旧警戒区域で続く介護

 福島第1原発事故で自宅のある福島県楢葉町が警戒区域に設定されて以降も、寝たきりの母の介護のため避難せずに住み続ける夫婦がいる。同町は昨年の8月に避難指示解除準備区域に再編され立ち入りは可能になったが、寝泊まりは禁止されたまま。今年も新年を自宅で迎えた伊藤巨子(なおこ)さん(64)一家を訪ねた。 (10日 21:44)

母親の寿子(としこ)さん(94)に話しかける巨子さん(4日)

  • 伊藤巨子さんは夫の晋さん(60、右)と10年以上寝たきりになっている母親の寿子さんと3人で暮らす。震災直後の退去命令を拒否し、自宅で屋内避難を続けている。「母の身に何かあったとしても、全ての責任をとれるのは私たちだけ」と、無理に移動させ身体に負担を強いることを避け、「ここで死にたい」と語った母の思いを尊重した。自宅前の空間線量は比較的低く1マイクロシーベルト未満だ
  • 上水道は、昨年12月にようやく復旧した。ただ伊藤さん宅では、地震による家屋の修復工事とまとめて自宅内の水道管の漏水確認をする予定で、近くの消防署から水をくむ生活を続けている
  • 1週間に2回、約20リットルのポリンタンク18個分を給水し、風呂おけにためて生活用水として使う。飲料、調理用にはペットボトルの水を使っている
  • 母親の寿子さんは同町初の女性町議になるなど活動的で「自分のことは自分でやるんだ」が口癖。高校卒業後、ドイツで学びたいと言った巨子さんの留学を後押ししたのも寿子さんだった
  • 30キロ離れたいわき市内の郵便局に留め置きされた年賀状を4日、受け取る晋さん。楢葉町は「人命にかかわるケースのため、伊藤さんの決断を尊重したい」と居住を黙認しているが日常生活を送るうえで不便は多い
  • 補償をめぐり東京電力との話し合いが続いており、年金と貯蓄を取り崩しながら生活する日々だが「自分が納得して選んだことに後悔したことはない。母は元気いっぱいだし」と巨子さんは屈託なく笑った=写真 小林健