花粉症は飲酒でひどくなる? 酔って寝ると症状が悪化
もう40年も花粉症で悩んでいる酒ジャーナリストの葉石かおりさん。お酒を飲むと、花粉症の症状が悪化すると感じています。果たして、アルコールは花粉症の症状と関係があるのでしょうか。また、花粉症を悪化させないお酒の飲み方や、おつまみの選び方、そして最新の花粉症の治療法について、日本医科大学大学院教授の大久保公裕さんにお話を伺いました。
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寝ても覚めても、滝のように流れるサラサラの鼻水。眼球を取り出して洗いたくなるほどかゆい目。そして何とも言えないだるさ……。
本来なら春は気候的にも最高なのに、花粉症の人にとっては「早く過ぎ去ってほしい季節」でしかない。かくいう筆者も花粉症歴40年。症状が出る2月から耳鼻咽喉科に通って飲み薬と点鼻薬を処方してもらい、それに加えて鼻うがいや、花粉症にいいとされる乳酸菌飲料や、かんきつ類のじゃばらのジュースなども摂取して、入念な対策を行っている。
そうやってみっちりとケアをしているのに、酒を飲み出すと、症状がたちまち悪化してしまうのだ。どうやらこれは筆者に限ったことではなく、花粉症持ちの酒飲みは同じような悩みを抱えているようで、SNSにも「酒を飲むと花粉症がひどくなる」「酒と花粉症の薬は相性が悪そう」といった投稿が目につく。

そういえば、休肝日を作るようになってからは、花粉によるモーニングアタック(起床時にくしゃみ、鼻水などがひどくなること)があまりなくなった。目と肌のかゆみ程度で何とか治まっている。ということは、やはり花粉症とアルコールは何かしらの関係があるのかもしれない。
そこで、花粉症に詳しい日本医科大学大学院医学研究科 頭頸部感覚器科学分野の教授で、日本アレルギー協会理事でもある大久保公裕さんにお話を伺った。
花粉症患者が増え続ける背景は?
先生、そもそも花粉症とはいったいどのように定義されるものなのでしょう?
「花粉症は、『症』という文字がついていることからも分かるように、症状を指すもので病気ではありません。その症状は実にさまざまで、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、じんましん、アトピーの悪化など、花粉によって起こる体のアレルギー反応の全てを指して花粉症と言います。これらの症状は、体が異物だと判定した花粉から体を守るための『防御反応』。花粉によって鼻水や涙が出るのは、異物である花粉を体外へ追い出すためなのです」(大久保さん)
体にとっては自分を守るための防御反応なのかもしれない。しかし、人間にとってはQOL(生活の質)も下がってしまう、迷惑な症状でしかない。特に花粉症持ちの酒飲みにとっては。
酒好きも痛めつける、この厄介な花粉症。対処法を伺う前に、敵のことをもう少し知っておきたい。「現代病」とも言える花粉症だが、患者は増えているのだろうか?

「はい、残念ながら花粉症の方は増えています。例えば、スギ花粉症は2008年には人口当たり26.5%だったのが、2019年には38.8%と、10%以上増加しています[注1]。その背景には、戦後に各地に植えた杉が育ち、花粉の飛散量が増えたことがあります。また、かぜなどの軽い感染症に対し、早々に抗菌薬を使ってしまうことも影響していると考えられます」(大久保さん)
抗菌薬は細菌による感染症を防ぐ薬で、かぜの原因となるウイルスには効かない。にもかかわらず、「細菌による二次感染の予防」などの名目で安易に抗菌薬が使われてきたために、体内の細菌叢(そう)が乱れて免疫機構のバランスが崩れ、花粉をはじめとする「自然のもの」に対して防御反応を示すようになったと考えられているという。
「さまざまな抗菌グッズが使われるようになった『クリーン過ぎる環境』もまた、花粉症患者の増加につながっているのではないかとも言われています」(大久保さん)
良かれと思って使っている抗菌グッズが、間接的に花粉症の原因になっていたとは考えもしなかった。
[注1]日耳鼻. 2020;123(6):485-490.
