックス 竹林香織