空爆で制空権 衛星写真・SNSで見るウクライナ侵攻
ロシア軍の攻撃によって停留していた軍用航空機や滑走路、空港設備への被害が生じている(米Planet Labs PBCの衛星画像を日経が加工)
ロシア軍は24日に始めたウクライナへの軍事侵攻で、まず飛行場など軍事施設を照準にミサイルで攻撃した。主要な空港を制圧して制空権を確保したうえで、地上軍を本格投入したとみられる。侵攻後に撮影された衛星写真からは、ミサイル攻撃で戦闘機や管制塔など重要装備をピンポイントで急襲した跡が映る。
衛星写真

ウクライナ南部 ムィコライウ(地図①)
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左は21日、右は24日の写真
攻撃機スホイが被害
ウクライナ南部のムィコライウの軍用飛行場の衛星画像を2月21日と24日で比べてみる。米衛星運用会社のプラネット・ラブズが提供する画像で、21日にあった攻撃機スホイとみられる航空機2機が24日には被害を受けている。ロシア軍の空爆とみられる。

ムィコライウの軍用飛行場を撮った別の衛星画像では、滑走路や空港の設備にも損傷が見られる。
ウクライナ北東部 チュフイウ(地図②)
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左は空爆前、右は空爆後の写真
滑走路は壊さず設備を狙う
ロシアとの国境に近いウクライナ北東部のチュフイウを見てみる。米衛星運用会社マクサー・テクノロジーズは24日に撮影した画像について「石油貯蔵施設や空港の設備への損傷が見られる」と分析する。石油貯蔵施設が壊されたため黒煙が上がっている。

防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は「衛星写真を見ると、軍事施設をピンポイント攻撃しており、命中精度は高い。滑走路は壊さず、兵士や兵器を搬入できるようにしている」と分析する。「軍事施設の破壊を24日にほぼ終え、制空権を確保したのではないか。これからは地上部隊を本格的に投入していく」との見方を示す。
タス通信によるとロシア国防省は24日、ウクライナへの空爆で飛行場などの軍事インフラ施設83カ所を破壊したと発表した。制空権を巡る争いで、軍事大国ロシアに戦力で劣るウクライナの反撃には限界があったとみられる。
大規模な戦闘作戦は通常、複数の段階に分かれる。初期段階は制空権の確保だ。空から敵機が攻撃するリスクを減らし、次は地上部隊が本格侵攻する段階に入る。侵攻前に撮られた衛星写真ではロシア側のウクライナ国境近くに重装備の地上部隊がいるのが確認されていた。
攻撃、爆撃被害 市民がSNSに投稿
未明の空に閃光
24日、ロシア軍が首都キエフ近郊まで迫り、ウクライナ市民らが戦闘の様子や爆撃による被害の映像をSNS上に投稿している。25日未明には、キエフ上空で起きた大規模な爆発を市民のカメラがとらえた。また、チェルノブイリ原子力発電所や空港などの複数の施設がすでにロシア軍に占拠されたようだ。ウクライナから脱出する人も多く、市民生活は大きな混乱に陥っている。
キエフの人口、侵攻から10時間で2割減

キエフではロシアによる侵攻を受けた直後から、多数の市民が脱出する状況が人流データから見えてくる。米衛星情報会社オービタル・インサイトがスマートフォンなどの位置情報から計算したキエフ周辺の推計人口は、侵攻前は540万人前後だったが、侵攻から約3時間後の24日午前8時から急減。同10時間後の午後3時には、前日比20%減の440万人まで減少し、人口が急速に流出している。


同社のデータを使って、24日午前7時台のキエフ市内の人流を地図上で可視化した。色が赤いほど人口密度が高いことを示す。市の中心部を流れるドニエプル川にかかる橋や主要な幹線道路は赤やオレンジ色で表示されており、激しい渋滞が起きている。この時点では侵攻開始から2時間しかたっておらず、情報を聞いた市民がほぼ着のみ着のままで脱出を図った可能性がある。前日の23日午前7時台の人流地図と比較しても、通常とは異なる人の動きが生まれていることがわかる。

(佐藤賢、朝田賢治、並木亮、斎藤一美、淡嶋健人、松島春江、染川祐佳里)