認知症予防は40代から 脳の老化を防ぐ5つのポイント

認知症は40代50代からの予防が重要だ。若い頃からの認知症治療や研究に取り組む医師らの啓発団体「40代からの認知症リスク低減機構」は、8月27日に「脳寿命を延ばす いまの状態を把握し、対策を考える ~脳と腸からはじめる認知症予防の可能性」と題するオンラインメディアセミナーを開催した。
当日は認知症をテーマにした3つの講演があり、それらを3回にわたって掲載する。まず今回は、アルツクリニック東京院長で順天堂大学名誉教授の新井平伊さんに、認知症の早期発見と予防法のポイントを解説していただいた。
認知機能低下を早期発見しよう
認知症の代表的なものにアルツハイマー型認知症があるが、昔は、健康かアルツハイマー型認知症かの2つの分け方だった。しかし、健康な人がいきなりアルツハイマーになるわけではなく、最近では、認知機能が落ちてきた「軽度認知障害(MCI[注1])」と、さらにその前段階の「主観的認知機能低下(SCD[注1])」があり、4つの段階に分けて考えられているという(下グラフ)。

認知症は、ある日突然発症するわけではなく、徐々に進行していく。中でも、アルツハイマー型認知症で原因として考えられているのは、ある物質が脳の中にたまっていくからという。
「アルツハイマー型認知症は、アミロイドβタンパクが脳に蓄積し、脳神経に障害を起こして発症すると考えられています。発症の20年くらい前から、アミロイドβは脳の中にたまりはじめます。そのためMCIやSCDの段階で気づいて予防することが大切です」と新井さんは言う。
[注1]MCIは「Mild Cognitive Impairment」の略で、SCDは「Subjective Cognitive Decline」の略。
次のような症状は脳の老化のサインかもしれないので、早めに気づくようにするとよいそうだ。
・眠れなくなる
・外出がおっくうになる
・趣味に楽しみを感じなくなる
・ど忘れが増える
・同じことを何度も聞くようになる
・頭痛や胃痛がある
自分の脳の老化に気づくためには、認知機能をチェックするのもいい。例えば、「認知症ねっと」では、ウェブ上で無料で認知機能をチェックできる。気になる人は試してみよう。
https://info.ninchisho.net/check/ch20
もし脳の衰えを感じたら? 老化を予防するポイントは?
では、もし脳の衰えを感じたら、どうすればよいのだろう。世界保健機関(WHO)は生活習慣病が認知症に与える影響を発表している[注2]。こういった情報も含め、新井さんは脳の老化を予防するポイントとして次の5つを挙げている。
脳の老化を予防するポイント
糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満、歯周病などの生活習慣病をきちんと治療する。
・対人ゲーム
麻雀、トランプ、将棋、囲碁のような対人ゲームをする。
・運動をしながら頭を使う
体操しながら歌う、散歩しながら計算するなど、体と同時に脳を使う。
・質のよい睡眠をとる
リズムを整え、質のよい睡眠を十分な時間取る。
・バランスのよい食事
お酒の飲み過ぎや間食・夜食を避ける。WHOでは地中海食[注3]を推奨しているが、バランスのよい日本食もよい。
[注2]「認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン」(https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf)を参照。
[注3]イタリアやスペインなど地中海沿岸諸国の伝統料理「地中海食」は、オリーブオイルと魚介類の摂取が多いのが特徴で、心臓病の予防効果やダイエット効果が確認されている。ニューヨーク在住の2258人を対象にした調査からも、アルツハイマーのリスクが低いことが分かっている(Ann Neurol. 2006 ;59:912-21.)。

「対人ゲームは、人間を相手にすることでコミュニケーションを楽しめるし、予期しない反応が返ってきて変化に富んでいます。勝ち負けに一喜一憂して感情を揺さぶられることもあります。計算ドリルや漢字の書き取りを繰り返すよりも、脳の活性化にはいいと思います」と新井さんは勧める。
さらに新井さんは睡眠の重要性を指摘する。
「アミロイドβタンパクは睡眠中に代謝され排出されるため、睡眠不足になると蓄積しやすくなります。いまは副作用の少ない優れた睡眠薬がありますから、どうしても眠れないときは活用するのもいいでしょう。寝酒は眠りが浅くなるのでお勧めしません」とのことだ。
「アルツハイマーは発症する20年くらい前から進行しているので、若い頃からの予防が大切です。また、薬やサプリメントに頼ろうとするよりも、普段の生活に気を配りましょう。食事は1日3回とるものですから、一番重要だと思います」と新井さんは力説する。
認知症を予防するためには、40代、50代でも油断せず、生活を見直していこう。
次回は、脳と腸が互いに影響を及ぼし合うといった最新研究の内容をお届けする。
(文 梅方久仁子、図版 増田真一)

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