高価なイスにしたけど… 座りっぱなしはなぜ疲れる?

カラダについてのお悩み、ありませんか? 体調がいまいちよくない、運動で病気を予防したい、スポーツのパフォーマンスを上げたい…。そんなお悩みを、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが解決します! 今回は、テレワークがメインとなり、高価な良いイスを買ったのに、体が疲れるようになったという人のお悩みに答えます。
「人間工学に基づいた高価なイス」を買ったのに…
40代、男性、会社員です。
昨年から仕事がテレワークがメインに切り替わり、会社に行くのは週に1日ぐらいになりました。
毎日の通勤がなくなったので、その点ではストレスがなくなったのですが、1日中、家で座りっぱなしの生活になったので、腰や背中が張るようになりました。
このままではよくないと思い、思い切って高額の「人間工学に基づいて設計された」イスを購入。さすがに快適で、長時間座り続けても、腰や背中はラクになりました。
ところが、毎日、仕事の終わりごろには、ずっしりとした疲労感を覚えるようになりました。なんだか体が疲れやすくなっているような気がします。
特に運動などで体を動かしているわけではなく、ただ座っているだけなのに、なぜでしょうか?
「座りっぱなし」だからこそ体が疲れやすくなる
体が疲れやすくなったのは、ズバリ、体を動かさずに座りっぱなしの時間が長くなっているからでしょう。
テレワークで通勤がなくなることはうれしいことかもしれませんが、通勤のために歩いたり、階段を上ったりすることは、体にとっては運動になっていました。それがなくなると、運動習慣がない人は、どんどん運動不足になってしまいます。
運動などで体を動かすことで、人間は筋力を維持することができます。しかし、体を動かさず、じっとしている時間が長くなると、筋力はどんどん衰えていきます。そして、筋力が衰えた状態で体を支えようとすると、疲労を感じやすくなります。
実は、ずっと座りっぱなしで仕事をしているよりも、ときどき仕事を中断して少し歩いたり、立って仕事をしたりする時間を作ったりするほうが疲労を感じにくいという研究結果があります。
「いや、座りっぱなしのほうが疲れないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、これは本当です。
BMI[注1]が25以上の肥満である19人を対象にした実験で、ずっと座りっぱなしの場合と、30分ごとに3分の軽いウオーキングを行う場合とで疲労度を調べたところ、4時間後および7時間後では、いずれも軽いウオーキングを取り入れた場合のほうが疲労が軽かったという結果になりました[注2]。
座りっぱなしと30分ごとに軽いウオーキングを行ったときの疲労度の違い

また、オフィスの環境で、1日8時間座った姿勢で過ごす群と、電動式の高さ調節デスクを使って30分おきに座ったり立ったりした状態で仕事をする群とで疲労度を調べた実験では、やはり座りっぱなしのほうが疲れていたという結果になりました[注3]。これは、BMIが25以上の肥満の23人を対象にした研究です。
なお、集中力の点では、座り続けた群のほうが高かったものの、全体の仕事の生産性については、座ったり立ったりを繰り返した群のほうが高かったそうです。
[注1]BMI(体格指数)は、体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}で計算する。
[注2]BMJ Open. 2016;6(2):e009630.
[注3]Occup Environ Med. 2014 Nov;71(11):765-71.
体を動かしたほうが血流が増加して疲れが取れる
なぜ、座りっぱなしのほうが疲れを感じやすく、立ったり歩いたりもするほうが疲れにくいのでしょうか。
はっきりとした理由は分かりませんが、座りっぱなしを中断して立ったり歩いたりすることが心理的にも気分転換になったり、短い時間でも歩くことが自律神経のバランスを整えたりする効果があるのではないか、といった可能性が考えられます。
ほかにも、立ったり歩いたりすることで、血流が増加することもプラスに働くでしょう。
血液は、心臓から押し出されたあと、脚の静脈を通るときに重力に逆らって進まなければなりません。そのため、脚の静脈の周辺にある筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことで血管を圧迫し、血液を押し出す"ポンプ作用"が必要になります。
座りっぱなしだと、脚の筋肉が動かないので、ポンプが働きにくく、脚に血液などの体液がたまりがちになります。つまり、脚がむくみやすくなります。一方、立ったり座ったりを繰り返したり、歩いたりすることで、脚の筋肉がギュッギュッと血液を押し出してくれるのです。
こうして血流が増加すると、たまっていた疲労物質が流れ出ていくので、スッキリします。逆に、血流が少ない状態だと、疲労物質がたまりやすく、疲れがとれにくいのかもしれません。
30分ごとにタイマーをセットして立ち上がる
以上のことから、身体的なシステムから見れば、「体を動かさずにじっとしていたほうが疲れやすい」ということが分かっていただけたでしょうか。
良いイスは快適なので、つい長い時間座り続けてしまいます。しかし、座りっぱなしは、疲れを助長させてしまうのです。
それでは、どうすれば今よりも疲れにくくなるでしょうか。