アルコールが毛細血管を拡張し、粘膜を過敏にする
さて、花粉症の正体が大まかに分かったところで、本題である「花粉症とアルコールの関係性」について、大久保さんに伺っていこう。
「花粉症の方がお酒を飲むと、症状は間違いなく悪化します。お酒を飲むと、アルコールによって、体の毛細血管が拡張するからです。このとき、鼻の粘膜が腫れ、一層敏感になり、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった花粉症の症状がひどくなります。また、アルコール代謝の過程で生成されるアセトアルデヒドによってアレルギー症状を引き起こす『ヒスタミン』の放出が促されることで症状が悪化するとも考えられています」(大久保さん)
ああ、やっぱり。実感通り、花粉症とアルコールの相性は良くなかったのか(涙)。症状を悪化させたくなければ、酒を飲むのをやめるしか策はないのだろうか。

「そんなことはありません。基本的な対策としては、酔っぱらった状態で眠らないこと。つまり、お酒がさめた状態になってから眠るようにしましょう。そのためには、二日酔いになるまで深酒をしないことが大前提になります。たしなむ程度に飲めば、翌日、花粉症の症状がひどくなるのを避けられます」(大久保さん)
酔っぱらったまま寝ると、毛細血管が拡張し、粘膜が腫れたまま眠ってしまうことになる。すると、翌朝まで花粉症の症状が悪化した状態が続いてしまうのだという。また、二日酔いになると、それが収まるまでは花粉症の症状もひどくなりやすいと考えられる。
確かに、花粉症の酒好きの多くが体験しているように、深酒をしたときほど、翌日の症状がきつくなる。つまりは、「症状を悪化させたくなければ、飲み過ぎないようにする」ということが第一なのだ。
「深酒をしないということに加えて、外から帰ってきたら入浴などの際に体についた花粉を落とし、寝る前に点鼻薬でケアをしておけば、さらに症状の悪化の緩和が期待できます」(大久保さん)
眠くなる花粉症の薬が悪酔いを誘発
ところで、「花粉症の薬を飲んでいるときに飲み会に行くと、いつもより悪酔いする」ということも実感している。そもそも服薬中に酒を飲むこと自体間違っているとお叱りを受けそうだが、酒好きはついついやってしまいがちだ。
「花粉症の薬の中でも、ポララミン(一般名:d-クロルフェニラミンマレイン酸塩)などの眠くなる抗ヒスタミン薬を飲んでいる方は、お酒を控えたほうが無難です。これらを飲むと、脳にあるヒスタミン受容体がブロックされるのですが、その状態でアルコールが入ると、脳に与える影響が大きくなり、眠気をはじめとする副作用もひどくなります。日常的にお酒を飲む方は、眠気を誘発しない薬を病院で処方してもらいましょう」(大久保さん)
大久保さんによると、花粉症の薬の中でも「第三世代」と呼ばれるルパフィン(一般名:ルパタジンフマル酸塩)、ビラノア(一般名:ビラスチン)、ザイザル(一般名:レボセチリジン塩酸塩)などが「眠くならない薬」にあたるそうだ。これらの薬は、脳の関門を通過しないよう成分のサイズが大きくなっており、眠気が起こりにくくなっている。
そして大事なのは、「市販薬で済まさず、できるだけクリニックなどで薬を処方してもらうこと」だという。
「市販薬といっても、もともと処方薬だったものが市販薬として入手可能になったものもあり、選択肢は広がっています。ただ、第三世代の薬は医師でなくては処方できません。その人の症状や生活パターンに最も適した処方薬がありますので、面倒でも病院で飲み薬と点鼻薬、点眼薬を処方してもらうことをお勧めします」(大久保さん)
花粉症のシーズンの耳鼻咽喉科は混み合うだけに、市販薬で済ませている人も少なくないはず。市販薬では花粉症の症状をうまく抑えられない、花粉症シーズンに酒を飲むと眠気が出て困る、という悩みを持つ人は特に、病院で薬を処方してもらうようにしよう。
つまみは「脂の多い肉類」を避ける
それでは先生、花粉症の症状が悪化しにくいお酒やおつまみの種類はあるのでしょうか?
