足のむくみに潜む病気 静脈に血栓、心不全の恐れも

新型コロナウイルス禍で座りっぱなしの在宅仕事と運動不足が重なり、足のむくみに悩んでいる人もいるだろう。多くは一過性の症状だが、病気が隠れている場合がある。むくみの原因や対策について知っておこう。
むくみは血管からしみ出た水分が細胞のまわりに過剰にたまった状態。医学用語では浮腫という。心臓から動脈を通じて全身に送られる血液は静脈を経て心臓に戻るが、足は心臓から遠いうえ、重力に逆らって血液を送り返す。血行が悪くなると、むくみが起きやすい。指で押してできたへこみがなかなか戻らない。
日常起こりうる生理的なむくみもある。休息をとるほか、あおむけで足を上げて揺らしたり、つま先を上下させたりといった運動で改善することがある。ただ病気が原因のときは注意が必要だ。
例えば「深部静脈血栓症」だ。主に太ももやふくらはぎなどの深い場所を走る静脈に血栓(血のかたまり)ができて血管が詰まり、片方の足全体や膝から下が急にむくむ。痛みも伴う。お茶の水血管外科クリニック(東京・千代田)の広川雅之院長は「この夏は急に患者が増えた印象がある。コロナ禍での行動自粛や長時間にわたるテレビでの五輪観戦、暑さによる脱水などが影響したのかもしれない」と分析する。
広川院長によると、長時間同じ姿勢で足をあまり動かさなかったり、水分が不足したりすると起こる可能性があるという。血栓が足から流れてきて肺の血管を塞ぐと、呼吸困難などを引き起こすエコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に至ることがある。治療に当たっては血栓を溶かす抗凝固薬を服用する。
「下肢静脈瘤(りゅう)」もむくみの原因になる。足の静脈で血液の逆流を防ぐ弁がうまく働かず、血管がこぶのようになったり、網目状に浮き上がったりする。だるさや湿疹を伴うこともある。「立ち仕事の後など、昼から夕方にかけて膝の下から足首までむくみが出ることが多い」と広川院長。
命に関わる病気ではないが、症状がつらい、見た目が気になるときは治療する。静脈に細い管を入れて患部をレーザーなどで焼く「血管内焼灼(しょうしゃく)術」のほか、医療用接着剤を血管内に注入して逆流を起こしている血管を塞ぐ「グルー治療」が登場している。ともに治療にかかるのは30分前後、日帰りで受けられる。

心臓の働きが悪くなる「心不全」の初期症状のときもある。循環器内科医で榊原記念病院(東京都府中市)の磯部光章院長は「夕方から夜にかけて両足がむくむ。軽いうちは朝になるとよくなるが、進行するとむくみが引かず、体重も増える」と説明する。
むくみ自体は生理的なものと似ているが、坂道や階段での動悸(どうき)や息切れ、体重増、夜間頻尿などを伴うなら、心不全の可能性がある。磯部院長は「コロナ禍による受診控えの影響もあり、心不全が急に悪化して救急車で運ばれてくる例が増えている。足のむくみの段階で心不全がみつかれば、早く治療が始められる」と訴える。
他に考えられるのが「甲状腺機能低下症」。甲状腺ホルモンは新陳代謝を活発にする働きがあり、不足すればむくみやすくなる。甲状腺専門病院である金地病院(東京・北)の山田恵美子院長は「粘液状の物質がたまるため、指で押しても他のむくみのようなへこみができないのが特徴のひとつ。40~50代の女性に多く、更年期症状と見分けにくい」と説明する。足以外にもまぶたや顔のむくみ、意欲低下、疲れやすさなどがある。
足のむくみは腎臓や肝臓の病気、貧血、低栄養などでも起こりうる。むくみがなかなか治らず、他の症状もあったら医療機関を受診したい。
(ライター 佐田 節子)
[NIKKEIプラス1 2021年9月18日付]
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