コーヒーのカフェインで脳が活性 1日3~4杯はOK
1日3~4杯のコーヒーを継続的にとることは日本人のさまざまな疾患リスク抑制に効果的、という研究が相次いで報告されている。その有効成分とされるのがコーヒーの2大成分「コーヒーポリフェノール」と「カフェイン」だ。今回は、認知症の最新エビデンス、コーヒーに含まれるカフェインを生活に取り入れるポイントについて聞く。
コーヒー、緑茶など幅広い飲料や食品に含まれるカフェイン
寝起きでぼんやりする……というときにもコーヒーを飲んでしばらくすると気分がシャキッとする。これはコーヒーに含まれるカフェインの働きによるものだ。
「強い苦みを持つカフェインは、じつは植物が昆虫に打ち勝つための防御物質なのです。コーヒーをはじめ、お茶、ココア、コーラ飲料、滋養強壮ドリンクやエナジードリンク、さらにチョコレートにも含まれています。覚醒作用を持ち、倦怠感の抑制、片頭痛の緩和などの用途で、風邪薬などにも配合されています」と、コーヒーと健康について長年研究を行うネスレ日本 ウエルネスコミュニケーション室室長の福島洋一さんは説明する。
さまざまな飲料に含まれるカフェインだが、コーヒーは玉露(緑茶の一種)に次いでカフェインが多く、1杯(150g)あたり約90mgと豊富に含む(下図)。
1杯あたりに含まれるカフェイン量

「日本人は、1日平均で約260mgのカフェインを摂取しており、ほとんどはコーヒーとお茶由来である、と報告されています[注1]」(福島さん)。
[注1]Public Health Nutr. 2010 May;13(5):663-672.
コーヒー摂取と認知症リスクとの関係は?
第1回(「コーヒーで糖尿病のリスク下がる 運動に匹敵する効果」)では、コーヒーによって総死亡、脳卒中や2型糖尿病リスクが低下するといった最新のエビデンスについてお伝えした。

