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「寝る子は育つ」は本当 大人より活発な赤ちゃんの脳

働きもののカラダの仕組み 北村昌陽

NIKKEI STYLE

 皆さんはよく眠れていますか? 人間は、人生の約3分の1を眠って過ごします。寿命を80歳とすれば、約27年も眠るのです。こんな膨大な時間を費やして、カラダは何をやっているのでしょう。もちろん、大切な仕事があるのです。

「惰眠を貪る」という言葉があるように、一般に眠りは、生産的な営みとは思われていない。でも、この連載の愛読者ならお分かりと思うが、こういう一見ムダに見えるときこそ、カラダは生命活動を支える重大なことをやっているものだ。

では、眠りにはどんな働きがあるのだろう? 東京医科歯科大学名誉教授の井上昌次郎さんにじっくり聞いてみよう。

眠りの最初はメンテナンス、終盤は目覚めの準備をする

「眠りを必要としているのは、大脳です」。井上さんはこう話し始めた。大脳は、人間の知的活動を支える中枢。生き物の進化でいうと、ほ乳類や鳥類の繁栄とともに発達した「新しい脳」で、ヒトにおいて特に発達している。私たちがものを考えたり言葉を話したりできるのは、高性能の大脳のおかげだ。

だが大脳には、弱点もある。連続運転に弱いのだ。「ずっと働いているとオーバーヒート状態になり、誤作動が増えます」。確かに、寝不足のときはミスをしやすい。だから睡眠という「メンテナンス」が必要になる。

そのメンテナンスを管理するのが、脳幹。脳の奥の方にある、より「古い脳」だ。脳幹の指令によって、大脳は眠りにつく。「大脳を『眠る脳』とすると、脳幹は『眠らせる脳』といえます」

大脳が眠っている間も、コントロール中枢である脳幹は、不寝の番を続ける。眠りの状態を管理する必要があるからだ。「レム睡眠」「ノンレム睡眠」という言葉をご存知だろう。睡眠中の大脳を脳波計で調べると、大きく2種類の状態に分かれる。睡眠の最初にまず現れるのがノンレム睡眠で、このときは大脳の神経の活動が鎮まって脳波が緩やかになる。数十分後、今度は脳波が活発に動き始める。これがレム睡眠。大脳が激しく活動している状態だ。

この「ノンレム睡眠→レム睡眠」というサイクルが、約90分周期で一晩の間に4~5回繰り返される。このサイクルを作り出しているのが、脳幹なのだ。「最初のノンレム睡眠が、一晩の中で最も深い眠り。このとき成長ホルモンが分泌され、メンテナンスが進みます」。そして2回目、3回目と進むにつれ、ノンレム睡眠は浅く、短くなる。

反対にレム睡眠は、朝に向かって徐々に増える。「レム睡眠は、大脳を覚醒させる準備をしているのです」と井上さん。冷えた車のエンジンを暖機運転するように、深く眠った大脳を、覚醒に向かって徐々に動かす。これで目覚めた瞬間から大脳がフル稼働できるわけだ。

へ~、脳幹が行うメンテナンスには、暖機運転まで入っているのか。大脳って大切にされているんだなぁ。

赤ちゃんのレム睡眠は脳を育てている

「ところで、赤ちゃんの眠りは、大人よりずっとレム睡眠が多いのですよ」。井上さんはふと、こんな話を始めた。ほー、それはどういうことだろう。

大人の睡眠では、レム睡眠の割合は20~25%。だが新生児では睡眠時間の約半分がレム睡眠、胎児期までさかのぼると100%レム睡眠になるという。「このレム睡眠は、脳の神経回路を作っているのです」と井上さん。神経回路は、活動するほどつながりが強くなる。そこで胎児や新生児の頭の中では、神経をしっかり"敷設"するために脳幹が活発に活動する。これがレム睡眠の始まり。よく「寝る子は育つ」というけれど、レム睡眠は文字通り、赤ちゃんの脳を育てているのだ。

そして脳(特に大脳)が発達すると、「覚醒」という状態が生じる。すると今度は、覚醒によるオーバーヒートを修復するためにノンレム睡眠が増える──と、こんなふうにして、脳の成長とともに睡眠の中身も変化していくのだ。

なるほどね~、睡眠は生涯にわたって私たちを守っているのか。大切にしましょう。

北村昌陽(きたむら・まさひ)
 生命科学ジャーナリスト。医療専門誌や健康情報誌の編集部に計17年在籍したのち独立。主に生命科学と医療・健康に関わる分野で取材・執筆活動を続けている。著書『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)。

[日経ヘルス2013年5月号の記事を基に再構成]

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