帰還困難区域から牛を救出

 福島県浪江町で牧場を運営する「希望の牧場・ふくしま」は4月18日、東京電力福島第1原発事故のため、同県大熊町の帰還困難区域内に残されて野生化した牛15頭を浪江町の牧場に移送する作業を行った。同牧場には既に約350頭の牛が保護されており、今回新しく加わる15頭が完璧な世話を受ける保証はない。それでも持ち主の鵜沼久江さん(60)は「1日でも長く生き延びてほしい」と牛たちを吉沢正已代表(59)に託した。 (30日 22:19)

「殺処分か、保護か」の二択を迫られたものの、埼玉に避難中の鵜沼さんに直接飼育する余裕はなく、吉沢さんの力を借りることになった。大型トラックに載せられる鵜沼さんの牛(4月18日、福島県大熊町)

  • 約30ヘクタールの「希望の牧場」には殺処分の通達を受けている約350頭の被曝(ひばく)した牛が暮らしている。少ないボランティアによる保護活動のため、世話できる限界を超えた頭数となっているが「殺処分を拒否した飼育主の思いを無視できない」と吉沢さんは15頭の受け入れを決めた(福島県浪江町)
  • 人通りが絶えたままの大熊町の市街地(4月7日)
  • 福島県双葉町で約50頭の牛を飼育していた依頼主の鵜沼さんは、現在は埼玉県久喜市で避難生活中。震災後、野生化した牛たちは保健所に何度も捕獲されたが、鵜沼さんは一貫して殺処分を拒否してきた。だが、野生化した牛と自動車の事故をきっかけに、ついに希望の牧場への移送を決めた
  • 県家畜保健衛生所が設置した柵の中にいた牛を大型トラックに載せるボランティアたち。福島第1原発に隣接しているため、柵の雨どいの下の放射線量は50マイクロシーベルト前後を測定した
  • 新しい耳標を付けられる牛
  • 獣医師が2歳半の雄牛の去勢手術と除角作業を行った。鵜沼さんは「野戦病院のようだ」とぽつり。震災前、まだ小牛だったころにミルクをやった記憶がよみがえる。「除角は通常、生後半年までにやる作業。大きくなればなるほど、手術による体力の消耗は大きいはず」と心配そうに見つめた
  • 麻酔が効いたままの牛を牛舎から出すボランティアたち。約500キロの重さだという
  • 「希望の牧場・ふくしま」に到着し、麻酔から覚めてトラックから降りる牛。必死の保護活動が続く牧場だが、これまで100頭以上が死んできた「牛の墓場」でもある。鵜沼さんは「『野良牛』で生死すら分からないままでいるよりも、死んだ場所が分かる方が、少しは心が落ち着く」と複雑な心境だ。「福島の現実を一人でも多くの人に見て、体感してほしい」と吉沢さんは話し、同牧場の見学を歓迎している=写真 小林健