「起業したい」が入居条件 Z世代が集うシェアハウス

「若い世代のアウトドア体験をアップデートしてみては」「Z世代のクリエーター集団をつくりたい」「アンダー20のオンラインインターンを」――。新しいアイデアが続々と出てくるビジネスコンテストで、夢を実現させようと参加者たちが熱いプレゼンを繰り広げる。舞台は起業を志す「Z世代」が集まるシェアハウス「U25起業家シェアハウス」だ。Z世代とは1990年代後半以降に生まれた現在20歳代を中心とした世代で、デジタルネーティブという特徴を持つ。ここでは起業家として成功を目指すZ世代たちが、互いに刺激を与え、将来の夢を語り合う。


教育・学習支援業のHeimat(ハイマート、東京・港)は、25歳以下の起業家または起業を目指す人を対象としたシェアハウスを運営する。新型コロナウイルスの影響で客数が減少したホテルなどの一部を借り、約1カ月間にわたって共同生活できる空間を提供する。参加費用はホテルの宿泊料金のみで、長期宿泊のプランを使うことで参加者の出費を抑えている。2020年12月にスタートし、過去7回の開催で総参加者数は250人を超えた。

参加者たちのアイデアで壁が埋め尽くされる(7月28日)

シェアハウスでは週に1度、各自のアイデアの事業化に向け具体的な計画をつくるワークショップが行われる。ワークショップもまた、コロナによる影響で営業時間を短縮するカフェバーなどのスペースを活用して行っている。参加者はメンターからの助言をもとにユーザーヒアリングや検証などを行い、起業家としてのいろはをたたき込まれる。プログラムの最終段階にビジネスコンテストが開かれ、協賛のベンチャーキャピタル(VC)の担当者の前で、各参加者が練り上げた起業のアイデアをプレゼンする。優勝すれば資金調達のチャンスが与えられ、起業家への道もいよいよ現実味を帯びてくる。

7月の第6期生は「パッション」をテーマに約40人が集まった。生活を共にしながら、毎晩のようにお互いのビジネス構想や考え方をじっくり語り合っていた。運営するHeimatの代表と、参加していた男女4人に起業のきっかけと目標について聞いた。

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主催者代表もZ世代起業家

「U25起業家シェアハウス」代表の日高隆之介さん

「起業をライフスタイルのひとつにしたい」と話すHeimat代表の日高隆之介さん(21)。大学1年からベンチャー企業のインターンを経験するなか、2020年11月から「U25起業家シェアハウス」事業の立ち上げに携わることに。人手不足に加えて準備期間が短く、何度も行き詰まった。そんな逆境をむしろやりがいに感じ、自ら志願して年が明けた1月に代表を譲り受けた。会社の登記も完了し、春には大学中退を決めて起業家への道を踏み出した。

最初の第0期生の時は「何からはじめて、どうやってアイデアを出したらいいのか」と、運営側・参加者側ともに手探り状態だったという。インターネットや参考書は情報量が多い半面、何が重要かよく分からない。何を学びたいかを話し合い、みんなでコミュニニティーを作り上げていった。卒業後も顔を見せる人たちが多く、強いつながりが新たなビジネスを生み出す好循環を生んでいる。

「起業をライフスタイルのひとつにしたい」と代表の日高隆之介さんは考える

日高さんは学生時代に海外留学した際、若い人が失敗を恐れずに起業にチャレンジするのを目の当たりにし、「他者理解と自己理解を深めて、自分の人生は自分で決めることが大切」と思った。日本でも起業が就活の1つの選択肢のようにできれば、人生の選択肢を広げるきっかけになるのではと考える。

シェアハウスでは参加者同士の横のつながりが強く、夢や将来について相談できるメンターがそろう。「コロナ禍の今だからこそ、人とのコミュニケーションを大切にし、あらゆる社会問題を解決する若手起業家を増やして日本を盛り上げたい」。そして「好きな仕事をして、好きな時に休めるように概念を変えていきたい。起業の文化を僕たちZ世代で広めていきたい」と意気込む。

入居者を年齢別にみると、約7割は自分の将来を考え始める21~23歳が占めている。19~20歳が次いで多く、大学在学中に起業を考える学生が相当数いる。男女別では男性の方が多く、女性はおよそ2割にとどまる。

ビジネスコンテストで発表者のプレゼンを評価するベンチャーキャピタルの担当者(7月28日、東京都新宿区)
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学生の貧困を解決したい

学生起業家の斎藤峻輔さん

「学生の貧困を解決したい」と語るのは学生起業家の斎藤峻輔さん(23)。コロナ禍でアルバイト収入が減るなど、経済的に厳しい学生が増える現状を目にし「お得なサービスで力になれたら」と思い起業した。渋谷区の飲食店を対象に学生割引をまとめたアプリ「GAKUWARI」を開発した。ダウンロードするだけで、その日から学割を利用できる。

少しでも支出を減らして、浮いたお金を本当に必要なものに充ててほしいと斎藤さんは考える。「学生を応援したい」「学生の来店が売り上げにつながる」という飲食店と提携し、8月現在約20店舗の学割を掲載している。大手外食チェーンから個人経営の飲食店まで幅広くコラボしている。

「GAKUWARI」の事業メンバーと(7月28日、東京都新宿区)

