ウクライナ侵攻1カ月
マップと衛星画像で見る

攻撃を受けたハリコフの市街地(2月26日)=Image courtesy of BlackSky

ロシア軍によるウクライナ侵攻開始から3月24日で1カ月を迎える。ロシア軍の地上部隊が侵攻した地域を見ると、ウクライナ軍の抵抗で進撃は想定よりも難航しているもようだ。衛星画像と現地の動画で1カ月の戦闘を振り返る。

TOPIC 1

マップで見る1カ月

ロシア軍の侵攻、勢い衰える

ロシア軍の動きをマップで振り返ると、侵攻当初の勢いはウクライナ軍の抵抗により短期間で衰え、支配エリアの拡大に苦戦している様子が分かる。マップのピンク色のエリアは、ロシア軍が支配または侵攻している場所を指す。

ロシア軍はウクライナ国境に配備した地上軍をウクライナ北部(キエフ方面)、北東部(ハリコフ方面)、南東部(ドネツク周辺)、南部(クリミア半島)の4方向から一斉に投入した。3月初旬には南部の都市ヘルソンを掌握。首都キエフ近郊にも迫ったほか、南東部の港湾都市マリウポリを包囲したものの、その後はウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、進軍の勢いは急速に鈍っている。

ロシア軍は戦力を喪失し、指揮系統の乱れで士気も低下している。最近では補給の確保や兵員の補充を優先する必要があり、支配地域をほとんど広げられていない。砲撃などで民間施設を対象にした無差別攻撃を繰り返している。

キエフ周辺やウクライナ南部ミコライウなどではウクライナ軍が一部の地域を奪回するなど、反転攻勢に出始めた。停戦交渉の行方が不透明ななか、戦闘は長引く様相を呈している。

  

避難民、国内外で1000万人

ロシアによるウクライナ侵攻により、多くのウクライナ国民が住まいを奪われている。国内外で避難生活を送るのは1000万人規模に達し、国民の5分の1以上が大きな影響を受けている。

国際移住機関(IOM)によると、ウクライナ国内で避難生活する難民は16日時点で648万人に達する。国外に逃れる人も後を絶たず、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、21日時点でロシア、ベラルーシを含む周辺国への難民数は355万人を超えた。

ポーランドに211万人が渡ったのをはじめ、ルーマニア(54万人)やモルドバ(37万人)などに難民が押し寄せている。ポーランドなどに渡った難民のなかには、域内での移動の自由を認めている「シェンゲン協定」の加盟国などにさらに移動した難民も多いとみられる。

   

抗議行動、約100カ国・地域で3000件超
ロシアのウクライナ侵攻への抗議活動が世界で広がる=武力紛争発生地・事件データプロジェクト(ACLED)

ウクライナ侵攻を受けて、ロシア国内外で抗議デモが広がっている。紛争情報を集める米国の非政府組織(NGO)の武力紛争発生地・事件データプロジェクト(ACLED)によると、ウクライナに関連した抗議活動は2月24日以降、大幅に増えた。抗議活動が起きた地点を青い点で示すと、世界的な広がりが見て取れる。

3月18日までに世界の約100カ国・地域で3000件を超す抗議活動が繰り広げられた。ロシアへの抗議や反原発の訴え、ウクライナとの連帯を示す友好的なデモ活動などの輪が広がり、日本でも全国で約200件の抗議デモがあった。

TOPIC 2

衛星写真・動画で見る1カ月

2月24日
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始、飛行場などにミサイル攻撃

ロシア軍によるウクライナ侵攻は2月24日、防空施設や飛行場、補給基地への攻撃で口火を切った。米国の国防当局者はロシア軍が巡航ミサイルなど100発以上のミサイルを発射したと分析する。首都キエフをはじめ各地で爆発の目撃情報などが相次いだ。

ロシアのプーチン大統領は24日早朝に国営テレビで放送したビデオ声明の中で「ロシアは特別軍事作戦を行う」と表明。「(ウクライナ東部の住民が)ロシアに支援を求めている。ウクライナ政権によるジェノサイド(集団殺害)にさらされている人々を保護するために(地域の)非軍事化を目指す」と侵攻の理由を説明した。

