「更年期」とわかるのは閉経後 40歳過ぎたらケア開始
女性のためのカラダ講座(1)

「更年期」という言葉が当たり前に使われるようになったが、40~50代の女性が婦人科などを受診するケースはまだまだ多くはない。経済産業省が発表した調査[注1]によれば、更年期症状があると自覚している40歳以上の女性のうち95%が仕事のパフォーマンスに影響がある、46%が仕事のパフォーマンスが半分以下になると回答。更年期症状により昇進を辞退した人は約50%、退職したことがある人は約17%に上る一方で、症状があったとしても何も対処していない人が多いという。
ではそもそも更年期とは何か。あるいは更年期と思い込んで対処しないことで見逃される病気はないのか。混乱しやすい「更年期/更年期症状/更年期障害」について、イーク表参道副院長の高尾美穂さんに話を聞いた。
更年期は時期を示すもの
――更年期障害という言葉は長く使われていますが、いつから準備すればいいのか、自分は更年期なのか、大げさに考えすぎなのかといった悩みも聞きます。
高尾美穂氏(以下、高尾) 更年期は月経のある女性の誰もが経験するものです。ただ、更年期、更年期症状、更年期障害という言葉を混同している人が多いので整理しましょう。
更年期は閉経の前後5年間ずつを指します。つまり、更年期は閉経後に期間が判明するのです。卵巣が働くのは約40年間で、卵巣の卵胞機能が失われることを閉経と呼びますが、1年間連続して月経がない場合、最終月経をもって閉経と確認します。日本人の平均閉経年齢はおよそ50歳です。
シンプルに言うと、卵巣は女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンとプロゲステロンを作る臓器です。エストロゲンの分泌が増加しピークを迎えたあとに排卵が起きます。その後、エストロゲンとプロゲステロンにより子宮内膜が準備されますが、そのまま妊娠が成立しなければ排卵の2週間後あたりから子宮内膜がはがれ月経が始まります。この月経が順調に起きる状態が続くのが性成熟期です。
――更年期は閉経しないとわからないとなると、とらえどころがなさそうですね。
高尾 わかりやすいサインは、月経周期がばらついてくること。エストロゲンの分泌の減少により月経周期が不安定になり、やがて来なくなる。閉経の平均年齢50歳から想定される更年期は45歳から55歳。ただ47歳で閉経する人なら更年期のスタートは42歳。そう考えると、40代に入ったら「更年期に差しかかっている」ということを念頭に置くことが大事です。
――更年期は、時期を示すものとして、症状が出る出ないにかかわらず意識したほうがいいのですね。
高尾 そうです。一方、更年期症状は、卵巣機能低下に伴い起きる、様々な不調のこと。代表的なものが、発汗や、いわゆる「ホットフラッシュ」と呼ばれるほてりです。
[注1]令和2年度産業経済研究委託事業「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査 報告書」(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000329.pdf)
更年期症状には「視床下部」が関係している
――卵巣機能が低下することにより、なぜこうした症状が起きるのでしょう。
高尾 卵巣に指令を出す、脳の視床下部が機能不全に陥るからですね。卵巣の機能が落ちてエストロゲンの分泌が減少し始めても、視床下部は卵巣の変化に気づかず、卵巣に向かってエストロゲンを作るように命令を出し続けます。すると卵巣が応えないことに対して、視床下部がうまく働けず、これが症状として出るのです。
視床下部は、3つの大きな役割を担っています。1つ目がホルモンのコントロール、2つ目が自律神経のコントロール、3つ目が免疫機能のコントロールです。これらのいずれかの働きに問題が出ると、他にも影響が出てしまうわけで、ホルモン分泌のコントロールがうまくいかなくなることにより影響を受けやすいのが、自律神経の働きです。自律神経の機能低下による症状がまさに更年期特有の不調、更年期症状です。
――更年期症状が出るのは、どれくらいの人なのでしょうか。「働く女性の健康増進調査 2018」(日本医療政策機構)によると、現在または過去に更年期症状や更年期障害があったと回答した人は約42%で、そのうち更年期症状や更年期障害が出てから4カ月以上経った後に婦人科・産婦人科を受診したと回答した人が約63%とありました。実際はもっと多いのでしょうか。
高尾 そうですね。海外の報告では、更年期症状がある人は更年期を迎えた女性の6割ほどで、このうちの半分、つまり全体の3割弱が、治療を必要とする更年期障害に相当すると考えられています。[注2]。
――なんとなく不調だな、と思うことが増えていても、それを更年期の症状と自覚していない人もいそうですね。
高尾 そうですね。まずは、更年期の症状には3グループあることを理解しましょう。
1つは「なぜ起きるのかよくわからないような体の不調」。すなわち自律神経失調状態です。ほてりや発汗、血管の収縮弛緩不良による冷え、心臓を打つ回数をコントロールできないことによる動悸(どうき)などが挙げられます。
次に月経の有無を問わず起きる、加齢性の変化。例えば肩こり、腰痛、消化機能の低下は加齢に伴っても起きます。
そしてもう1つがメンタルです。イライラする、怒りっぽくなる、涙もろくなる、意欲が低下する、抑うつ気分になる。
こうした症状を感じる方は100人の女性が更年期を迎えたとしたら、60人弱なのです。60人弱が更年期の症状を経験し、4割の方は生理が来なくなったという程度にしか感じずにいられるのです。
[注2]A population based survey of women's experience of the menopause. M Porter, G C Penney, D Russell, E Russell, A Templeton, Br J Obstet Gynaecol. 1996 Oct;103(10):1025-8.
(次回に続く)
(ライター 山田真弓)

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