隠れメタボが進行、40歳からの血液リスク管理術
日経ヘルス・フォーメン
いまや肥満の代名詞として使われているメタボ(メタボリックシンドローム)だが、その本当の怖さをちゃんと理解している人は少ない。最近では、健診結果がメタボリックシンドロームの診断基準を超えると、ドミノ倒しのように次々と体に異変をもたらすメカニズムが詳しくわかってきた。


メタボの第1歩目は、いうまでもなく内臓脂肪の蓄積にある。昭和大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の平野勉教授は「体内の腸の周りにたまる内臓脂肪にはとりすぎたエネルギーの貯蔵庫の役割があるが、たまりすぎると門脈という血管を通して脂肪(遊離脂肪酸)が肝臓に流れ込み、そこで中性脂肪がたくさん合成されるようになる」と話す。
じつは、この中性脂肪上昇がメタボの第2歩目だ。血糖値を調節するインスリンの働きを低下させたり(インスリン抵抗性)、コレステロールの代謝を異常にする原因となる。しかも、増えすぎた内臓脂肪からは悪玉ホルモンが分泌されインスリンの働きはさらに低下、血圧上昇も引き起こされる。
こうなるとメタボ進行は駆け足だ。脂質異常や高血圧は太い血管の動脈硬化を進め、血糖の上昇は毛細血管など中小の血管の機能を低下させる。つまり全身の血管を少しずつ痛めつけていくのがメタボなのだ。メタボが進行すると脂質異常症、糖尿病、高血圧症などの病気を発症するが、病名がつかないメタボ状態でも動脈硬化は密かに進み脳血管疾患(脳出血・脳梗塞)、心疾患(心筋梗塞・狭心症・心不全)のリスクを大幅に高める。

どうしたらメタボの進行を食い止められるのか。基本が肥満解消にあることは知られているが、これが逆に「自分は太っていないから大丈夫」という誤解を生みがちだ。東京慈恵会医科大学晴海トリトンクリニックの阪本要一所長は「欧米人と比べて日本人には糖尿病を発症しやすい体質を持っている人が多いため、見た目はスマートでもメタボが進行していることがある」と話す。
糖尿病は血糖値の上昇がもたらす病気だが、血糖値上昇の原因は前述のインスリン抵抗性以外に、インスリンを分泌するすい臓機能の低下(分泌障害)も関与している(右図)。日本人では、もともとすい臓の機能が弱い人が多いので、内臓脂肪が少し多くなっただけでも血糖値が高くなる「やせメタボ」タイプになることが多いのだ。
つまり、自分の体の中でどれだけメタボが進行しているかは、体形だけでは判断できないのである。自分がメタボでないかどうか確実にチェックするために重要なのは、じつは定期健康診断などで調べられる血液検査や血圧測定の結果に注目することが大切なのだ。
この人たちに聞きました

東京慈恵会医科大学晴海トリトンクリニック所長。メタボリックシンドローム対策の第一人者。「内臓脂肪は皮下脂肪と比較してすぐ使えるエネルギー貯蔵庫。太古から狩りなど活動量の多い男性の体は、内臓脂肪をためやすい仕組みを持っているので、メタボリックシンドロームに対する注意が必要です」

昭和大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科教授。脂質代謝研究の第一人者。「メタボリックシンドローム代謝は、体のエネルギー代謝全体を考えることが大切です。血液中のブドウ糖と同様にエネルギーを全身に運ぶ役割を果たしている中性
脂肪のコントロールにもっと注目していただきたい」
(ライター 荒川直樹)
[日経ヘルス・フォーメン2012年春号の記事を基に再構成]
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