老け顔、骨の老化も一因 全身の骨密度低下も疑おう
老け顔の人は実は骨も老けていることが多い。また骨を形成する細胞が全身の健康に関わる物質を分泌することが分かってきた。若々しさと健康を維持するには骨の代謝を促し、骨密度を減らさないことが大切だ。
年齢を重ね、顔のシワやたるみが気になりだすとスキンケアに励む人が多い。しかし老け顔は皮膚だけの問題ではない。根本原因は皮膚や筋肉の下にある骨の萎縮だ。

ゆりクリニック(東京・港)の矢吹有里院長は「加齢とともに顔の骨がやせ、顔筋を支えるじん帯がゆるみ、たるみが起こる」と説明する。まぶたがくぼんだり、ほうれい線が目立ってきたりするのも骨密度の低下によるものだ。
骨の萎縮は顔だけで起こるわけではない。見た目が老けている人は、全身の骨密度低下を疑う必要があるだろう。
あまり知られていないが、骨は皮膚と同様に新陳代謝を繰り返している。古くなった骨を破骨細胞が壊し、その部位に骨芽細胞が新しい骨を形成する。こうして全身の骨は3〜5年ほどですべて入れ替わるのだという。
加齢による骨細胞の劣化などが原因でこの代謝バランスが乱れると、骨破壊のスピードに骨形成が追いつかなくなる。すると全身の骨がスカスカのもろい状態になっていき、骨折リスクが高まる。骨粗しょう症の発症である。
骨粗しょう症には自覚症状がないため、骨折してから分かるケースが多い。矢吹院長によると「特に発症しやすいのは、女性ホルモンのエストロゲン分泌量が急激に減る閉経前後の女性。エストロゲンには破骨細胞と骨芽細胞のバランスを保つ働きがある」。
若い女性も過度なダイエットなどでエストロゲンが減り、骨密度低下を招くケースが増えている。男性の骨密度低下は女性に比べて緩やかだが、やはり加齢とともに進む。糖尿病などの生活習慣病から骨の質を劣化させ、骨折しやすくなる中高年男性も少なくない。矢吹院長は「誰もが意識的に骨の代謝を促すことが骨粗しょう症の予防につながる。できるだけ早期から『骨貯金』をしてほしい」と助言する。

骨の代謝促進は骨粗しょう症対策になるだけではない。福岡歯科大学口腔医学研究センター長の平田雅人客員教授は「骨芽細胞が活性化すると、同細胞が分泌するオステオカルシンというタンパク質の量が増える」と指摘する。
オステオカルシンの大部分は骨の中に埋め込まれるが、ごく少量が血液中に放出されて全身に運ばれ、様々な臓器の働きを高めることが最近の研究で分かってきた。
「例えば、すい臓に働きかけ血糖値を下げるインスリンの分泌を促す。これは糖尿病予防になると考えられる」と平田客員教授。ほかにも認知症、動脈硬化、メタボリックシンドローム、筋肉の衰えなどの予防効果が期待できるという。つまり骨の代謝促進は全身の健康維持にとっても重要だといえる。では具体的に何をすべきか。
まずは丈夫な骨作りに必要な栄養素を食事で積極的にとろう。矢吹院長は「骨の主成分であるカルシウムやタンパク質、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、カルシウムの骨への定着を助けるビタミンK、骨の代謝を助けるマグネシウムなどをバランスよく摂取してほしい」と勧める。
骨に刺激を与える運動も不可欠だ。手軽にできるのは、つま先立ちになり、かかとをストンと勢いよく床に落とすかかと落とし。平田客員教授は「全身の体重がかかるかかとは強い刺激を与えやすい。負荷がかかると、その力に耐えられる骨を作ろうと骨芽細胞が活性化する」と話す。
骨に効果的な食事と運動をぜひ毎日の習慣にしよう。
(ライター 松田 亜希子)
[NIKKEI プラス1 2023年2月11日付]
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