コンサート、旅行どうなる?
制限緩和の現場ルポ

新型コロナウイルス対策の行動制限を一定の条件下で緩和する「ワクチン・検査パッケージ」の実証実験が各地に広がってきた。イベント、観光、飲食店などの事業が対象。政府は来場客のワクチン接種証や陰性証明を確認する現場オペレーションに問題がないか、事後に発症がないかなどの検証を行い、課題の洗い出しを急ぐ。

足元では感染状況が落ち着いてきているが、冬場には「第6波」の到来が懸念される。感染対策と経済再開を両立する新しい日常は始まるのか。各地で行われる模索の現場をリポートする。


TOPIC 1

コンサート

接種証入りQRで迅速入場

スマホを読み取り機にかざして入場(23日、千葉市の幕張メッセ)=手前のQRコード画面はデモ用

23日、幕張メッセ(千葉市)に1万人超を集めて行われたロックバンド「ラルク アン シエル」のコンサート。来場客は身分証明書を提示したうえでスマートフォンをかざし入場していく。電子チケットアプリのQRコード情報にワクチン接種証や陰性証明を取り込むことで、受付での混雑や書類紛失などのトラブルを回避する実証実験が行われた。

実証実験枠の観客は健康情報管理アプリに公演前3日間の体温や症状を登録し、ワクチン接種証の写真をアップロード。接種証のない人は提携医療機関から送付された検査キットに唾液を採取して返送するPCR検査か、オンラインまたは動画アップロードによる抗原検査を受けた。検査結果は医療機関が被検者のアプリに通知し、プラットフォームを通じて電子チケットアプリのQRコードにも情報が取り込まれる。入場時に紙のワクチン接種証や陰性証明を取り出す必要がなく、陽性者が入場することも防げる。

検査を請け負ったチームメディカルクリニックの小橋大恵理事長は「PCR検査は公演3日前、抗原検査は前日に行う必要があり、指定された期日を守れない人もいた。日程が限られるので数の限界もある」と課題を指摘したうえで、「抗原検査の自撮り動画アップロードについては、将来は人工知能(AI)解析と組み合わせることで自動化できるかもしれない」と話す。

来場客は声を出さずにコンサートを楽しんだ

オンラインで抗原検査

ワクチン接種証のない人はPCR検査のほか、オンラインまたは動画アップロードによる抗原検査が必要。オンラインでは医療機関のオペレーターの指示に従い、検査を進める。検体採取後、検査キットをカメラに向け、10分ほどで終了した。


TOPIC 2

スポーツ観戦

間隔なしで着席

間隔をなくした座席から応援する観客(24日、愛知県豊田市の豊田スタジアム)

サッカーJリーグやプロ野球など、スポーツイベントはいち早く実証実験をスタートした。J1名古屋グランパスは6日に続き24日にも、豊田スタジアム(愛知県豊田市)で開催されたJリーグの試合で実施。上限人数の1万人に加えて、ワクチン・検査パッケージ席として1万3000人分を用意し、うち6000席は座席の間隔をなくした。間隔を空けない運用はJリーグが中断した2020年2月以来、約1年8か月ぶり。

岐阜県大垣市から家族で訪れた会社員の西岡和人さん(35)は、隣と席の間隔がない連席のチケットを購入した。「子どもがいると席の範囲が広くなっていたので連席は楽。ただ別のグループとの間は1席空けてほしい」と話した。今季のJリーグの試合で最多となった1万9257人の観客は、声援を抑えながら拍手や手拍子で試合を盛り上げた。

スタジアムの外に設けられたワクチン接種証や陰性証明の確認ブース

名古屋グランパスはワクチン接種証や陰性証明を確認する特設ブースに50人のスタッフを配置し、混雑状況に応じて最大40窓口まで増やせるようにした。ブースはスタジアム入り口から少し離れた駐車場に設け、広い動線で混雑緩和を図った。証明書などの確認は1分ほどで済むが、チケットに確認スタンプを押すためコンビニでの発券が必要。一般客のようにオンラインで購入しQRコードを提示して入場する仕組みは利用できない。同社広報コミュニケーション部の梅村郁仁部長は「もっとスムーズに入場できる運用を考えていきたい」と話した。

観客のマスク着用率を解析するために産総研が設置したビデオカメラ
証明書確認ブースの混雑具合を計測するレーザーレーダー

産業技術総合研究所(産総研)はスタジアムにカメラやレーザーレーダーを設置して、マスクの着用率や入場者の混雑状況を調査した。同研はJリーグなどと、再び感染が拡大しても安全に開催できる観戦様式を模索。感染者がスタジアムにいた場合にマスクの有無、客席の配置、声出しの有無などでリスクがどのように変わるか計算シミュレーションする。AI解析を担当する同研の大西正輝さんは「様々な状況下で、リスクを抑えつつ多くの人が観戦できる配席やルールを提案していきたい」と話す。

