新体操・山崎浩子さん直伝 タイプ別の疲れない歩き方
指導法に悩んでいた時に出合った4スタンス理論
新体操の指導経験が30年以上という山崎浩子さん。しかも、そのうちの17年間は新体操日本代表チーム(フェアリージャパンPOLA)のいわばトップアスリートを指導してきた。そんな山崎さんだが、人知れず、指導方法に悩むことがあったという。
「私の指導した言葉で、すぐにコツをつかむ選手と、そうでない選手がいることを実感していました。例えば、『ひざは踏み込まず、床を蹴って』などといった言葉で、うまくなる選手と、かえって動きが悪くなる選手がいる。コツがつかみにくい選手は勘が悪いに違いない、いや、私の指導方法が合っていないのだろうかなどと悩んでいました。しかし、2008年に4スタンス理論を考案した廣戸聡一さんに出会い、実は4つのタイプ別に体の動かし方があることがわかったのです」
振り返れば、山崎さん自身もバレーボールやゴルフなど、ほかのスポーツの指導を受けたときに、指導者の言葉通り体を動かしてもうまくいかなかったことがあったという。そこで、山崎さんは、この4スタンス理論を学び、4つのタイプごとに選手に指導するようになった。
では4スタンス理論とは?
「簡単に言うと、体の『軸』に着眼点を置いたものです。『軸足』といった言葉を聞いたことがあると思います。体の重心軸は、土踏まずに降りているものですが、それが前寄りにあるか後ろ寄りにあるか、また内側か外側か……という組み合わせで、軸の乗り方には4タイプあるのです。それによって体の動かし方が変わってくるのです」

自分はどのタイプだろうと思った人も多いはず。そこで、4つのチェックを教わった。AかB、1か2を判断し、その組み合わせが自分のタイプだ。
次のページから詳しく紹介する。
A or B 自分のタイプをチェック
【チェック】うちわ、ノートなど、あおげそうなものを用意する。顔に向かって、あおぐ

Aタイプはひじを動かそうとすると、頭や体幹がブレてしまう。Bタイプは、ひじの動きを止めるとあおげないはず。
【チェック】ペットボトルを用意し、まずはいつものように飲む。次に(1)と(2)のように飲んでみる

一方は簡単に飲め、一方は口にペットボトルの飲み口を合わせることを困難に感じるはず。
1 or 2 自分のタイプをチェック
【チェック】ペットボトルを用意し、いつもと同じように持つ

わかりづらかったら、人さし指、あるいは薬指をペットボトルから離してみると、持ちやすさや持ちにくさがわかるはず。
【チェック】立った姿勢で両脚の太ももの中央にそれぞれ手を置く。(1)と(2)のようにしゃがむ

一方は簡単にしゃがめ、もう一方は急に力がなくなったように感じるはず。
※チェックは、『筋トレより軸トレ! 運動のトリセツ』(山崎浩子著、廣戸聡一監修)より。
試してみよう!4つのタイプ別「疲れない歩き方」
山崎さんは現在62歳。いま特別に運動しているわけではないという。ただ、体形は変わらず、身のこなしが実に軽やか。SNSでは側転や三点倒立などの様子を公開し、話題だ。
その秘訣は「自分のタイプの軸を意識して動くから」と断言する。その基本は、まず立つことからだ。本来はそこを細かく指導するが、今回は概要だけ解説してもらおう。
4つのタイプごとに、正しい立ち方がある。
「その立ち方を意識すると、安定感が得られ、大きく呼吸できます。Aタイプ、Bタイプで、それぞれ、立つときの軸をつくるポイントが3つあり、そこを意識します」
Aタイプならみぞおち、ひざが軸ポイントになる。一方で、Bタイプならば、軸ポイントは、首の付け根、股関節になる。両方とも3つ目の軸ポイントは足底だ(タイプ別の下図参照)。
これを歩く動作に当てはめると、Aタイプは「ひざの上にみぞおちが乗るようなイメージで歩く」と軸が整いやすく、動かしやすいはずだ。
一方で、Bタイプであれば、「股関節の上に首の付け根が乗るイメージで踏み出す」と軽やかに体が動かせるという。
Aタイプ:ひざの上にみぞおちが乗る、伸び上がるイメージで歩く
重心位置は前寄りのAタイプ。軸のポイントが、ひざ、みぞおちになる。A1タイプは、ひざもみぞおちも前側、A2タイプはどちらも後ろ側になる。A1タイプはクロスタイプ、A2タイプはパラレルタイプ。(クロスとパラレルの解説は後述)


