「潰瘍性大腸炎」は親から子へと遺伝する?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)親から子へと受け継がれる遺伝性疾患である
(2)30歳~40歳ごろまでに発症する人が多い
(3)腹痛や下痢を繰り返すほか、血便を伴うこともある
(4)適切な治療を行えば通常の社会生活を送ることができる
答えは次ページ
答えと解説
正解(間違っているもの)は、(1)親から子へと受け継がれる遺伝性疾患であるです。
国の指定難病の中でも特に患者数が多い潰瘍性大腸炎は、大腸に慢性的な炎症が起こり、腹痛や下痢、血便などの症状を繰り返す慢性疾患です。

潰瘍性大腸炎の患者数は1990年ごろから急増し続けており、2015年から2016年にかけて実施された全国疫学調査[注1]では、患者数は約22万人と報告されています。
「潰瘍性大腸炎の炎症が起こる原因は現在のところ解明されていませんが、主には免疫の異常、遺伝的な素因、環境的な要因、腸内細菌の4つが関与していると考えられています」。東京医科歯科大学大学院・消化器病態学教授で、潰瘍性大腸炎・クローン病先端医療センター(IBDセンター)センター長の岡本隆一氏はそう話します。
免疫の異常は、本来はウイルスや細菌などの病原体から身を守るために働く免疫機能が、何らかの原因によって過剰に働いてしまうことで起こります。遺伝的な素因では、潰瘍性大腸炎を発症しやすい遺伝子の型があることが分かってきています。「ただし、親から子へと受け継がれる遺伝性疾患というわけではありません」(岡本氏)。
環境的な要因では、欧米型の食生活のほか、衛生状態が整い、感染症などが減少した都市型の生活環境の影響も指摘されています。「このことは、炎症性腸疾患が欧米の先進諸国から増え始め、日本で急増が見られたあと、現在はアジアなどの新興国でも増えつつあることからも推察できます。また、腸内細菌については、ここ10年ほどの間に研究が進んでいて、炎症性腸疾患を発症する人は腸内細菌の種類が減っている、つまり、多様性が損なわれている可能性が示唆されています」(岡本氏)。
30歳~40歳ごろまでに発症する人が多い
潰瘍性大腸炎は、10代から増え始めて30歳~40歳ごろまでに発症する人が多く、男女比はほぼ同じです。大腸の粘膜に炎症が起こることでただれや潰瘍が生じ、傷んだ組織から出血したり細菌が侵入したりすることで炎症が悪化していきます。腹痛や下痢を繰り返すほか、血便を伴うこともあります。
「下痢が続いて薬を飲んでも治らない、血便があるといった症状が見られるときには、早めの受診が勧められます。潰瘍性大腸炎は、一般の消化器内科などでは診断が難しい場合があるので、疑わしい症状があるときは炎症性腸疾患を専門とする医療機関を受診していただくといいでしょう。国の難病情報センターのホームページには、都道府県・指定都市別の難病指定医の一覧も掲載されています」と岡本氏はアドバイスします。
潰瘍性大腸炎は発症すると長期的な治療が必要になりますが、近年は治療薬の選択肢が広がり、症状のコントロールが可能になってきています。「継続的に適切な薬物療法を行えば、長期的な寛解状態(症状が落ち着いた状態)を維持することが可能です。この病気と上手に付き合いながら、進学や就職、出産などのライフスタイルの変化にも適応して、充実した人生を送っている患者さんはたくさんいらっしゃいます。不安や悩みがあれば、1人で抱え込まずに、主治医とよく相談するようにしてください」(岡本氏)。
[注1]西脇祐司他「潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数推計に関する全国疫学調査」
[日経Gooday2022年10月31日付記事を再構成]
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