「基本的に、どんなお酒でも飲み過ぎたら花粉症には良くありません。ただ、蒸留酒は醸造酒に比べ、酔いがさめやすいので、翌日の症状を悪化させないためには蒸留酒のほうが向いているかもしれません。おつまみは薄味を心がけ、かつ消化のいい軽めのものを選ぶようにしましょう。中でも緑黄色野菜は積極的にとりたい食材です。逆に、脂の多い肉類などばかり食べると、アレルギーを悪化させてしまうので注意が必要です」(大久保さん)
また、おつまみについては、なるべくたくさんの食材をバランスよく食べることが大切だという。
「脂をとる場合は、DHAやEPA、α-リノレン酸をはじめとする『オメガ3脂肪酸』を多く含む青魚や、亜麻仁油などがお勧め。オメガ3脂肪酸には、アレルギーの改善効果が認められています。そして、酔うことよりも、会話を楽しむことに重きをおいて、飲み過ぎに注意しましょう」(大久保さん)
酒を飲み出すと、つい唐揚げなど味の濃いものを選びたくなるが、花粉症のシーズンは青菜のおひたしや、イワシやアジの刺身を選ぶようにしたい。また、日本酒やビールよりも、蒸留酒である焼酎の水割りやハイボールが良さそうだ。
「花粉症のシーズンに限らず、花粉と接する粘膜や肌のケアを普段からすることも、症状を悪化させないポイントです。鼻をかむときはこすりすぎない、そしてティッシュを鼻の穴に詰め込むのも厳禁です。目には見えない小さな傷が、肌や粘膜についてしまうからです。他にも、規則正しい生活を送る、十分な睡眠をとる、ストレスをためない、少し汗をかくくらいの適度な運動をすることも花粉症対策につながります」(大久保さん)
花粉症の症状が出る前から生活習慣を整えておくことが、症状緩和へのカギになるという。心しておきたい。
根治を目指すなら「舌下免疫療法」
こうしたケアに加え、花粉症の最新治療も知っておきたいところ。一発で花粉症が完治するような治療があればいいのだが。
「残念ながら、花粉症は一度の治療で完治することは難しいですね。最新の治療でいうと、薬を飲んでも症状が緩和しない重症の方に向けた抗体治療があります。抗IgE抗体のゾレア(一般名:オマリズマブ) を、2週間または4週間に一度、皮下注射する治療です。ただしこれは重症患者のみが対象で、値段も高価です」(大久保さん)
根本治療を目指すのであれば、「舌下免疫療法」がお勧めだという。
「舌下免疫療法は、アレルギー反応を起こす物質を毎日体に入れる治療法で、通常2~3年程度かかりますが、1年継続するだけでも症状がだいぶ緩和すると言われています。花粉の飛散がなくなった6月ごろからスタートすれば、翌年の服薬量を減らすことも期待できます」(大久保さん)
花粉症シーズンも、外でのスポーツや花見を心から楽しみたいのであれば、舌下免疫療法を検討してもいいかもしれない。治療が終わるまで時間がかかるが、花粉症のしんどさを考えれば挑む価値大である。
コロナ禍は飛沫が気になることから、いつも以上に花粉症のケアが重要になってくる。飲んでいる最中にくしゃみを連発されると、気になって仕方ないからだ。一緒に酒を飲んでいる相手にしかめ面をされないよう、普段からのケアと病院で薬を処方してもらうことを怠らないようにしたい。
(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)
[日経Gooday2022年4月6日付記事を再構成]

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