雨・台風が迫ると体調不良に 自律神経乱れ「気象病」

台風が迫ったときや雨が降る前の片頭痛やめまいに悩んでいる人はいないだろうか。気圧や温度、湿度の変化によるこうした体の不調は気象病と呼ばれる。現状考えられている発症の仕組みや予防法をまとめた。
台風が近づくと、気圧の変化のためか片頭痛がする。雨の日は古傷が痛む。気温が下がると、ぜんそくの発作が起こりやすい気がする。曇天や雨が続くと、うつがひどくなる。気象の変化が影響したとみられる不調は意外に多い。脳血管疾患や心疾患、腰痛や関節痛のほか、首・肩こり、更年期障害、歯周病などの症状が悪化する人もいる。最近では専門外来を設ける医療機関が出てきた。
愛知医科大学病院痛みセンター(愛知県長久手市)の佐藤純客員教授は「もともと抱えていた頭痛などの症状が気象の変化の影響でさらに悪化するケースがみられる」と説明する。気象の変化に体の働きを調整する自律神経が敏感に反応してしまうのだという。近年は夏の猛暑や急な大雨が目立つようになった。夏バテによる食欲不振やだるさ、睡眠不足などが加わると、これまでなかった人でも症状が出てくる可能性がある。
特に気圧の変化が影響してくるのは片頭痛やめまいだ。耳の奥にあって気圧の変化を感じ取るセンサーの役割を果たす「内耳」の働きが関係している。佐藤客員教授によると、気圧の変化が内耳を通じて脳に伝わる過程で自律神経に乱れが生じ、結果として痛みや不調が出てくることがあるという。
かく脳神経外科クリニック(山口市)の郭泰植院長は「診察した片頭痛患者300人以上にアンケート調査をしたところ、7割が気象の変化で頭痛が誘発されているという結果が出た」と明かす。
郭院長は天気や気圧、頭痛の状態、服用した薬などを日々記録しておく「頭痛ダイアリー」を勧めている。続けていくうちに症状の出やすい状況を自ら把握できるようになり、対策を講じやすくなるそうだ。最近では気圧の変化を予想して体調管理に役立てるアプリも登場している。

天気予報を確認すれば、台風や雨といった変化を予想できることがある。片頭痛やめまいが起こりそうな場合、郭院長は「片頭痛の予防薬、内耳に働きかけてめまいを改善する薬などを服用しておくとよい」と指摘する。
低気圧で片頭痛が起きた場合、脳の血管が広がっていると考えられる。コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるカフェインが血管を収縮させ、片頭痛の症状が和らぐ可能性がある。「糖分も血管を収縮させるので、甘い物を食べる手もある」と郭院長。ただしとりすぎには注意したい。
佐藤客員教授は「マッサージで耳の血行をよくすると、痛みを回避しやすい」と助言する。指で耳をつまんで上下や横に動かしたり、回したりする動きだ。日々の習慣にすると、頭痛やめまいが起きにくくなるそうだ。
自律神経は気分の落ち込みや体のだるさなど他の様々な症状にも関係する。佐藤客員教授は「自律神経を整えることができれば、気象変化の影響が少なくてすむ」と強調する。十分な睡眠をとり、日光を浴びる習慣を付け、適度な運動やバランスのよい食生活を心がけるのが大切だ。
新型コロナウイルス禍で在宅勤務が増え、外出が減った人も多いはず。郭院長は「コロナ禍で片頭痛患者の2割近くは頭痛発作が増えたと訴えている」と話す。毎日パソコンに向かって同じ姿勢を続けている人は注意しよう。
季節の変わり目は自律神経の乱れが起こりやすい。体調不良の原因が分からない場合、気象の変化の影響を考えてみるとよいかもしれない。
(ライター 仲尾匡代)
[NIKKEIプラス1 2021年9月11日付]
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