早歩き、チョコ… 10分で脳を活性化させる10の方法
最新科学に基づく脳のメンテナンス法(中)
「脳の構造は非常に複雑だが、脳を変えるのは簡単だ」。『脳メンテナンス大全』の著者で米国の脳科学者クリステン・ウィルミア氏はこう語る。同氏は脳に障害を抱える患者に対し、食事などの生活習慣を変えることで、脳機能を劇的に回復させてきた。第2回となる今回は、誰でも実践しやすい「10分で脳を活性化させる方法」を紹介する。(前回記事「脳は何歳になっても変えられる 生活習慣を見直すだけ」)
40歳以降、脳の容積は10年に5%ずつ減る
もしあなたが20代で、認知機能の衰えを心配する必要はないと思っているのであれば、考え直してほしい。人間の脳は25歳になってようやく完成する。神経科学者の中には、脳は30代まで成長し続けると考えている人もいる。つまり、20代での食生活、睡眠、運動習慣、飲酒などの生活習慣のすべてが、脳の成長に影響するということだ。
30代で、脳は完全に成熟し、同時に、自然な老化が始まる。この頃になると、1日に8万5000個ものニューロンが失われ、数値化できるほどの認知機能の衰えが現れ始める。この年代で脳をケアして老化のプロセスを遅らせれば、より健康で、幸せで、知的な中年期を過ごすことができるだろう。
40歳を超えると、脳の容積は平均で10年に5%ずつ減っていく。しかし、これはあくまで平均値であり、脳をケアする新しい習慣を身につければ、加齢による脳の減少を抑えることができる。また、40代では、短期記憶、推論、発話の流暢さに支障が出てくることがある。もっとも、この年代になると、脳は、感情をコントロールしたり他者に共感したりするのがうまくなる。さらに、集中力と注意力も40代でピークを迎える。
50代では、全体的な知識量がピークに達し、新しい情報を習得し理解する能力もピークになる。このことは、中高年の人々が若い頃より認知テストのスコアが高くなる理由の一つだ。頭脳の明晰(めいせき)さは50代がピークかもしれないが、語彙力は60代から70代前半でピークになる。60代のパイロットは、コックピットの機器をチェックするのに時間がかかるかもしれないが、専門知識を蓄積しているため、若いパイロットより操縦がうまい。
70代になると、脳が萎縮するスピードは速まるが、体と頭をよく使っている人は、20代の頃と同じくらい幸福で、精神的にも健康であることがわかっている。また、70代の人は20代の人より幸福度が高いことを脳画像が示唆している。
幸運にも80歳以上になれた人は、これまで以上に脳の健康を保ち、認知機能を向上させ続ける必要がある。脳をケアすれば、いつまでも元気でいられて、友人や家族と交流し、本を読み、映画を見て、趣味を楽しむことができる。脳画像研究で知られる米エイメン・クリニックで私は、80代の人でも脳の血流が改善され、脳機能が向上するのを見てきた。いくつになっても脳は変えられることを覚えておこう。
10分で脳を活性化させる10の方法
私はよく患者に、「脳を放っておいてはいけない」と言う。あなたが何歳であろうと、脳を改善することは可能だ。今すぐ始められる方法を紹介しよう。
1. 早歩きする
ほんの短い時間でも運動すると、脳の血流が増え、創造性が高まり、新しいアイデアが生まれやすくなり、全体的な実行機能が向上する。仕事中に頭が働かなくなったときや、大きな会議の準備をしなければならないときには、脳とキャリアのために、オフィス周辺を早足で歩こう。
2. ダークチョコレートを食べる
ダークチョコレートはミネラルが豊富で、フラボノイドと呼ばれる健康に良い植物成分が多く含まれている。フラボノイドはフリーラジカルを消し、脳への血流と酸素供給を促進する。ある研究では、記憶力と反応速度を測定する2時間前にダークチョコレートを食べると、その両方が向上した。注意してほしいのは、この効果はダークチョコレートに限られることだ。ミルクチョコレートやホワイトチョコレートにフラボノイドはあまり含まれない。

3. 背筋を伸ばして座る
胸を張り、首と背筋を伸ばして座ると、脳への血流が一気に増える。また、正しい姿勢で座ると、他者からの評価が上がり、自信が増す。
