困る「肛門のかゆみ」 洗いすぎ・かきすぎで増幅

お尻の穴がかゆくなる「肛門そうよう症」。症状が出ても周囲には相談しにくい部位だけに困っている人が多いのではないか。過度な清潔志向が引き起こすケースもあるという。かきすぎて悪化する前に対処したい。
肛門そうよう症は肛門や周辺の皮膚にかゆみを感じる状態の総称。JCHO東京山手メディカルセンター(東京・新宿)の山名哲郎・大腸肛門病センター長は「肛門の病気といえば痔(ぢ)が代表的だが、肛門そうよう症も珍しいものではない」と話す。
実際に症状を訴える人も多いようだ。はっとり大腸肛門クリニック(金沢市)の服部和伸院長は「受診患者の1割は肛門のかゆみを訴える。その大半は慢性化し、皮膚の炎症や湿疹が悪化した状態になっている」と説明する。
かゆみは厄介だ。大阪肛門科診療所(大阪市)の佐々木みのり副院長は「我慢できずにかいてしまうと、かえってかゆみが増す悪循環に陥りやすい」と指摘する。かいて皮膚表面に傷ができると、皮膚の持つバリア機能が壊され、炎症が起こる。かゆみも脳に伝える神経が皮膚の表面まで伸びてきて増殖し、一層感じやすくなるそうだ。
炎症がひどくても、肛門周辺は自分で確認しづらい。かきむしるうちに肛門のしわに沿って皮膚が裂け、痛みが生じる場合もあるという。
佐々木副院長は「肛門を清潔にすればかゆみは治ると思っている人は多いが、排便時に温水洗浄便座で洗いすぎたり、トイレットペーパーで拭きすぎたりするのは逆効果だ」と強調する。皮膚の表面を覆う皮脂、皮膚を健康に保つ常在菌を過度に取り除いてしまい、バリア機能が低下。細菌やウイルスなどの病原体が侵入しやすい状態になるのだという。

肛門にかゆみを感じたときもむやみにかくのは避ける。排便時は温水洗浄便座の使用を控え、トイレットペーパーで拭くときもこすらないようにする。佐々木副院長は「ペーパーはテニスボール大にふんわりと丸めて、肛門にやさしく当てるようにして拭くといい」と勧める。
山名センター長は「入浴時にせっけんを使ってゴシゴシと肛門を洗ったり、アルコールを含むウエットティッシュなどで拭いたりするのは控えてほしい」と注意を促す。「皮膚の再生に必要な2週間ほどは肛門をこすらず、かかずにいれば、かゆみは収まることが多い」と佐々木副院長。
かゆみが悪化して痛みを伴うようになった場合、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬、皮膚の炎症を修復するステロイドが入った軟こうを使って治療することになる。
市販薬もあるが、ステロイド剤は特に自己判断での使用は難しい。服部院長は「適切な薬で正しく治療しなければ改善しない。恥ずかしがらずに肛門科を受診してほしい」と呼びかける。
まれに真菌(カビ)感染によるカンジダ性皮膚炎がかゆみの原因の場合があり、抗真菌薬での治療が必要になる。
山名センター長によると、痔の影響でかゆみが出ることもあるようだ。痔のなかでも目立ついぼ痔(痔核)では肛門が腫れて凸凹ができるために拭きにくく、周辺に残った便の刺激でかゆくなることがあるという。
かゆみの原因を見極めるためにも、困ったときは専門医に診てもらうようにしたい。
佐々木副院長は「便通の改善も欠かせない」と訴える。すっきり排便できていれば、肛門を過度に洗ったり、拭いたりしなくてもいいという。「肛門部にたまって切れが悪い出残り便、皮膚を荒らしやすい水様便になるのを避けるため、適度な運動や節酒など生活習慣の改善を心がけることが大事」と助言する。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEI プラス1 2021年6月12日付]
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