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54年を経て敵から味方に バターをめぐる評価の変遷

NIKKEI STYLE

日経ヘルス
かつては「動物由来のバターをとりすぎず、マーガリンに置き換えるのが健康的」といわれたが、今は「むしろバターは健康的」という専門家さえいる。こうした見解の変化がどうして起きたのか。オイルの歴史を、米国在住の医師・大西睦子さんに3回に分けて解説してもらう。今回は、健康の敵と目されたバターが、50数年を経て見直されてきた歴史をひもとく。

脂質が米国人の健康の敵となったのは、1961年1月13日と推測されます。この日、米ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士が、雑誌『TIME』の表紙を飾り、全米で話題となりました。博士は食生活と心疾患との関係に着目し、日本を含む7カ国の国民の調査を行いました。その結果、バターに多く含まれる飽和脂肪酸(パルミチン酸など)を大量に摂取する国で心疾患が多いと結論づけました。

1970年代になると、多価不飽和脂肪酸は悪玉(LDL)コレステロールを減らし、善玉(HDL)コレステロールを上げるなど、脂質の種類によって血中コレステロールに対する影響が異なることが示されました。

こうした研究結果があったにもかかわらず、1980年代、90年代の「米国人のための食生活指針」は、総脂肪摂取量の減量に焦点を置きました。低脂肪や無脂肪をうたって砂糖や炭水化物を増やした食品が増え、米国人の肥満問題が悪化しました。

1997年、米ハーバード大学フランク・フー博士らは、大規模な疫学研究で、摂取する飽和脂肪酸のうちわずか5%を不飽和脂肪酸に置き換えると、心疾患のリスクの1つが42%も減ることを示しました。この報告はメディアでも報道されましたが、それでも多くの米国人に低脂肪ダイエットが定着していました。

飽和脂肪酸の見直し説が登場

2014年、英国ケンブリッジ大学のラジヴ・チョードゥリー博士らは、米国内科学会誌に、「飽和脂肪酸の摂取制限を支持する証拠はない」と報告し、脂質闘争が再燃しました。米国メディアは「飽和脂肪酸は悪者ではない」「飽和脂肪酸の摂取は心臓病と無関係」「バターが帰ってきた」などと大騒ぎをしましたが、すぐに多くの専門家が批判を始めました。

例えば、ハーバード大学ウォルター・ウィレット教授は、「この分析は、複数の大きな間違いや見落としがあり、深刻な誤解を招くため無視するべき」と警告しています。ほかにも多くの専門家がウィレット教授の意見を支持しています。

以上のように、過去50年間にわたり飽和脂肪酸の善悪についての論争は続いています。米国では、2015年2月発表の新しい「米国人のための食生活指針」草案で、飽和脂肪酸の摂取カロリーを総カロリー摂取量の10%以下に抑えるように推奨しています。バターに対する評価は変わりつつありますが、摂りすぎには注意したほうがよさそうです。

執筆者プロフィール

大西睦子さん
医師。東京女子医科大学卒。2007年4月より、ボストンのハーバード大学に留学し食生活と病気の発生を疫学的に研究。著書に『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)ほか多数。
 参考文献「Harvard T.H. Chan School of Public Health『Is butter really back?』」

(編集 日経ヘルス、写真 スタジオキャスパー)

[日経ヘルス2015年9月号の記事を再構成]

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