その食物アレルギー 花粉と誤認して起きているのかも
大人になってから初めて「食物アレルギー」を発症する人が増えている。成人では原因となる食物が多様化し、花粉症や運動など食物以外の要因が関連して発症するケースも多いという。
食物アレルギーは有害な異物の侵入から体を守るIgE抗体などの免疫反応が、本来は無害な食物に対し過敏に働いて引き起こされる。
日本アレルギー学会指導医で日本医科大学付属病院(東京・文京)皮膚科非常勤講師の藤本和久氏は「成人の食物アレルギーはある日突然、それまで問題なく食べられた食物によって発症することも珍しくない」と話す。
一般的な「即時型食物アレルギー」の場合、成人ではエビやカニなどの甲殻類、小麦、魚類、果物類が原因となることが多い。「近年はナッツ類でのアレルギーが増えている。特にクルミが急増していることから、消費者庁が加工食品への表示を義務化する方針を発表している」(藤本氏)

これらの原因食物を摂取した後、数分から2時間程度で皮膚や目のかゆみ、じんましん、下痢や腹痛など様々な症状が現れる。
国立病院機構相模原病院(相模原市)臨床研究センターアレルゲン研究室の福冨友馬室長は「成人では特殊型とされる『口腔(こうくう)アレルギー症候群(OAS)』と『食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)』の割合が増える」と指摘する。
OASは原因食品を食べると数分から数十分以内に唇や口の中、のどに腫れやかゆみ、違和感などの症状が出るのが特徴で、花粉症と強い関連があることが分かってきている。
例えば、シラカンバ(シラカバ)やハンノキなどカバノキ科の花粉症があると、モモやリンゴなどのバラ科の果物、大豆製品、ニンジンやセロリなどセリ科の野菜でOASを発症しやすい。花粉症の原因となる花粉のアレルゲンと、果物や野菜に含まれるたんぱく質の構造が似ていることから、有害な異物と誤って認識されて免疫反応が起こる。
こうした現象は「交差反応」と呼ばれ、様々な例が報告されている(左表参照)。「近年はカバノキ科の花粉症がある人が、豆乳を飲んでOASを発症する事例が増えている」(福冨室長)

藤本氏は「キク科の花粉症の人がヨモギの成分を含むお線香の煙を吸ってアレルギー症状を起こすなど、食物以外が原因になることもある」と話す。
FDEIAは主に小麦由来の食品を食べた後、2時間以内~3時間程度までに運動をすると、呼吸困難や血圧低下など命にも関わる症状(アナフィラキシーショック)を引き起こす。散歩程度の運動や入浴でも発症することがあるという。
こうした成人の食物アレルギーは、本人または肉親がアトピー性皮膚炎や喘息(ぜんそく)などのアレルギー疾患を持っているなど、アレルギー体質の人が発症しやすい傾向がある。
偏った食事、慢性的なストレスや過労といった生活習慣の乱れも発症の要因になる。「特に甘い菓子や清涼飲料などで砂糖を多くとる習慣があると、アレルギーの悪化につながることがある」(福冨室長)
食後や特定の食品を食べたときに何らかの不快な症状が出る人は、アレルギー科や皮膚科で血液検査や皮膚テスト(プリックテスト)を受けることが勧められる。
検査で食物アレルギーと分かれば、原因食物を避けるのが基本だが、果物や野菜の場合は、加熱すれば食べられることもある。対処法もあわせて医師とよく相談するといいだろう。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEI プラス1 2022年10月15日付]
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