福島さんは「これらの効果は、主にコーヒーに含まれるポリフェノールの寄与するところと考えています。一方、コーヒーの継続摂取が認知症、パーキンソン病、うつや自殺リスクを軽減するという知見も増えています。こちらは、カフェインの寄与が大きいと考えています」と説明する。
カフェイン、コーヒーポリフェノールと、成分によって異なる働きがあるようだ。その違いはどこにあるのだろう。
「コーヒーポリフェノールは血液中に比較的長くとどまり、疾患リスクと関係するといわれる酸化ストレスや炎症の抑制に役立つと考えられます。一方、カフェインの強みは、通常の食品成分が通り抜けることができない血液脳関門(血液中から脳組織への物質の移行を阻む仕組み[注2])を突破して、脳に入っていくことです。カフェインは摂取後20~30分で血流に入り、血中の半減期は4時間ほど。摂取後に血流にのり、血液脳関門を通過して脳に入り、交感神経を活性化し、注意力や集中力を高めたり、気分の高揚、覚醒作用などをもたらします」(福島さん)
コーヒーを飲むと気分がすっきりするのは、カフェインが脳に作用するからなのだ。しかし、カフェインの効果は一過性で気持ちをシャキッとさせるだけにはとどまらない。なんと認知症のリスクも低下させるという研究もある。
2021年にコーヒー摂取と認知症リスクとの関係について、国内の研究結果が発表された。1万3757人を対象にした研究で、コーヒー摂取量が多いほど認知症リスクが低くなり、特に1日2杯以上のコーヒーを摂取した人の認知症リスクは、ほとんど飲まなかった人の約50%となっていたと報告された[注3]。
「この研究をはじめ、ここ数年の複数の疫学調査において、コーヒー摂取が認知症やその半数以上を占めるアルツハイマー型認知症リスクの低下と関連する可能性が示されています。また、コーヒー摂取はパーキンソン病リスクも抑えるという研究もあります。アルツハイマーと並ぶ神経変性疾患であるパーキンソン病は、脳内のドーパミン不足や神経伝達物質であるアセチルコリンの増強が手足の震えなどの発症に関与するとされます。おそらく、カフェインが脳の神経細胞の保護に役立っているのではないかと考えられているのです」(福島さん)
コーヒーやカフェインと脳との関係は今後さらに解明されていきそうだ。
[注2]血液から脳内へ物質が入り込むのを制限する仕組みのこと。血液中の有害成分の脳内への侵入を阻止するため、脳機能の維持に必要なアミノ酸や神経活動のエネルギー源となるグルコースなどの栄養素以外は、血液中からの物質の移行は厳密に制限されている。そのため、薬剤などを血液中に投与しても、基本的には脳組織へは入れないようになっている。
[注3]J Am Geriatr Soc. 2021 Dec;69(12):3529-3544.
コーヒーのカフェインを健康に役立てる3つのポイント
このように脳に作用し、認知症などにも好影響をもたらすと言われるカフェインだが、心配な面もある。カフェインのとりすぎによるリスクだ。
例えば、カフェインのとりすぎは低体重児出産リスクを高める可能性があるため、妊婦や授乳中の女性、カフェインへの感受性が高い小児のカフェインの過剰摂取に注意喚起がされている。
では、1日コーヒー何杯までならカフェイン量は大丈夫なのだろうか? 福島さんにカフェインとかしこくつきあう方法を聞いた。
1.カフェインのとりすぎが心配? 1日コーヒー3~4杯ならOK
欧州食品安全機関(EFSA)は2015年に、安全性に問題のないカフェイン摂取量を以下のように定めている。
妊婦・授乳婦 200mg以下
小児(3~18歳)3mg/kg 以下
●1回あたりの摂取:成人200mg、小児3mg/kg
「コーヒー1杯に含まれるカフェインは前述したとおり、約90mg。個人差はありますが、1日3~4杯であれば大人は心配せず飲んで良いでしょう」(福島さん)。
2.加齢とともにカフェインの代謝が低下。夕方以降のコーヒーは睡眠を妨げる
「カフェインの効き方には個人差があり、『カフェインをとると寝付けない』という人はカフェインの感受性が高いか、あるいはカフェインの代謝がスムーズに行えず体内に長くとどまる体質の人だと思われます。また、加齢によって肝機能が低下すると、肝機能の一つである薬物代謝能力が低下し、これにともないカフェインの代謝能力も低下します。つまり、体内にカフェインが長くとどまり覚醒作用を引き起こします。就寝前のカフェインは寝付きを悪くするという研究もあり、特にコーヒーやお茶を飲むと寝付きが悪くなると感じる人は夕方以降のコーヒーは避け、デカフェ(カフェインレスコーヒー)にするのもお勧めです」(福島さん)
3.空きっ腹で飲まない
カフェインには胃酸分泌を促進する作用がある。このため、「もともと胃酸過多の人が空腹時にコーヒーを飲むと、胃酸によって胃粘膜にダメージが与えられる可能性があります。空腹時のコーヒーのがぶ飲みは避けたほうが良いです。ただし日本人対象の研究で、コーヒー摂取は胃潰瘍や逆流性食道炎などに影響を与えないことが確認されています」(福島さん)
◇ ◇ ◇
3回にわたって、コーヒーのポリフェノール、カフェインがもたらす健康効果についてお伝えしてきた。福島さんは、2021年に、コロナ禍における在宅勤務と生活習慣、健診データなどをネスレ日本の社員男女327名を対象に調査を行い、まとめたという。その結果、「座りっぱなしの時間が長くなるほど活気が失われ、抑うつ感が増す傾向が出ました。その一方で、コーヒー摂取が多くなるほど活気が出ること、また、気分転換のブレイク回数が増えることがわかりました」と言う。
最終回は、カフェインと運動パフォーマンスの関係について見ていく。
(ライター 柳本操、グラフ制作 増田真一)

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