肌の調子整える「美肌菌」 アトピーやニキビ対策も
「美肌菌」として注目を集める表皮ブドウ球菌。「皮脂や汗を食べて、グリセリンや有機酸など、皮膚に有益な成分を生み出す」と話すのは、東京女子医科大学東医療センターの出来尾格講師だ。一方、食中毒の原因菌でもある黄色ブドウ球菌は、皮膚の調子を崩す悪玉菌といわれる。

そこでまず、自分の皮膚常在菌の現状把握から始めようというのが、自由診療の肌検診「美肌菌ドック」。表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、ニキビの原因となるアクネ菌の量を調べ、ほかの肌質検査の結果と併せて、医師らがスキンケアを指導する。
菌バランスを整えるには、(1)菌バランスを崩すスキンケアをやめて美肌菌の自己増殖を待つ、(2)美肌菌が生み出す有益な成分を肌に塗布して菌の活動後のような肌状態にする、(3)自分の美肌菌を外部培養して戻す、(4)美肌菌のエサを肌に塗布する、の4つの方法がある。
(1)は化粧品を使わない「肌断食」や、"殺菌成分"である防腐剤を含まない「無添加化粧品」などが該当。(2)は保湿成分のグリセリンを配合した一般的な化粧品なども相当する。
(3)を実用化したのが「美肌菌バンク」だ。人によって定着する菌は異なるため、自分の顔の表皮ブドウ球菌を採取、培養する。菌は凍結保管され、好きな機会に取り寄せられる。(4)も市販化粧品として出始めた。

こうした動きの背景には、皮膚疾患と皮膚常在菌の研究の進歩がある。「アトピー性皮膚炎患者の8割以上は黄色ブドウ球菌を保持する」と出来尾講師は明かす。
慶應義塾大学医学部の海老原全准教授は「動物実験から、遺伝的に皮膚増殖因子が欠損していると黄色ブドウ球菌が極端に増えてアトピー性皮膚炎を引き起こすケースがあると分かった。消毒液の次亜塩素酸を用いて黄色ブドウ球菌の異常増殖を抑え、アトピー性皮膚炎の悪化を防ぐ試験を行っている」と説明する。

ニキビでは、「皮脂分泌が盛んになる頃にニキビにならないタイプのアクネ菌を植え付けてニキビを防ぐ研究も始まっている」と出来尾講師は話す。ただし肌に関わる菌種は多く、特定菌種を増やしても無意味との指摘もある。

この人たちに聞きました

東京女子医科大学東医療センター皮膚科講師。慶應義塾大学医学部卒業。アトピー性皮膚炎や皮膚常在菌を研究する。「石けん洗顔で皮膚常在菌は減るが、12時間ほどで回復すると考えられる。回数が多いと回復できない」

慶應義塾大学医学部皮膚科学教室准教授。慶應義塾大学医学部卒業。皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎などについて研究する。「現時点では黄色ブドウ球菌の静菌による治療を研究している。ニキビの対策にもなるだろう」
(日経ヘルス 宇野麻由子)
[日経ヘルス2015年10月号の記事を再構成]
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