健康保険も利く コロナ感染症にも使われる漢方
風邪や夏バテ、更年期症状、加齢による衰えといった身近な不調だけでなく、新型コロナウイルス感染症にも用いられる漢方。健康保険が利き、街のドラッグストアでも市販薬を手軽に入手できる。上手に使って、不調改善や体調管理に役立てたい。
漢方は6世紀ごろに中国から伝わった医学が日本で独自に発達したもの。現在、健康保険の利く医療用漢方製剤が148処方、薬局などで市販される一般用漢方製剤が294処方ある。
慢性疾患にじわじわ効く印象があるが、実は急性疾患にもよく使われる。新型コロナウイルス感染症も例外でなく、日本東洋医学会は新型コロナの関連症状に対し、2020年3月から学会主導の臨床研究に取り組んでいる。
同学会会長を務める、証(あかし)クリニック(東京・千代田)の伊藤隆総院長は、「通常の新型コロナ治療に漢方を併用した約1300例を解析した結果、早期に漢方を併用した群では西洋薬単独群に比べ、症状緩和は同等であるものの、重症化リスク軽減が認められた」と説明する。詳細は同学会が8月下旬に開催する第1回漢方医学国際シンポジウムで発表予定という。
また新型コロナが治った後も微熱やのどの痛み、咳、倦怠感(けんたいかん)などが続く後遺症にも漢方治療が行われている。伊藤総院長は、柴胡(さいこ)という抗炎症作用のある生薬を含む漢方をよく使うそうだ。「柴胡剤にはいくつか種類があるので、患者の体質と症状に合うものを選ぶ。2週間から1カ月ほどで改善する例が多い」
漢方専門医は脈や舌、おなかなどの状態を診て総合的に患者の体質を判断するが、大まかなタイプ分けなら日ごろの体調から自分でも推察できる。体ががっちりして血色が良く、体力のある人は「実証」、やせ形で顔色が悪く、疲れやすい人は「虚証」、その間が「中間証」とされる。

例えば女性の更年期症状や月経関連症状に対しては、実証で頑固な便秘のある人には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、中間証~実証で足が冷えて顔がのぼせる人には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、虚証で貧血気味の人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が向く。漢方は1剤に複数の生薬が含まれ、便秘と月経痛が同時に改善するなど、複数の症状に効果が期待できる。
男性の場合は中年以降、夜間の頻尿や腰痛、インポテンツ、気力体力の低下などが表れやすくなる。新見正則医院(東京・千代田)の新見正則院長は「こういった加齢による衰えには八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、仕事など日常生活での疲れには補中益気湯(ほちゅうえっきとう)がいい」と話す。

風邪の引き始めにも漢方が役立つ。新見院長は家族で漢方を飲み分けているという。「体力が中程度の私は葛根湯、体力が低下気味の妻は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、若く体力のある娘は麻黄湯(まおうとう)を飲むことが多い」。どれも体温を上げて発汗を促す作用がある。葛根湯は寒気や肩・首筋のこわばり、麻黄湯は強い悪寒や高熱、麻黄附子細辛湯は寒気やのどの痛みがサインになる。風邪を引いたかなと思ったらすぐに飲み、汗がじんわり出てきたら服用をやめる。自分に合う漢方をタイミングよく使えば、寝込まずにすみそうだ。
夏バテにも効く。暑さによる体力低下や疲労、食欲不振によく用いられるのが清暑益気湯(せいしょえっきとう)。暑気あたりで、むくみやすい人には五苓散(ごれいさん)がいい。五苓散は体内の水分代謝を改善する作用があるので、二日酔いにも効く。
漢方は市販薬もあり、比較的安全に使えるが、副作用が出ることもある。胃腸不良や動悸(どうき)、むくみ、かゆみなどが出たら飲むのをやめる。新見院長は「医師や薬剤師に相談しながら自分に合った漢方を見つけてほしい」と助言する。全国の漢方専門医は日本東洋医学会のサイトで検索できる。
(ライター 佐田 節子)
[NIKKEI プラス1 2022年8月6日付]
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