自覚症状ない「隠れ心不全」 悪化する前にできること
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)心不全はある日突然起こるため、予防は難しい
(2)日本人の成人の2人に1人が心不全の初期段階にある
(3)主な症状は「息切れ、むくみ、だるさ」である
答えは次ページ
答えと解説
正解(間違っている説明)は、(1)心不全はある日突然起こるため、予防は難しいです。

心不全は、何らかの原因によって心臓のポンプ機能が低下するさまざまな病気の総称で、「心臓の機能が徐々に落ち、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなっていき生命を縮めていく病気」と定義されています。ある日突然発生し、予防できない病気、というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、実際には、症状が出る前に予防することは可能で、症状が出てからであっても、発見が早ければ早いほどその後の経過を良くすることができます。
心不全の診療経験が豊富な、かわぐち心臓呼吸器病院副院長・循環器内科部長の佐藤直樹氏は、こう話します。「心不全には4つのステージがありますが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があれば、それだけで、最初の"ステージA"に該当します。日本の成人の2人に1人に高血圧があると言われていますから、2人に1人は既に心不全が始まっているのです」。
心不全は、症状のない「無症候性」の段階と、症状が出現する「症候性」の段階に分けられ、図1に示したような4つのステージを踏んで進行していきます。入院を要するような状態は、症候性のステージCにあたりますが、その前段階には、症状のない無症候性の心不全、いわば「隠れ心不全」が潜んでいます。
図1 心不全の4つのステージ

この「隠れ心不全」のステージAというのが、「高血圧や糖尿病、あるいは狭心症のような心臓の血管の病気(冠動脈疾患)があるが、心臓の変化はなく症状もない状態」です。高血圧や糖尿病があるだけで、既に心不全のステージAに位置付けられていることは、一般にはあまり知られていません。そのために、心臓に注意を払うことがないまま、血圧や血糖値が高い状態が続くと、気づかぬうちに心臓の構造や機能に変化が表れ、ステージBへと進んでしまうのです。ステージBの段階でも、心不全の代表的な症状である息切れやむくみを自覚することはないため、放置されていることがほとんどだと佐藤氏は話します。
血圧が適切にコントロールされていなければ心不全の危険あり
近年は高血圧への意識が高まり、高血圧を指摘された人の約70%が治療を受けているといわれています。しかし、「血圧が適切にコントロールされているのは、その半数程度でしょう」と佐藤氏は話します。
「患者さんの中には『降圧薬を飲んでいれば大丈夫だろう』と考えて、食事や運動などの生活習慣の改善ができていないまま漫然と過ごしてしまう人が少なくありません。また、血圧が目標値まで下がりきっていなくても、医師が大目に見てしまい、コントロールが甘くなっていることもあります。医師が患者さんに『血圧が適切にコントロールできていないと、将来的に心不全を起こす危険がある』ということをしっかり伝えきれていないという側面もあるのです」(佐藤氏)
心不全の3大症状は「息切れ・むくみ・だるさ」です。「実際に心不全と診断された患者さんたちに聞いてみると、症状の感じ方は人それぞれ違います。息切れといっても『息が詰まるような感じ』『どうにもならないような苦しさ』などと、それぞれ表現が異なり、『あの症状が心臓からきているものとは思わなかった』と話す人がほとんどです」(佐藤氏)
「まさか心臓に原因があるとは思わず、なんとなくやりすごしているうちに突然症状が悪化し、救急搬送されて心不全と診断された」――そんな事態にならないように、症状が悪化する前に心臓の異変をキャッチして、治療につなげることが大切です。さらには、症状が出る前に血圧や血糖値をしっかり管理することが、心臓を守ることにつながります。
[日経Gooday2022年6月6日付記事を再構成]
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