Bタイプ:股関節の上に首の付け根が乗る、地面を押すイメージで歩く
重心位置は後ろ寄りのBタイプ。軸のポイントが、股関節、首の付け根になる。B1タイプは股関節も首の付け根も後ろ側、B2タイプはどちらも前側になる。B1タイプがパラレル、B2タイプはクロスになる。


AタイプはBタイプの軸ポイントが動かしやすい
興味深いことに、Aタイプの軸になるポイントはBタイプにとっては動かしやすい、いわば可動エリアになる。逆も同様だ。つまり、Aタイプなら、Bタイプの軸ポイントである股関節や首の付け根は動かしやすい部位なのだ。
「野球のバッティングやゴルフのショットなど、その場に留まった動きの場合、足底と2つの軸ポイントを直線上にそろえることを意識します。そして、残りの2つの可動エリアを積極的に動かすと、安定感がありながらダイナミックなパフォーマンスをできます」
つまり、Aタイプなら、足底、ひざとみぞおちを直線上にそろえ、首の付け根や股関節を動かす。Bタイプなら、足底、股関節、首の付け根を直線上にそろえ、ひざやみぞおちを動かすというイメージだ。
また、Aタイプは、上に伸び上がるイメージで体を動かす傾向があり、伸びようとすると床を強く踏むという。Bタイプは逆で、床を押そうとすると伸び上がれるという。同じ動きでも、イメージは異なるそうだ。
なお、AタイプとBタイプでは、手の使い方も異なる。Aタイプでは、つり革や荷物を持つときに指先を使い、Bタイプでは手のひらを密着させるように深く入れ込む。思い当たる人もいるのでは?

「新体操では、クラブを持つ種目があります。私はAタイプなのでクラブを浅く持ちますが、そのように全選手に指導してしまった苦い経験があります。Bタイプの人は、深く持たないと落としてしまうことを不思議に思っていました。これもタイプごとの体の使い方の違いですね」
タイプ1と2の動かし方の違いは?
さて、AとBは、明快だ。しかし、1と2ではどう違うのか。
「例えばバランスをとろうとするとき、1タイプは、人さし指を意識し、2タイプは薬指を意識することで安定感が出ます。新体操では、ボールをキャッチするときにどちらの指を意識しているかは、このタイプによって違いがありました」
また、1タイプは内側重心で上腕や太ももが内旋したほうがパワーを感じやすく、2タイプは外旋したほうがパワーを感じやすいという特徴もある。ただ、今回のテーマ、「歩き方」では、クロスとパラレルのほうが影響が大きそうだ。
クロスとパラレル 腕の振り方の違いとは
ここで、もう一つの分類、クロスとパラレルを教わろう。
「A1とB2はクロスタイプ、A2とB1はパラレルタイプになります。クロスタイプは、体の前側に意識があるので、自然と前面を使って体を動かします。パラレルタイプは体の後ろ側に意識があり、背面を使って体を動かします。そこで、同じみぞおちや首の付け根、股関節といっても、前側や後ろ側など、軸を意識する部分が少し異なります」
速く歩こうとしたときに、A1とB2のクロスタイプは、腕を交互に交差させるように振るという。つまり、ひじが体の前側にくる。一方で、A2とB1のパラレルタイプは、腕を真っすぐに振ることができる。クロスタイプが真っすぐ腕を振ろうとすると、窮屈になり、うまく走れないことにもつながりかねない。
「ちなみに、マイケル・ジャクソンさんはパラレルのA2タイプだったと考えられています。スリラーのダンスでは、右手と右足が同時に動くパラレルタイプの特徴的な動きをしていますね」
疲れない歩き方のタイプ別のポイントを参考に、ぜひウオーキングしてみてほしい。
(イラスト 二階堂ちはる、写真 洞澤佐智子、構成 市川礼子=日経xwoman ARIA、白澤淳子=日経ヘルス)

[日経ヘルス2022秋号掲載記事を転載]この記事は雑誌記事掲載時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります
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