ロシア軍の攻撃でミコライウ飛行場では航空機や滑走路が損傷した(2月24日)=米Planet Labs PBCの衛星写真を日経が加工

米衛星運用会社のプラネット・ラブズがウクライナ南部のミコライウの軍用飛行場を撮影した24日の衛星写真には、駐機中の航空機や滑走路が損傷を受けた様子が写っている。ロシア軍による空爆があったとみられる。

  

2月26日
ロシア軍、市街地も標的に

当初、ロシア軍の攻撃は飛行場などの軍事インフラへのミサイル攻撃が中心だった。ウクライナでの制空権確保が狙いだったとみられる。ただ、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、次第に市街地も標的にし始めている。

攻撃を受けたハリコフの市街地(2月26日)=Image courtesy of BlackSky

米衛星運用会社のブラックスカイがウクライナ第2の都市ハリコフを写した26日の衛星写真では、地表に多数の黒い模様ができている。同社はロシア軍の砲撃でできたクレーターだとみている。グーグルマップで周辺を調べると、付近にはスーパーマーケットやガソリンスタンド、幼稚園などの民間施設が点在している。

  

2月27日
ロシア軍、キエフ郊外で足止め、抗議デモ世界に拡大

27日もロシア軍はウクライナ侵攻作戦を継続したが、ウクライナ軍の激しい抵抗によりキエフ中心市街地には侵入しておらず、郊外で足止めされていた。各所でロシア軍の損害が伝えられるなか、ウクライナ軍の司令官はキエフの西にあるジトーミルでロシア軍の防空システムを無人機で空爆する映像を流した。映像にはミサイルを載せたとみられる車両が破壊される様子が映っている。

ウクライナ各地に戦火が拡大するなか、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモも瞬く間に世界各地へと広がった。25日のロンドン、26日の東京・渋谷に続いて27日にはベルリンの観光名所ブランデンブルク門周辺で10万人以上が集結。参加者は口々に「戦争を止めろ」などと訴え、戦争に反対するとともにウクライナとの連帯をアピールした。

  

2月28日
国境地帯に戦火を逃れる長蛇の列、ロシア軍の大部隊も接近
スロバキアへ逃れようとする車の列(2月28日)=Satellite image ©2022 Maxar Technologies

米衛星運用会社のマクサー・テクノロジーズがスロバキアとの国境に近いウクライナ西部の都市を撮影した28日の衛星写真には、多くの車両が長い列を作っている様子が写っている。マクサーはスロバキアへの入国を待っていると分析する。戦火を逃れて隣国へ渡ろうとしている人々とみられる。

食料品店に集まる大勢の人々(2月28日)=Satellite image ©2022 Maxar Technologies

マクサーがキエフ西部を撮影した28日の衛星写真には、建物の周囲に大勢の人々が集まっている様子も写っている。マクサーは建物が食料品店だとしている。戦況が悪化する前に食べ物を確保しようという市民の危機感がうかがえる。

キエフ近郊のロシア軍の車列(2月28日)=Satellite image ©2022 Maxar Technologies

マクサーがキエフの北部を撮影した28日の衛星写真には多くの車両が写っている。マクサーはロシア軍の戦車や装甲車、補給車などが一帯で40マイル(約64キロメートル)の列を作っていると分析する。キエフ制圧を狙う部隊とみられる。

   

3月4日
欧州最大級の原発で火災、ロシア軍が制圧

ロシア軍は3月4日、ウクライナ南部にある欧州最大規模のザポロジエ原発を制圧した。ウクライナのクレバ外相によると砲撃を受けた施設で火災が発生。ザポロジエ原発の公式ユーチューブの投稿動画では、建物に向かって閃光(せんこう)のようなものが幾筋も伸びていく様子が確認できる。一部の建物が炎上して煙を上げているようにも見える。火災はその後、鎮火した。

  

3月9日
産科病院に空爆、民間施設の被害続く

ウクライナ側は9日、南東部マリウポリで産科病院をロシアが空爆したと非難した。ゼレンスキー大統領はツイッターで動画を公開し「産院にロシア軍の直接攻撃。大人や子供が残骸の下敷きになっている。残虐だ」と述べた。

破壊されたショッピングモールと食料品店(写真下部のボタンで操作)

市民が日常的に利用する民間施設も攻撃対象となった。9日にマリウポリの別の場所を撮影したマクサーの衛星写真には、大きく損傷を受けた施設が写っている。2021年6月21日の写真と比較すると、建物が黒く焼け焦げ一部では屋根が壊れているように見える。同社は破壊されたショッピングモールと食料品店だとしている。

