歯科検診を定期的に受けている人は動脈硬化リスク低い
症状がなくても定期的に歯科を受診している人は、そうでない人に比べて動脈硬化が進行している割合が低いことが、55歳以上の日本人を対象とした研究[注1]で明らかになりました。
定期的な歯科受診と動脈硬化の関係を、日本人を対象に分析
歯周病は、アテローム性動脈硬化症(血管の壁の中に粥状のコレステロール〔プラーク〕がたまり、血管が硬く狭くなった状態)と、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患に関係することが知られています。歯周病は予防することが大切で、そのために、症状がなくても定期的に歯科を受診することが勧められています。歯の定期検診では通常、歯周病検査や歯のクリーニング、歯石の除去などが行われます。
これまで、日本人を対象として、定期的な歯科受診と、歯周病、アテローム性動脈硬化症の関係を検討した研究はほとんどありませんでした。そこで、東北大学歯学研究科などの研究者たちは、岩手県花巻市大迫町で1986年に始まった疫学研究「大迫研究」に参加した55歳以上の人々を対象に、歯科受診、歯周病、残存歯数と、アテローム性動脈硬化症の関係を検討することにしました。
「2005~2016年に歯科検診とアテローム性動脈硬化症の検査を受けていた」などの条件を満たした602人(平均年齢66歳、男性が37.7%)を分析しました。歯科検診では、以下の状態を評価しました。
・歯周炎の有無と程度(歯周炎診断のためのCDC/AAP分類を用いて評価。歯周炎なしまたは軽症、中等症、重症の3群)
・残存歯数(20本以上、10~19本、1~9本の3群)
参加者には歯科検診とともに、頸動脈エコー検査を行い、内膜中膜複合体厚[注2]の最大値が1.1mm以上、または粥状プラークが認められた場合を「アテローム性動脈硬化症あり」と判断しました。

[注1]Yamada S, et al. J Periodontal Res. 2022 Jun;57(3):615-622.
[注2]内膜中膜複合体厚(IMT):三層からなる動脈壁の内膜と中膜を併せた厚さのこと。 頸動脈のIMTが1.1mmを超えると動脈硬化と診断され、同様に全身の動脈硬化の進行も進んでいると考えられる。 動脈硬化は老化でも進行するが、通常であれば1.1mmを超えることはない。(参考資料:厚生労働省e-ヘルスネット)
歯科定期受診者の動脈硬化リスクは低い
分析対象となった602人のうち100人が、症状がなくても定期的に歯科を受診していました。
歯科検診では、306人が残存歯数20本以上であることが確認され、149人は歯槽骨欠損の程度が軽く(最低四分位群)、43人は歯周炎なしまたは軽症と判定されました。
アテローム性動脈硬化症と判定されたのは117人でした。動脈硬化と見なされた人たちは、そうでない人たちに比べ、年齢が高く、男性が多く、収縮期血圧(上の血圧)が高く、高血圧の薬を使用している人が多く、肥満者は少ない傾向が見られました。
定期的に歯科を受診していた人の割合は、動脈硬化があった人たちでは10.3%、動脈硬化がなかったグループでは18.1%で、動脈硬化がなかった人たちのほうが統計学的に有意に高くなっていました。動脈硬化がなかった人たちのほうが、歯周炎の重症度は低く、残存歯数は有意に多いことも分かりました。歯槽骨欠損の程度は両群に差はありませんでした。
分析結果に影響を及ぼす可能性のある要因として、BMI(体格指数)、糖尿病や脂質異常症の存在、血圧の薬の使用、収縮期血圧、拡張期血圧(下の血圧)、喫煙習慣、飲酒習慣、学歴に関する情報を得て、それらを考慮して分析したところ、定期的に歯科を受診していない人がアテローム性動脈硬化症と判定される確率は、定期的に受診している人の2.16倍でした。
一方で、歯槽骨欠損の評価で最低四分位群に分類された人たちと他の群に分類された人たちの、アテローム性動脈硬化症と判定される確率に差はありませんでした。
歯周炎がない、または軽症の人々と比較すると、重症の患者がアテローム性動脈硬化症と判定される確率は有意に高く、4.26倍になっていました。
残存歯数で層別化した分析では、20本以上残っている人と比較して、10~19本だった人がアテローム性動脈硬化症と判定される確率は1.77倍でしたが、1~9本の人との差は有意ではありませんでした。
得られた結果は、定期的に歯科を受診しないことと、重症の歯周炎の存在が、アテローム性動脈硬化症の存在と関係していることを示唆しました。
[日経Gooday2022年8月17日付記事を再構成]

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