マスク着用、距離保つ

産総研は6日に同スタジアムで実施した調査結果を公表した。試合中のマスク着用率は平均で93%程度だった。大西さんは「ワクチン接種が普及する前と比べても着用率は下がっていない。海外では接種後にマスクを着けなくなる人もいるが、日本の感染予防に対する意識の高さが表れている」と話す。

マスク着用率計測

カメラ撮影とAI画像解析で測定した(表は産総研提供)
■対象席と通常席での比較=試合中いずれも93%と同程度
■過去5試合との比較=いずれも平均93%と大きな変化なし

人流計測

レーザーレーダーで測定した(表は産総研提供)
■受付ブースでの入場者間の平均距離を計測
■試合開始前の混雑時間帯でも、半径2メートル以内の平均人数は2人ほど


TOPIC 3

飲食店

時短解除で実効性に疑問も

実証実験は飲食店にも拡大し、21日には全国に先駆けて京都府内の23店で始まった。府は22日から飲食店への営業時短要請を解除する一方で「1テーブル4人以内、2時間まで」のルールを呼びかけるが、実験対象の店舗には適用しない。2回目のワクチン接種から2週間の経過を示す接種証か3日以内のPCR検査の陰性証明の提示を客に求めるほか13項目のアンケートも実施し、手続きが店選びに影響するかなどを調べる。

「恐れ入りますが、はじめに接種証明を確認いたします」。京都市内の料亭「嵐山辨慶(べんけい)」には21日、会社経営者ら6人のグループが訪れ、それぞれがワクチン接種証と身分証明書を提示した。用意された定員30人の畳敷きの宴会場には1人がけの座席6つが十分な間隔を保って並べられ、窓際には二酸化炭素(CO2)センサーも設置された。男性客は「(証明書などの提示は)負担とは感じなかった。一緒に食事する人が安心できるなら当然すべきこと」と仲間との久しぶりの食事を楽しんだ。

ただ22日には京都府のほか兵庫県が、25日には首都圏4都県と大阪府が飲食店への時短要請を解除し実効性は薄れている。「元の経済活動になんとか戻したい」と参加した嵐山辨慶の磯橋輝彦社長は「手を挙げるメリットがあるのかどうか」と不安を漏らす。さらに飲食店は料亭や居酒屋など業態が様々で、異なる基準が必要だと課題を指摘した。


TOPIC 4

旅行

「GoTo」再開にらみ、団体ツアー

ワクチン接種証や健康チェックシート(写真左下)を提示するバスツアーの参加者(17日、相模原市)

観光庁は旅行会社11社のツアー40本を対象に、県境を越えた移動制限を緩和する実証実験を行う。政府の観光支援事業「Go To トラベル」再開に向け、成果が注目される。

17日、首都圏から山梨県内のブドウ園などを訪れる日帰りバスツアーが開催された。参加者は受け付け時にワクチン接種証と体温などを記入した健康チェックシートを提示してバスに乗り込んだ。サービスエリアでの休憩後など折々のタイミングで、添乗員がアルコールスプレーで乗客の手指を消毒。密を避けるためバスの定員は7割に抑え、車内では飲食やおしゃべりを控えるよう呼びかけるなど、旅行会社は感染防止策に注力し乗客の不安を払拭しようと気を配った。

旅行業界は最大手のJTBが過去最大の赤字を出すなど、コロナ禍で需要低迷が長期化している。特に団体旅行を取り扱う事業での痛手が大きい。ツアーのランチを提供した観光施設「信玄館」の山野壮仁社長は「700席の座席を500席に減らし、パーテーションを自作するなど万全の感染対策を施したが、売り上げはコロナ前の20分の1程度」と嘆く。

ツアー参加者は観光庁が用意したアンケートに回答し、旅行後2週間をめどに健康状態の確認を受ける。孫娘(20)と一緒にブドウ狩りを楽しんだ谷本沢子さん(83)は「接種証や陰性証明の提示があると安心できる。きょうは久しぶりに楽しめた」と話し、孫娘ともぎたてのシャインマスカットをほお張った。


紙の接種証、陰性証明、健康チェックシート、アンケートのやりとりには、紛失や個人情報管理のリスクがつきまとう。デジタル化しても漏洩事故の心配がある。セキュリティーと利便性を両立した、誰もが安心できる技術の開発が待ち望まれている。

(小園雅之、柏原敬樹、目良友樹)