ビジネスコンテストでは事業の進捗状況について発表した。会員数は徐々に増えていて、年末には約3倍にまで広げる目標を掲げる。ほかにも、学生認証の代行サービスや学生向けのアフィリエイト(成果報酬型の広告)などを提案し、新たな需要を生み出そうと知恵を絞る。「ユーザーに役立つサービスを本気で考えている。時々大きなチャンスが舞い込むし、少しずつ手応えも感じてきた」。世界の生活の質(QOL)を最大限に向上させるというビジョンを胸に、来月はさらに事業の拡大をめざす。

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いじめられた経験を糧に

高校卒業を待たずに会社を設立した前田あかりさん

高校生で起業した前田あかりさん(19)は、「いじめられていた当時の自分がほしかったサービスを提供したい」との思いから事業を始めた。自らもいじめの被害に遭い、家出をしていた時期もあった。被害者の心情を理解できる自分ならではの事業をしたいと、現在はいじめの法的措置を助けるサービスを開発中だ。

起業の知識はゼロだった前田さんだが、「曖昧な記憶がつながらず証言が証拠にならない悔しい思いをした」といういじめ被害者の声に、精神的にも体力的にも負担が大きい法的対処をもっと簡単にできないかと考えた。高校卒業を待たずに会社を設立し、IT(情報技術)関連企業のインターンを経験しながら事業の展開を目指すなか、シェアハウスの存在を知り入居した。6月末には第5期生のビジネスコンテストで「いじめと訴訟」のテーマで優勝した。

「いじめられていた当時の自分がほしかったサービスを提供したい」との思いから事業を始めた前田あかりさん(右から2人目)=7月14日、東京都新宿区

それから1カ月後の7月末、サービス実現に向けた事業計画を策定した。法律事務所や弁護士会の協力を得て、ヒアリングや資料の作成など事業の実現に向けて奔走する。「一人で全部やるには限界がある。仲間をつくることだ」とVCからのアドバイスを受け、アイデアをどれだけ実行できているか推進力を試されていると感じる。8月は協力者を増やすことで、さらに計画を進めたいと考える。

「進学や就職はいつでもできる。今一番やりたいことをしよう」。シェアハウスでは応援してくれるメンバーが前田さんの背中を押してくれる。「ここに入って着実に成長していると感じる。すごく居心地が良い『家』みたいな感じ。自分が生きる道は起業しかない」との思いが強まったという。理不尽なことで苦しむ人たちを救いたい一心で突き進む。

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型にはまらない生き方をしたい

同世代の貧困をなくすことを目標に掲げる井伊晴美さん

井伊晴美さん(26)は、「地方の学生が自ら選択肢を増やせる環境を作りたい」と考えて、4月からシェアハウスに参加している。地元の静岡県で若者が起業するのは一般的ではなく、学校を卒業すると周辺の工場や飲食店、建設業の仕事に就く人が多いことから、働く場所の選択肢が少ないと感じた。お寺の住職である日本人の父とフィリピン人の母との間に生まれ、三姉妹の末っ子として育った。大人になるにつれ「決められたレールを進むのは面白くない。自分ができることにかけてみたい」と考えるようになった。SNS(交流サイト)でシェアハウスのことを知り、思い切って入居を決めた。

メンターと議論を重ねる井伊晴美さん㊨(7月14日、東京都新宿区)

同世代の友達は小さい子供がいるママが多く、お金がないうえに働く選択肢が少ない悩みを打ち明けられることもあった。コロナ禍で普及したオンラインによるインターン制度から起業するヒントを得た。「まずは若い学生が、自分たちで目標を見つけられる」ような環境をつくることを目指して準備を進めている。

この数回のビジネスコンテストで、高校生向けや20歳以下のオンラインインターンを提案してきた。「課題設定は合っているのか。本当に需要があるのか」。参加する度に何度も自問し、納得するまでチームメートと議論を重ねている。将来的には「型にはまらない選択肢が当たり前の社会を実現し、主体性を持って行動できる若者が増える未来の実現に貢献したい」との理想を掲げる。

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「面白い」をとことん追求

大学を中退して起業に取り組む辰巳卓也さん

7月から初めて参加した辰巳卓也さん(24)は、「一番楽しいことをやっていくには事業をつくり続けることが大事だ」と起業家志望の理由を語る。地元の大阪を離れ東京の大学に進学したが「面白い」と感じなくなり中退した。スタートアップ企業で1年間インターンとして働いてみたものの、「普通に働くことがしんどい」だけだった。高校時代から持ち続けていた「起業したい」という思いを強め、2020年4月に独立した。周りは金もうけが目的の起業家ばかりに映り、「熱意がある仲間をつくりたくて」シェアハウスの入居を決めた。

大学にも企業にも魅力を見い出せなかったという辰巳卓也さん(7月14日、東京都新宿区)

辰巳さんは、「本当に自分がやりたいことに向き合って、熱いことをやっている人ばかり。新しい刺激をもらえる環境だ」とシェアハウスでの経験を振り返る。興味がある事業は「睡眠」や「クリエーターエコノミー」など、明らかに伸びていくと見定めた業界に注目する。「お金もうけは当たり前。人やモノを動かす力を手に入れたい」

ビジネスコンテストを終えて「得られたものもあるが、やり切れなかった部分もある」と悔しい思いもした。一方で、「どこまでいけるか分からないけど、自分のやりたいことは明確にできた」と収穫もあった。1カ月間のみの参加だったが「話を聞いているだけで楽しかったし、本気で取り組む人と良い経験ができた」という。これからも「面白いこと」を追いかけて、起業に挑戦する決意を新たにした。

世界を変えるような経営者がこの中から現れるかもしれない