急な運動、故障のもと 膝とアキレス腱守るストレッチ
ストレス解消のルール

東京五輪以降、スポーツを再開、もしくは始めようと思った人も少なくないのではないだろうか。しかし、そこで注意したいのが「故障」だ。定期的に動かさずメンテナンスもしていない車は危険だ。体も普段何もしていないのに急に動かしてしまうと、故障のリスクが高まる。東京五輪選手村ならびにトライアスロン/テニス競技の選手対応ドクターで、数々のトップアスリートの体を診てきた昭和大学医学部整形外科学講座客員教授の平泉裕医師に、運動初心者に潜む故障リスクと予防法を教わった。
故障トップ3は「膝」「アキレス腱」「股関節」
そもそも、トップアスリートと運動初心者の故障は違うものだろうか?
――平泉医師「トップアスリートの故障の場合、ほとんどが筋肉疲労や骨折など、『酷使し続けたため』に起こります。運動初心者の場合、運動に必要な柔軟性や弾力性のある体に整えられていないのに、『無理やり動かそうとするため』に起こりがちです」
そういえば、私も急に思いついて毎朝走ろうと試みたことがあった。ところが膝に痛みが走り、「三日坊主」さながら3日で断念してしまったことがある。
――平泉医師「急に体を動かした場合に起こりやすい故障トップ3は、『膝の痛み』『アキレス腱(けん)の痛み』『股関節の痛み』です」
まさに私の膝も故障トップ3入りだ。ただ「膝」の場合、スポーツとは関係なく痛みを訴える声をよく聞く。
――平泉医師「『膝の痛み』の原因には大きく分けて3つあります。『スポーツによる膝の酷使』『加齢』『運動不足』による症状です。加齢の場合、膝への衝撃を吸収するクッション・軟骨がすり減って傷むために生じます」
私自身、膝の痛みを感じた時に、「膝に問題があるから運動をしていけない」と感じて走るのをやめたのだが、早くから軟骨がすり減って傷んでいたのだろうか?
――平泉医師「運動不足だとしたら、むしろ『運動をしていないから』痛みを感じたのでしょうね」
どういうことだろうか?
――平泉医師「普段あまり運動をせずに座っている時間が長いと、筋肉や腱の柔軟性が失われてしまいます。そこへいきなりスポーツを始めてしまうと急に大きな負荷がかかるため、弾力性を失っている筋肉や腱の線維が断裂したり炎症を起こしやすくなるのです」
そういえば、私の膝の痛みも放っておいたら数日で治った。炎症がすぐに治まったということだろうか。
――平泉医師「そうですね。痛みを感じて無理をせずにやめたのは正解でした。ただ、予防策として、運動前のストレッチをしっかりとやっておけば痛みを感じることもなく、楽しく続けられたでしょうから残念でしたね」
早速、次回の予防のために膝回りのストレッチを教わってみた。
<膝関節の痛み予防>
太もも~膝の前面ストレッチ(大腿四頭筋~膝蓋靭帯)

私もやってみた。膝はもちろんだが、思っていた以上に太ももの前側がジンワリと伸びる。普段は意識していなかったが、太ももの前も動かさないと縮こまるものだと実感。
ただ、運動不足の身ではバランスを崩しやすいので、寝そべった状態で行うのも良いだろう。
――平泉医師「太ももの前側(大腿四頭筋)と膝の前面(膝蓋靭帯)はつながっているので、同時に伸ばすことで膝の柔軟性を取り戻すことができます。運動の前だけでなく、普段から気づいた時に伸ばしておけば、急に走った時や長距離を歩いた時にも膝を守ってくれますよ」
アキレス腱を守るためのストレッチ
「アキレス腱の痛み」は想像しやすい。体育の授業の準備運動でも、「アキレス腱を切らないようによく伸ばしておきましょう」とよく言われていた気がする。
――平泉医師「『腱』は、骨と筋肉をつなぐバネの役割をしています。中でもアキレス腱は、かかとにかかる荷重の調整役。ジャンプや走る際に重要になってきます」
箱根駅伝の選手が走る様子を撮影したことがあるが、ほとんど地面に足がついていないように見えた。
――平泉医師「特にトップアスリートは腱のバネの力(張力)を使って飛び跳ねるように走ることで効率的に推進力を発生させています。バネの強度を上げ、ケガをしないためにも、バネとしての腱の柔軟性は大切なのです」
アキレス腱が切れやすい人もいるのだろうか?
――平泉医師「運動不足だと、アキレス腱の柔軟性が落ちてバネが弱くなっています。そのため、急に運動を始めるとアキレス腱周辺に炎症を起こしやすく、アキレス腱線維が部分的に切れやすくなるので注意が必要です」
早速、アキレス腱を守るためのストレッチを教わった。
<アキレス腱の痛み予防>
階段つま先立ちストレッチ(カーフレイズ)

私もやってみた。アキレス腱はもちろんだが、デスクワークで凝り固まったふくらはぎまで伸びて気持ちが良い。
――平泉医師「このアキレス腱伸ばしと膝や太ももの前を伸ばすストレッチを普段から心がけていれば、運動時の故障を防ぐだけでなく、ランニング時にバネの効いた効率の良い走りができるようになるはずです」
トップアスリートさながらに飛ぶような走りができるのであれば、ぜひ毎日のストレッチ運動として取り入れたいものだ。
次回は故障トップ3のもう1カ所「股関節」について解説いただく。
(イラスト 平井さくら)
[日経Gooday2021年8月30日付記事を再構成]


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