警戒区域内に生きる牛

 福島第1原発から14キロに位置する「エム牧場」の吉沢正巳牧場長(58)は、国による警戒区域内の家畜の殺処分要請を拒否し、民間団体の支援などを受けながら約350頭の牛の飼育を続けている。浪江町と南相馬市にまたがる同牧場を訪ねた。 (22日 20:45)

エム牧場で暮らすやせ細った牛(1月13日、福島県浪江町)

  • 餌のモヤシかすに群がる牛たち。エム牧場では、吉沢さん所有の肉用牛だけでなく近隣の農家の乳牛も受け入れ「希望の牧場」として、被ばくの研究対象として牛を生かす方法を模索してきた。1年前は約6マイクロシーベルトだった空間線量は、3マイクロシーベルト前後まで下がったものの、牛たちの日々の暮らしに大きな変化はない
  • 吉沢正巳さんは震災直後から、軽トラックで東京に行き畜産農家の窮乏と変わり果てた町の姿を訴え続けてきた。「牛飼いの意地と誇りだけでやってきただけ」と話す
  • 地震による地割れが牧場を分断する。復旧のメドはたっていない
  • うず高く積み上げられたえさのワラが入ったロール
  • 地震の被害でぼろぼろになった牛舎から望む牧場
  • 20ヘクタールもの広大な牧場地を、吉沢さんとわずかなボランティアが世話をしており、人手もインフラの整備も十分とは言えず、震災以降、100頭以上の牛が死んだ。自然交配で新たな命も生まれるが、完全には目が行き届かないのが現状だ
  • 2012年末、ボランティアが集まり、牛たちの骨などを拾い集め牧場の一角に埋葬した。埋葬地には牛たちを弔う石が積み上げられていた
  • 埋葬地に姿を現した野鳥。後方にはまだ埋められていない牛の姿が
  • 早朝、牛の世話をするボランティアの吉川和行さん(左、37)は神奈川県から毎月訪れる。吉沢場長は「観光でもいい。一人でも多くの人にこの現場を見てほしい」と話す。吉沢さんも語り部として全国をめぐることを目標にしている(1月13日、福島県浪江町)=写真 小林健