4. 利き手でないほうの手で書く
このちょっとしたエクササイズは、脳をなじみのある安全地帯から外へ引っ張り出すことでニューロン新生を促し、既存のニューロンの接続を強化する。携帯電話での文字入力やパソコンでのタイピングばかりしている人は、文字を手で書くだけでも、脳にとって新鮮な刺激になる。
5. ブルーベリーを食べる
新たなニューロンを育てたいのであれば、ブルーベリーをたくさん食べよう。ブルーベリーにはフラボノイドやポリフェノールなど、体に良い成分が多く含まれる。これらの成分はニューロン新生を促進する。
6. 語彙を増やす
語彙を増やすと、認知機能や知性が高まり、海馬では新たなニューロンが続々と生まれる。これを毎日続けるには、例えば、日々新たな言葉を紹介する日めくりカレンダーを買うか、そのような機能を携帯電話の辞書アプリにダウンロードするといいだろう。
7. 毎朝、今日をより良く生きる方法を思い描く
このエクササイズを実践すると、心が落ち着き、ストレスが減るだけでなく、気分が明るくなり、仕事、運動、生活全般において、能力を最大限発揮できる。プロのスポーツ選手や企業の経営者も、この戦術を重要なイベントの前に使ったり、毎朝の習慣にしたりしている。
8. 10分間の空白時間を持つ
テレビも電話もない部屋にこもる。電話の着信音、ブザー、チャイム、ニュース、テレビ番組など、気が散るもの、拘束されるもの、ストレス源になるものが何もない部屋で、10分間、目を閉じたり開いたりして過ごそう。このエクササイズは交感神経系を鎮めるので、朝行えば、終日、精神と感情をコントロールしやすくなる。
9. 香りでストレスを解消しよう
家やオフィスでエッセンシャルオイルを使うと、ストレスを和らげ、交感神経系を落ち着かせ、脳波を変化させ、ひいては認知機能と気分を向上させることができる。例えば、ラベンダーはストレスを軽減し、ベルガモットは活力を高め、フランキンセンスは脳への酸素供給を促進することがわかっている。
10. 感謝していることを一つ書く
感謝していることを一つ、付箋に書き、バスルームの鏡や冷蔵庫の扉、オフィスのパソコンなど、1日に何度も目にする場所に貼っておこう。この小さなリマインダーは、それを見るたびにあなたを落ち着かせ、ストレスを和らげ、気分を上げてくれる。
(第3回へ続く)
脳神経科学者(Ph.D.)。神経内分泌学、神経生理学、神経遺伝学の研究に取り組む。ボストンカレッジで心理学の学位を、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で生理学の修士号を、UCLAデビッド・ゲフィン医科大学院で神経生物学の修士号と博士号を取得。また、ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ・メディカル・センターで神経学の博士課程を修了。脳機能の研究や治療で全米に広く知られるエイメン・クリニックで脳機能イメージングの研究部長を務め、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)選手の脳損傷の解明と治療に関する画期的な研究を行った。著書に『脳メンテナンス大全』がある。

体のほかの部位や器官と同じく、脳もこまめに手入れをすれば見違えるように状態が改善され、発揮されるパフォーマンスが上がります。現在のコロナ禍で生じているストレスや不安は脳の健康を蝕(むしば)む大敵であり、今こそ脳のケアが求められています。
本書の著者で脳科学者のクリステン・ウィルミア氏は、アメリカンフットボール選手の脳損傷の実態解明とその治療に関する研究で大きな注目を集めた気鋭の脳科学者です。彼女は豊富な治療経験から、「脳の構造は非常に複雑だが、脳を変えるのは簡単。ライフスタイルを少し見直せばいいだけ」と語ります。そのノウハウを凝縮した本書では、科学的に裏付けられた脳にいい食事、運動、サプリメントは何か、脳に有害なストレスの撃退法などを、分かりやすく、具体的に解説します。
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