   

3月14日
ロシア国内でもウクライナ侵攻への抗議広がる

ロシア軍によるウクライナの民間施設への攻撃が次々と明らかになるなか、ロシア国内でもウクライナ侵攻に抗議する動きが広がった。14日夜には国営テレビ「第1チャンネル」に勤めるマリーナ・オフシャンニコワ氏が「戦争反対!」と叫びながらニュース番組の生放送中にスタジオへと乱入した。キャスターの背後で「プロパガンダを信じるな」と書かれた紙を掲げた直後に別の映像に切り替わり、オフシャンニコワ氏は警察当局に拘束された。

オフシャンニコワ氏の動画は、ロシアの主要SNS「フコンタクテ」や通信アプリ「テレグラム」で広く拡散し、国民の間でウクライナ侵攻への反発がくすぶっていることをうかがわせた。

  

3月16日
市民避難の劇場が大破、ゼレンスキー氏の偽動画も
空爆前の劇場(3月14日)=Satellite image ©2022 Maxar Technologies

マリウポリでは16日、ロシア軍の激しい空爆によって市民の避難所になっていた中心部の劇場が破壊された。空爆前の14日にマクサーが撮影した衛星写真では道路上の2カ所に大きく描かれた文字が確認できる。マクサーはロシア語で「子ども」と書かれていると説明する。子どもの存在を知らせ、ロシア軍による攻撃を防ぐ狙いがあったとみられる。

空爆後の劇場(3月19日)=Satellite image ©2022 Maxar Technologies

19日の衛星写真では屋根が崩れるなどして大きく壊れた劇場の姿が確認できる。

今回の戦争ではサイバー空間を駆使して戦う情報戦も激しい。SNSのフェイスブックを運営する米メタは16日、ウクライナのゼレンスキー大統領の偽動画を発見し、削除したと明らかにした。同国の兵士や市民にロシア側への投降を呼びかけていたとみられる。人工知能(AI)で本物のようにみせかける「ディープフェイク」という技術が使われた。

  

3月19日
ゼレンスキー氏「今こそ対話を」

ロシア軍による攻撃でウクライナ市民の犠牲が増え続けるなか、ゼレンスキー大統領は19日のビデオ声明で「対話はロシアが過ちによる被害を減らす唯一の手段だ」と述べ、ロシアに停戦交渉を急ぐよう呼びかけた。ただ、停戦条件を巡る双方の主張には隔たりがあり、対話の行方は見通せない状況が続く。

TOPIC 3

戦力損失で見る1カ月

戦闘開始から1カ月が経過し、ロシア軍とウクライナ軍の戦力損失状況が明らかになってきた。軍事アナリストが両軍装備の損失状況をまとめたサイト「Oryx(オリックス)」によると、ロシア軍は開戦から22日までに戦車やトラックといった地上軍のものを中心に1700を超える装備を失った。中には最新鋭の主力戦車も複数含まれ、戦車の数で劣りながらも対戦車ミサイル「ジャベリン」などを駆使して戦うウクライナ軍に苦戦している様子がうかがえる。

ウクライナ軍は同じ期間に500を超す装備を失った。ロシア軍と比べると損失数は少ないが、国際戦略研究所(IISS)の「ミリタリー・バランス」を基に総戦力に対する損失状況を試算すると、ウクライナ軍の苦境が浮かび上がる。陸軍が保有する戦車と自走砲の損失率がそれぞれ8.0%と1.9%で、数字上はロシア軍と互角。

空軍が保有する航空機の損失率は、ロシアの1.2%に対してウクライナは8.8%、陸軍が保有する地対空ミサイル設備はロシアの2.1%に対してウクライナは22.2%と差が顕著だ。ウクライナ軍が航空戦で苦戦していることが分かる。

ロシア国防省は19日、音速の5倍以上の速度で飛行する極超音速ミサイルを使用したと発表した。超高速かつ不規則な軌道で飛行するため迎撃が困難とされる。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、ロシアが地上軍による攻撃の失敗を受けて長距離爆撃への依存を強めていると分析する。

  

編集
佐藤賢、黄田和宏、斎藤一美、伊地知将史