緊張に弱い脳はある! 克服に役立つテクニックとは
脳科学者に聞く「脳」の活性化術
初対面の人に会うとき、人前でプレゼンをするとき。緊張してガクガク、失敗…という経験はないだろうか。緊張すると全力を発揮できず、伝えたかったことを十分に伝えられないなど、後悔にさいなまれるもの。「実は、緊張に弱いタイプの脳があるのです」と公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんは言う。
緊張しやすい脳とは? 前回(「脳をダマして緊張を克服 不安を『外在化』する方法」)に引き続き、脳をだまして緊張を克服するテクニックを篠原さんに聞く。
「わくわく」することでネガティブな不安を解消
――前回は「不安を書き出す」「キャラに乗せる」という2つの方法をご紹介いただきました。この他にも、なにか対処法はあるのでしょうか。
篠原さん 「不安を興奮として再評価すると、パフォーマンスが向上する」こともわかっています。前回、「プレゼン怖い」と不安にフォーカスしたのとはまったく反対のアプローチです。
対処法3 ドーパミン系を活性化させるセルフトーク「私は興奮している!」

不安な状態だと心臓がドキドキしますね。それを「私は興奮している…わくわくしている…」と言い直すんです。それだけでネガティブな不安がポジティブな興奮に置き換わり、実際にパフォーマンスが向上したという報告があります。あるいは、命令形にアレンジして「興奮しなさい、わくわくしなさい」という方法でも有効です。
――脳ってダマされやすい側面があるのですね。ドキドキする心拍を「うおー、興奮している」と受け止められれば、よっしゃ、と思えそうです。
篠原さん 外在化は効果的ですよ。前回説明した「キャラに乗せて不安を言葉にする」というのは、不安や緊張を自分の人格と一体化させてしまうとコントロールしにくくなるからです。キャラに乗せてみると、それを観察する目が生まれます。観察できれば、コントロールが可能になるのです。
対処法4 「緊張くん」を観察し、エサ探し&苦手探し
たとえば、こんな考え方はどうでしょう。プレゼンに失敗するのは自分の中に複数いるキャラの一つの「緊張くん」が邪魔するからだ。緊張くんはいつも元気なわけじゃない、エサになるのは「緊張」だ。緊張すると緊張くんはやたらと強くなる。ならば緊張くんが苦手なものもあるはず、と観察するのです。
とにかくよく眠っておくと、緊張くんは元気がなくなるかもしれません。身近な人に褒めてもらう、終わった夜にとっておきのウイスキーを飲む、などのご褒美があると緊張くんは弱くなり、反対に、元気に話せる「元気くん」が育つかもしれません。
実際に、引きこもりの人などのカウンセリングの場ではこういう宿題を出すのです。「これから2週間の間に、緊張くんのエサになるもの、苦手とするものを書き出しましょう。ただ書き出すだけでいいですよ」、というふうに。すると、自らの人格からは分離できるので、感情のコントロールがしやすくなるのです。不安を「キャラ化」して観察するだけで苦しい状況を乗り越えられることもあります。
「緊張しやすい人でも本番に強い」人の秘密とは?
――今回教えていただいた「緊張対策」は、どれもすぐにでも始められそうです。
篠原さん 最後にお伝えしたいのは、「緊張しやすい人でも本番に強い人はいる」ということです。
その人たちは何をして「本番に強くなった」のか。自分は緊張しやすいことを知っていて、準備をするのです。
試験前に模擬試験は受けておこうよ、というのと同じ話です。緊張しやすい学生だって、模試を3~4回受ければ慣れてくるものです。慣れていない現場では緊張をするし、パフォーマンスも落ちるもの。それを計算に入れて練習しておけばいい。
そのためには、「ストレスがかかった状態でもパフォーマンスを上げられるような練習」をする必要があります。ピアノの発表会でうまく弾けなくなるのなら、極端な例かもしれませんが、演奏前に走って心拍数を高めた状態でピアノが弾けるか試してみるのだって有効です。
――緊張しているときと同じ身体状況を作るわけですね。
篠原さん ペーパーテストなら、時間を短くしたり、うるさい環境で受けたりするなど、負荷をかける。社長の前でのプレゼンなら、社長の嫌そうな表情の写真を手に入れてそれを横に置きながらプレゼンの練習をする。緊張しやすい「損害回避傾向」のある人たちはそういったトレーニングを行うことで克服しています。不安や緊張も当たり前ながら「慣れ」が生じてきますから、繰り返すうちに慣れて、乗り切れるようになりますよ。
◇ ◇ ◇
次回は、そりの合わない上司、気持ちがすれ違う親子関係など、ネガティブな人間関係の悪循環ループを断ち切る方法について聞く。
(ライター 柳本 操)

関連リンク
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。