脳梗塞の前触れ、一過性脳虚血発作(TIA)とは
脳の血流が一時的に悪くなり、半身のまひや言語障害などの症状が表れる一過性脳虚血発作(TIA)。症状は短時間で消えてしまうが、軽視はできない。TIAは「脳梗塞の前触れ発作」と呼ばれているからだ。
一過性脳虚血発作(TIA)は、主に頸動脈や心臓にできた血栓(血液の塊)が血流に乗って脳へ運ばれ、脳の血管を一時的に詰まらせることで起こる。
脳梗塞と同様に半身のまひや言語障害などの症状が表れるが、血栓が自然に溶けるなどして血流が再開すると症状は消えてしまう。とはいえ、TIAは脳梗塞を起こしかけた極めて危険な状態だ。
杏林大学医学部脳卒中医学教室の平野照之教授は「TIAを起こした人の6人に1人が3カ月以内に脳梗塞を発症する。そのうちの約半数は48時間以内に起きるといわれている」と警鐘を鳴らす。
TIAの症状は24時間以内に消失するとされているが、聖マリアンナ医科大学東横病院(川崎市中原区)脳卒中センターの植田敏浩センター長は「実際には数分から数十分、長くても1時間以内に消えてしまうことが多い」と話す。
症状が短時間で消えても「よくなったから大丈夫だろう」とは思わずに、速やかに脳神経外科や神経内科を受診することが重要だ。

TIAの代表的な症状は「顔・腕・言葉・目」でチェックできる。顔の片側が下がってゆがむ、片側の腕に力が入らない、言葉が思うように話せずろれつが回らなくなる、片側の目が見えなくなる(一過性黒内障)などだ。
一過性黒内障は、頸動脈から分岐し、目の網膜に血液を送る眼動脈に血栓が詰まることで起きる。「突然、横からカーテンが閉まるように、上から幕が下りるように見えなくなったなどと表現される。見え方がおかしいと感じたときは、片目ずつ視野を確認してほしい」(平野教授)
TIAの症状は消えるまでの時間が長い方が脳梗塞を起こしやすい。症状を繰り返す場合も要注意だ。「例えば、お酒を飲むといつも2杯目で手に力が入らなくなるといって受診し、即入院したケースもある」(植田センター長)
TIA後に脳梗塞が起きる危険性を予測するとき、医療機関では「ABCD2スコア」(表参照)が用いられる。7点満点で点数が高いほど高リスクとなる。

脳梗塞の発症を防ぐには、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)による脳の検査、頸動脈や心臓の超音波検査、心電図や血液検査などでTIAが起きた原因を探ることが大切だ。
治療の基本は薬物療法で、頸動脈などの動脈硬化が原因なら血栓を作りにくくする抗血小板薬、心臓にできた血栓が原因なら血栓を溶かしやすくする抗凝固薬が処方されるのが一般的だという。
高血圧や糖尿病、脂質異常症、心房細動など脳梗塞のリスクとなる生活習慣病の有無を確認し、あれば治療をすることも大事。禁煙のほか、過度な飲酒、高塩分・高脂質の食事を控えることも心がけよう。
夏場は特に脱水にも注意したい。発汗によって血液中の水分量が不足すると、粘り気のある状態になって血栓ができやすくなる。脱水による血圧低下も、脳への血流を滞らせる。「のどの渇きを感じる前にこまめに水分を摂取して、睡眠の前後にもコップ1杯の水分補給を忘れずに」(植田センター長)
脳梗塞はある日突然、発症することの方が多い。平野教授は「TIAが起きたときは、脳梗塞を防ぐ最後のチャンスと理解して、受診や生活習慣の改善など直ちに行動を起こしてほしい」と呼びかけている。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEI プラス1 2022年6月21日付]
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