まずは、長時間座り続けるのを避けることです。仕事に没頭していると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。ですから、30分から1時間ごとに、タイマーが鳴るようセットしておきましょう。
タイマーが鳴るたびに必ず立ち上がり、ついでにトイレに行ったり、飲み物を取りに行ったりすれば、少し歩くことになり、気分転換にもなります。軽くストレッチしたり、その場で足踏みしたりしてもいいでしょう。
スマートウォッチのなかには、一定時間が経つと「立ってください」と促してくる機能が搭載されたものもあるので、これを活用するのもいいですよね。
少しお金をかけられるのであれば、昇降式で高さの変えられるデスクを購入するなどして、立ったまま仕事をする時間を作るのもいいでしょう。最近は、昇降式デスクといっても、キャスター付きの可動タイプや、手ごろな価格のものなどいろいろな種類があるので、テレワークの仕事環境にも取り入れやすいと思います。
疲労の原因はストレスかも…
結局のところ、私たちが普段感じている「疲れ」のほとんどは、肉体的な疲れと精神的な疲れの「複合型」だと考えられます。
相談者の方のように、1日中座っていれば肉体的な疲労は少ないかもしれません。しかし、本人は気がつかないうちに、精神的な疲労が大きくなっているのかもしれません。
ぜひ、座りっぱなしの生活を改めるとともに、自分を見つめ直す時間を作って、精神的な疲労の原因になっているストレスがないか、探ってみてください。
仕事のプレッシャーや、人間関係のトラブル、あるいは家庭内の悩みなど、ストレスの原因が分かれば、それに対してどう対処すればよいのかが見えてくるでしょう。
ストレスの対処法については、ストレスの原因から「距離を置く」、ストレスを「回避する」、そしてストレスの「耐性を高める」という3つの方法があります(過去の連載記事「ストレス解消にお酒 『やめられない』を抜け出すには」を参照)。ストレスの種類によって、適切な方法をとりましょう。
私自身、コロナ禍以降、働き方が変わり、トレーニングを指導する「セッションの日」と、執筆など「デスクワークの日」を分けるようになりました。セッションの日は体を動かしているので、疲労感はそれほどなく、ぐっすり眠れます。
ところが、デスクワークの日は、ただ座って、原稿をチェックしたり、講演の準備をするだけなのですが、疲労感が強く、夜もなかなか寝つけなくなったりします。
こうした経験から、1日中デスクワークをされている方は、本当に大変なのだなと、つくづく感じました。
今は私も、デスクワークの日は、こまめに立ち上がったり、立ったまま仕事をすることを実践しています。みなさんも是非、試してみてください。
イスに座りっぱなしで疲労を感じている人へ…
▼座りっぱなしで体を動かさないほうが実は疲れやすい
▼体を動かして血流が増加すると疲労回復につながる
▼30分ごとにタイマーをセットして立ち上がる習慣をつけよう
▼ストレスが疲労の原因である可能性も
(まとめ 長島恭子=フリーライター/図版制作 増田真一)
[日経Gooday2021年4月20日付記事を再構成]

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