乾燥によるかゆみ、悪循環を断ち切るコツは?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)かゆみは「痛みの弱い感覚」である
(2)かゆみを引き起こす物質は「ヒスタミン」が中心である
(3)かゆくなる前から保湿を心がけることが大切
(4)「紫外線」を適度に浴びることはかゆみ対策になる
答えは次ページ
答えと解説
正解(かゆみの説明として間違っているもの)は、(1)かゆみは「痛みの弱い感覚」である と (2)かゆみを引き起こす物質は「ヒスタミン」が中心であるです。

アジア初のかゆみの研究センターとして設立された順天堂かゆみ研究センターの高森建二特任教授は、「かゆみはとても身近な感覚にもかかわらず、長年、かゆみを伝える神経の仕組みは分かっていませんでした」と解説します。
例えば長年「かゆみは痛みの弱い感覚」と考えられてきました。皮膚など体の表面の感覚を脳に伝える神経には、伝達速度に応じA線維、B線維、C線維がありますが、C線維は痛みとかゆみの両方を伝えているとされてきました。しかし、1997年と2007年の研究で、かゆみを伝えるための独自のC線維が存在することが分かり、かゆみの研究は一気に加速することになりました。
表皮と真皮の境界まで伸びているかゆみのC線維
C線維について、もう少し解説しましょう。私たちの皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織に分けられますが、かゆみを伝えるC線維は、表皮と真皮の境界部近くまで伸びています。皮膚の表面が外界から刺激を受けたり、皮膚の細胞からかゆみを起こす物質が放出されたりすると、C線維の先端(終末)がその刺激を感知して脳へ伝え、脳がかゆみとして認識します。神経の先端にはかゆみを引き起こす物質を感知する受容体(レセプター)があります。
高森特任教授は「つい最近まで、かゆみを引き起こす物質はヒスタミンが中心だと考えられており、かゆみを訴える患者には抗ヒスタミン薬が漫然と投与されてきました」とも指摘します。しかし、じんましんなど抗ヒスタミン薬がよく効くかゆみもありますが、まったく効かないかゆみもあります。アトピー性皮膚炎のかゆみはその代表で、身近な乾燥肌によるかゆみもその一つです。
抗ヒスタミン薬で効かないかゆみに効く薬を見つけ出す方法が、C線維の受容体に結合する物質の探査です。これまでに約30種類の物質が見つかっており、その受容体をターゲットとした医薬品の開発も進められています。
そして、もう一つのアプローチとして高森特任教授らの研究グループが解明したのは、皮膚のバリア機能の低下が強いかゆみをもたらすメカニズムです。
皮膚のバリア機能の障害がかゆみの悪循環をもたらす
皮膚の表面にある角層では、角質細胞がしっかりと組まれたレンガの塀のように積み重なり、角質細胞の隙間はセラミドを中心とした脂質で埋められています。この角層の構造が外界の刺激から体を守ったり、体内の水分が外へ出るのを防いだりするバリアとなり、皮膚を乾燥から守っています。しかし、加齢など何らかの理由でレンガ同士をつないでいる脂質が減少すると、細胞と細胞の間に隙間ができるためバリア機能が低下。皮膚の水分が失われて乾燥肌になるとともに、外界の刺激や異物が侵入しやすくなります。
高森特任教授らは、アトピー性皮膚炎のモデル動物の実験により、乾燥肌になると、もともと表皮と真皮の境界部にとどまっていたかゆみを伝えるC線維が表皮の角層あたり、つまり体の表面近くまで伸びてくることを発見しました。
C線維が伸びると、乾燥肌の人はわずかな刺激でもかゆみを感じるようになり、肌を掻きます。するとバリア機能はより障害されC線維がさらに伸びてしまう「かゆみの悪循環」をもたらすといいます。
かゆみの悪循環

悪循環が進む前からの保湿ケアがお勧め
では、C線維をうまくコントロールする生活習慣はどのようなものでしょう。
ポイントは「保湿」と「紫外線」です。自分に合った保湿剤を選ぶのはもちろん、それ以上に重要なのは、「かゆくなる前から保湿を心がけること」(高森特任教授)です。「まだ大丈夫」と思わずに乾燥が気になったら保湿剤をしっかり使うことでC線維が伸びにくくなることが研究で明らかになっているそうです。
また、紫外線を適度に浴びることもかゆみ対策になります。高森特任教授は「以前からアトピー性皮膚炎の治療に紫外線療法がありました。なぜ紫外線が効くのか動物実験で調べたところ紫外線には伸びたC線維を退縮させる効果があることが分かりました。最近は、冬でも紫外線対策をしている人が少なくありませんが、適度な紫外線を浴びることはかゆみを軽減することにつながる」と言います。
乾燥肌の人のかゆみ対策に保湿が重要なことは、よく知られていると思いますが、かゆみのメカニズムを知ることで、より念入りな対策に取り組むきっかけにしてください。
[日経Gooday2022年11月28日付記事を再構成]
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