お酒は「断酒」より「減酒」 この方法で確実に減らす
新型コロナウイルス禍でリモートワークへの移行が進み、家庭で飲む酒の量が増えた人は少なくない。健康のためにコントロールするにはどうしたらいいのか。ヒントは新たなアルコール依存症治療の取り組みである「減酒」治療にあった。
お酒の量を減らしたい思う理由は人それぞれ。「朝から充実した時間を持ちたい」という前向きな人もいれば「酒が残って午前中の会議が辛い」という少し深刻な悩みを持つ人もいる。
最近では飲酒と健康との関係も詳しく解明されている。佐賀県医療センター好生館(佐賀市)精神科の角南隆史医長は「酒は百薬の長といわれてきたが、アルコールは少なくても飲む量に応じて心臓血管障害などのリスクを高める」と指摘する。
厚生労働省が示す適正な1日の飲酒量は純アルコール量で20グラム程度まで。60グラム以上は多量飲酒者となるが「一人ではなかなか酒量を減らせない」という人は少なくない。

こうしたアルコール依存症予備軍をサポートする医療の取り組みが広まっている。背景には依存症治療の変化がある。かつては「断酒」で全く飲まないことを強く求めた。そのため治療をためらう人や治療から脱落してしまう人も少なくなかったという。
新たな治療は「少しでも減らせば心身によい効果が得られる」という「減酒」だ。軽症~中等度の依存症の患者を対象にした治療だが、それ以外の人の減酒サポートにも応用され始めた。
都心のオフィス街で減酒外来を開いている「さくらの木クリニック秋葉原」(東京・千代田)の倉持穣院長は「管理職に就き、仕事で飲酒が原因の失敗をしたことのない人も相談に来る」と指摘する。
筑波大学附属病院(茨城県つくば市)ではさらに幅広い人を対象にするため、総合診療科に「アルコール低減外来」を設けた。吉本尚准教授は「この名称にしたことで受診のハードルが下がった。飲酒のため高血圧などの生活習慣病が改善しないという人など幅広い人が受診している」と話す。
角南医長は医療機関ではなく職場や自治体などが行う「アルコール依存症予防プログラム」の開発に取り組んだ。角南医長は「飲酒による明確な問題がない人は医療機関を受診することは少ない。身近な場所で依存症に移行する人を減らしたい」と解説する。
こうした取り組みの根本にあるのは認知行動療法。そのノウハウを知ることは、一般の人の減酒にも役立つ。
まずは「減酒日記」で毎日の飲酒量を純アルコール量(グラム)で記録し、自分の問題点を意識することが第一歩。角南医長は「最近では、スマートフォンのアプリを使って純アルコール量への換算や記録が簡単にできるようになった」と話す。
次に目標を立てる。まずは可能な目標を立て、飲酒量が減ったときのメリットを記録。倉持院長は「酒量を少し減らすだけで、頭がスッキリした、よく眠れるなど体に変化が表れる」と指摘。自覚することで減酒のモチベーションがさらに高まるといった好循環をもたらすという。

無理なく1日の酒量を減らす工夫も大切だ。吉本准教授は「減酒日記をつけていれば9%の缶酎ハイを5%に変えるだけで、かなりアルコール量が減ることに気づく」と指摘。自分の好きなノンアル、微アルドリンクを探して、飲酒の間に入れれば楽しく飲酒をしながら自然に純アルコール量を減らせる。飲酒時以外の対策としては、酒の買い置きをせず、ビールはその日に飲む分だけ冷蔵庫に入れるなどもある(図参照)。
飲酒量を自分でコントロールする習慣を身につければ、その先にはより快適な生活が待っている。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEI プラス1 2022年11月12日付]
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