手足に謎のしつこい水疱 異汗性湿疹を疑ってみる
手指に発症することの多い異汗性湿疹。いわゆる手湿疹の一つとされているが、足に発症することもあり、水虫と勘違いされることも多い。夏に発症率が高まるこの疾患について、正しい知識を身につけておこう。
異汗性湿疹とは、主な症状として手指の側面や手のひら、足の側面や土踏まずなどに1~2ミリメートルの小さな水疱(すいほう)ができる疾患のこと。水疱が大きく広がった場合には「汗疱(かんぽう)」と呼ばれることもある。
水疱のでき始めには激しい痒(かゆ)みが生じ、かきむしって傷ができて痛みを伴うこともある。足の指間の皮がむけることもあり、水虫(足白癬)と勘違いされやすい。素人判断で市販の薬を塗って悪化させることもあるので要注意だ。
水虫と見た目の鑑別は難しく、サザンガーデンクリニック(東京・品川)の松本美緒副院長は「患部の皮膚を採取し、水虫の原因となる白癬菌の有無を顕微鏡で確かめての診断となる」と説明する。
ただ、どちらの疾患も汗で蒸れた環境下で発症しやすく、埼玉医科大学総合医療センター(埼玉・川越市)皮膚科の福田知雄教授は「同時に両方を発症する人や、交互に発症する人もいる」と話す。
異汗性湿疹は季節の変わり目や夏に発症しやすいといわれているが「若年層では受験期に、社会人では職場環境の変化で症状が酷くなるなど、ストレスとの関係も否めない印象がある」(松本副院長)。
女性の場合は生理前や生理中に症状が悪化するケースも目立つという。敏感肌の人、アレルギー体質の人や多汗症を患う人も発症しやすく「小児期に手湿疹を患っていた人も多い。子どもの手湿疹はきちんとケアをしておくべきだ」と福田教授は警鐘を鳴らす。

発症の原因は不明なものも多いが「金属やラテックスアレルギー、自己免疫疾患の治療で行われる免疫グロブリンの投与が原因となる場合がある」と福田教授。中でも金属アレルギーが関与する事例は珍しくなく「検査でアレルゲンとなる金属を特定し、それを除去することで症状が軽快する事例もある」(福田教授)。
金属アレルギーによる皮膚炎には、金属が皮膚に触れて発症する以外に、歯科金属や食品中に含まれる微量の金属が、口腔粘膜や腸管から吸収されることで起きる全身型金属アレルギーによる皮膚炎がある。

異汗性湿疹はこのアレルギーの一環として発症する。手のひらや足裏には汗管が多く分布し、汗に含まれる金属の濃度が高い部位とされている。このことが異汗性湿疹の発症に関わっていると考えられている。
発症の原因となる代表的な金属はニッケル、コバルト、クロムだが、食品から摂取するものも多い。例えばチョコレート、豆類、ナッツ類、香辛料、貝類、胚芽などに多く含まれる。松本副院長は「金属アレルギーのある人は、チョコナッツは避けるべき食品の一つ」と指摘する。
湿疹の症状が軽ければ保湿剤などで軽快することもあるが、痒みや痛みがある場合はステロイド剤の外用薬、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服薬などが処方される。
多汗症を伴う際はその治療薬が有効なこともあり「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の治療薬で症状が治まる事例も」と松本副院長。掌蹠膿疱症も金属アレルギーが発症要因の一つとされる疾患だが、発症の初期段階では異汗性湿疹と見間違いやすい。
異汗性湿疹は治療でいったん治っても発症を繰り返すことが多い。そのために皮膚が角化して硬くなりがちに。特に夏は汗で手足が蒸れる状況を避け、汗をかかずにすむ環境を整えたい。
症状に気づいた際は早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けるのが望ましい。
(ライター 仲尾 匡代)
[NIKKEI プラス1 2022年7月23日付]
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