スロースクワット 筋肉を効率的に鍛え、姿勢も改善?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)最大筋力[注1]の30%程度の負荷で高い筋トレ効果が得られる
(2)速筋線維と遅筋線維の両方を効果的に鍛えられる
(3)スロースクワットの腰の上げ下げは、それぞれ1秒程度を目安にする
(4) 1つの動作で姿勢を支える筋肉を一気に刺激できる
答えは次ページ
[注1]最大筋力とは、例えばバーベルなどを「1回挙げるのがやっと」という限界の負荷強度(最大挙上重量)を1RMと設定したときにどのぐらい負荷をかけるかという単位のこと。最大筋力30%(30%RM)とは、最大挙上重量の30%ほどの負荷、ということを表す。
答えと解説
正解(間違っている説明)は、(3)スロースクワットの腰の上げ下げは、それぞれ1秒程度を目安にするです。
加齢とともに姿勢が悪くなる背景には、姿勢の維持に重要な筋肉群の衰えがあります。
姿勢を支えるために活躍するのは、太ももの前側、おなか、背中、お尻にあり、重力に対抗してバランス良く体を支える「抗重力筋」。しかし、長時間のパソコン作業で猫背がクセになってしまったり、骨盤の背中側をイスにもたせかけた座り姿勢を長く続けることで、体は「姿勢を支える筋肉は必要ないのだな」と判断し、その筋肉を切り捨てていきます。その結果、骨盤が後傾するなど姿勢は気づかないうちにどんどん悪化し、老け込んだ見た目になるばかりか、腰痛、肩こりなどさまざまな不調のもととなっていきます――。
悪い座り方などが原因で、姿勢の悪化は加速する

また、筋肉は、つまずきそうになったときにぐっと踏みとどまるなど素早い身のこなしに関わる「速筋線維」と、持続的に姿勢を保持したり、歩くときなどに働く「遅筋線維」から構成されていますが、加齢の影響によってまず速筋線維が減り、少し遅れて遅筋線維が減っていくといわれます。
速筋線維の減少によって素早い動きが苦手になると、日常の動作がおっくうになってきます。そして、不活発な生活により、姿勢を保持するのに重要な遅筋線維も輪をかけて減少していきます。この状態を放置すると、体は「サルコペニア(加齢により筋肉が減り筋力が低下した状態)」、「ロコモ(筋肉や関節、骨などの運動器が衰える状態)」「フレイル(心身の状態が身体的、精神心理的、社会的に大きく低下する虚弱状態)」といった、本格的な老化状態に突入していってしまいます。
そうならないために私たちがすぐに取りかかるべきは、なまけた筋肉をトレーニングし、筋肉の本来の働きを「再学習させる」ことです。
しかし、運動習慣のない人にとって、ハードな筋トレは体への負担感が大きい上、お腹に力をぐっと入れて息を止めるときに血圧が上昇したり、ひざや腰などの故障の原因になるといったリスクもあります。
そこで、"筋肉博士"として知られる東京大学名誉教授の石井直方氏が「最小限の負担で、速筋線維と遅筋線維の両方を効果的に鍛えられるトレーニング」としてお勧めするのが、"スロトレ"です。
負荷は軽いのに効率的に筋肉を増やせる「スロトレ」
スロトレとは、正式名を「筋発揮張力維持スロー法(LST=Low intensity, Slow and Tonic force generation)」と呼び、以下のような特徴があります。
●動きがゆっくり(スロースクワットの腰の上げ下げは4秒+4秒)なので、安全性が高い
●最小限の回数で、多くの筋肉に高い効果が得られる
「生理学的に考えて、筋肉は太くなるための理由がないと太くなりません。筋肉が必要以上に太くなるとエネルギーを食うため、体にとっては不経済。ですから筋肉を太く強くしようと思ったら高強度の負荷をかけるか、疲労困憊(ぱい)するまでとことん反復を繰り返すしかない、という考え方がこれまでの運動生理学における常識でした」(石井氏)
しかし、石井氏は、ベルトで血流を制限した状態で筋トレをする「加圧トレーニング」の研究を行っていたときに、ある発見をしました。加圧ベルトで筋肉を締めると、血流が制限され筋肉は低酸素状態になります。人工的に筋肉を低酸素状態にすることによって軽い負荷の筋トレでも高い負荷をかけたように筋肉が太く強くなるわけです。であれば、この原理を応用すれば、特別な器具で血管を圧迫しなくても同様の効果が出せるのではないか――。
そして石井氏らは試行錯誤を繰り返した結果、「30%くらいの力を発揮したまま力を緩めずゆっくりと動作を続ければ、加圧トレーニングと同様に高い筋トレ効果が得られる」ことを発見、2006年にアメリカ生理学会誌にこの「スロトレ」について論文を発表しました[注2]。現在、スロトレはカナダなど各国で研究が行われているそうです。
[注2]J Appl Physiol (1985). 2006 Apr;100(4):1150-7.
1つの動作で姿勢を支える筋肉を一気に刺激
このスロトレ方式を用いて、姿勢を支える筋肉を強くするトレーニングとして石井氏が勧めるのが「スロースクワット」です。
「スクワットは、多くの筋肉群を総合的に強化できる運動として、"キング・オブ・エクササイズ"と呼ばれる優れた動きです。しゃがんで立つ、というシンプルな動きであるものの、これは人間の立ち上がるという基本中の基本の動きを支える動作です。深くしゃがんで立ち上がるとき、姿勢を作るための腰椎や股関節をコントロールする太ももの前側、大殿筋、ハムストリングスや大腰筋が使われます。さらに体幹を安定させるために背中やお腹の筋肉も動員されます。足の関節を伸ばすためにふくらはぎの筋肉が、また、首を固定するために背中と肩の僧帽筋も働きます」(石井氏)
以下に「基本のスロースクワット」のやり方を記したので、早速やってみましょう。基本のスロースクワットは、骨盤が後傾気味の人(背中が丸まり、顎や肩が前に出ている人)に向きます(動きを確認したい方は「キング・オブ・エクササイズで筋肉を効率よく鍛える! 姿勢も改善」をご覧ください)。
(1)足を肩幅に開き、つま先は少し外側に向ける。手のひらを鼠径(そけい)部に当て、やや腰を落とす。
(2)ゆっくりと4秒かけて、手のひらを太ももとお腹で挟むようにしながらお尻を後ろに引き、腰を落としていく(息を吸う)。太ももと床が平行になるのを最終的な目標に。できないうちは、腰を落とせるところまででよい。
(3)ゆっくりと4秒かけて立ち上がる(息を吐く)。
※(2)(3)を5〜8回繰り返して1セット。1日3セット。週に2〜3回

スクワットをするときにやってしまいがちなのが、「上半身をまっすぐ立てたまましゃがもうとする」こと。「すると、ひざが前に出て、無理な負担がかかり、ひざに痛みが出て断念する人が多いのです。この基本のスロースクワットでは、鼠径部に当てた手のひらをお腹と太ももで挟みこむようにしてしゃがむのがポイント。挟みこむには上半身を前に倒す必要があるからです。お尻を後ろに引き、ひざが前に出ないように意識し、足裏で重心をコントロールしてください」(石井氏)
この基本のスクワットは、骨盤の後ろ側をイスの背にもたせかけて両足を投げ出して座る「骨盤後傾」の座り方が定着してしまった人にお勧めです。「骨盤を前傾させる大腰筋などの使い方を再学習する動きなので、このスクワットを続けると、立ったときに背筋がすっと上に伸びるようなきれいな姿勢に変わっていきます」(石井氏)
[日経Gooday2022年12月19日付記事を再構成]
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