肺がんより多い 推定患者530万人「タバコ病」の怖さ

この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1) COPD患者は、健康な人の約10倍も肺がんを合併しやすい
(2)職場などのレントゲン検査で異常なしなら大丈夫
(3)禁煙後、数十年を経て発症することもある
(4)特別な自覚症状がない人でも、インフルエンザなどの感染症にかかると、急に病状が悪化することがある
答えは次ページ
答えと解説
正解(COPDに関する記述として間違っているもの)は、(2)職場などのレントゲン検査で異常なしなら大丈夫です。
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COPDのタイプによっては、進行してもレントゲンに映らないこともあるため、レントゲン検査で異常なしとなっても、大丈夫とは限りません。
COPD患者は、健康な人の約10倍も肺がんを合併しやすい
タバコが肺に悪影響を及ぼすのは周知の事実。その代表といえば「肺がん」でしょう。肺がんは、日本に17万人近い患者が存在し、がんの中で最も死亡率が高い、がんの王様です。しかし、タバコを主原因とする病気の中には、肺がん以上に患者数が多いものがあります。それが慢性閉塞性肺疾患、通称COPD(シーオーピーディー)と呼ばれる病気で、推計患者数は530万人です。
COPDは肺胞が破壊される「肺気腫」と、枝分かれした細い気管支(末梢気道)の炎症が続く「慢性気管支炎」を合わせた名称で、主な原因はタバコであるため「タバコ病」の異名を持ちます。
COPDでは息が吐きにくくなる「気流閉塞」を起こし、咳・痰・息切れなどの症状が現れます。咳と痰は比較的早いうちから出て、さらに進行すると、階段や坂道を少し上がるだけで息切れするように。重度になれば、ちょっとした家事や着替え程度の動きでも息が切れ、息切れから寝たきりになることもあります。

COPDになると、肺胞が破壊され、肺の構造自体が変わってしまいます。気道の線毛も障害されるため、インフルエンザや新型コロナなどのウイルス、肺炎球菌のような細菌が入り込むと防御しきれず、肺炎を発症したり、それが重症化したりしやすくなります。
さらに、COPDで悪くなるのは肺だけではありません。肺で起こった慢性的な炎症は全身に波及し、糖尿病や心臓・血管の病気、骨粗しょう症、不安・抑うつ、骨格筋の機能低下、サルコペニア(筋肉量が減り、筋力が低下する状態)など、さまざまな病気や状態を招きます。肺がんについても、COPD患者は、健康な人の約10倍も合併しやすいといわれています。
東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授の桂秀樹さんは、「COPDの怖いところの一つは、これといった自覚症状がない人や、症状が安定している人でも、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかると、急に病状が悪化して生命にかかわる『増悪(ぞうあく)』を起こしやすいことです。でも、受診してきちんと管理すれば増悪を起こさなくしたり増悪回数を減らしたりが可能です」と言います。
きちんと治療を受ければ、症状を改善し、予後を良くすることができる――。それならCOPDはそれほど怖い病気ではないと思う人もいるかもしれません。しかし、COPDで医療機関にかかっているのは約22万人で、COPD患者のほんの一部にすぎません。実際にはその20倍以上の「隠れCOPD」が潜在すると推計されており、そうした人たちは注意が必要です。
タイプによっては、進行してもレントゲンに映らないことも
では、病気の存在に気づかないまま感染症にかかって、急に悪化するといった事態を避けるためにはどうすればいいでしょうか。COPDかどうかは、年1回の健康診断でレントゲン検査を受ければ分かるのではないか、そう思う人もいるでしょう。しかし、「COPDかどうかを胸のレントゲンだけで知ることは困難です」と桂さんは指摘します。
COPDは大きく分けて気腫型と非気腫型という2つのタイプがあり(下図)、タイプによっては進行してもレントゲンに映らないことがあります。自治体や職場の健康診断で受けたレントゲン検査では異常なしとされかねないのです。

「日本人に多い気腫型タイプでは、肺の奥にある『肺胞』が炎症を起こして破壊され、伸びきったゴム風船のように弾力性を失います。すると空気をうまく吐き出せなくなり、酸素と二酸化炭素のガス交換が不十分になります。肺に残った空気のために肺が大きくなるので、このタイプならレントゲンで『COPDの疑いがある』と分かることがあります。重症になると、『ビア樽状胸郭』と呼ばれるほど、胸郭(胸部の骨格)も広がります」(桂さん)
しかし、目立った変化はよほど重症にならないと出てきません。また、欧米人に多い非気腫型タイプの場合は、さらにレントゲンに映りにくいといいます。胸部のCT検査を行えば気腫型COPDを早期に発見することもできますが、CTを使った肺がん検診などを受けない限り、通常、健康診断でCT検査を受ける機会はまずありません。
今もタバコを吸っている人は、年1回の肺機能検査を受けよう
となると、受けるべきはどんな検査なのでしょう。桂さんは、「COPDの診断には、肺の機能を調べる『スパイロメトリー』という検査が必要です」と話します。スパイロメトリーとは、スパイロメーターという器具を使って、肺機能の良しあしを調べる検査です。検査前に気管支を広げる薬を吸入し、専用のマウスピースを口にくわえて、医師の指示に従って呼吸しながら肺活量に関する複数の項目を調べていきます。
自治体や職場で実施される健康診断の項目のうち、肺に関する検査は、肺がんの有無を調べる胸部レントゲンだけという場合が多いため、スパイロメトリーという言葉が耳慣れないと感じる人がいても無理はありません。通常、スパイロメトリーによる肺機能検査は人間ドックで行われることが多い、任意の検査です。
この肺機能検査、どんな人がいつ受ければいいのでしょうか。
「肺機能検査をいつ受けるべき、という明確な決まりはありません。でも、目安として、長年タバコを吸っていて今もやめられない40~50代の人は、年1回程度のペースで受けたほうがいいと思います。最近は人間ドックで肺機能検査を受け、特に自覚症状がないのにCOPDの疑いがあると指摘され、2次検査を受ける人がかなりたくさんいます」(桂さん)
ただし、肺機能検査を1回受けて異常がなくても、手放しに安心することはできません。「皮膚のシワが増えるのと同じで、肺機能も25歳くらいをピークに、必ず経年的に低下していきます」と桂さん。仮に40歳で受けた肺機能検査で異常がなくても、年をとるごとに肺機能は落ちるため、何年か後に再び検査を受けたら引っかかることがあるそうです。
要するに、喫煙者の場合、「1度は肺機能検査を受けるべき」ではなく、「年1回は受けるべき」と考えるといいでしょう。
では、「若いころは喫煙していたが、すでに禁煙した」という人の場合はどうでしょうか。
実は、禁煙に成功しても、「これで肺は大丈夫」と安心はできません。一度壊れた肺の組織は元には戻りませんし、禁煙した後も、肺の炎症は長年続きます。禁煙後20年、30年たってからCOPDだと判明することもあるので要注意です。
「COPDは、ある一定の喫煙量をベースに発症するといわれています。タバコをやめた人も、喫煙指数が200以上であれば、やはり年1回くらいのペースで肺機能検査を受けたほうがいいでしょう」(桂さん)
喫煙指数とは、健康と喫煙の関係を示す指数で、ブリンクマン指数とも呼ばれます。1日のタバコ本数が20本×10年、あるいは10本×20年というように、喫煙指数が200を超えている人は特に要注意です。
「例えば過去に喫煙していた人が50歳を過ぎて人間ドックを受け、肺機能検査でCOPDを疑われて二次検査を受診し、COPDと診断されることがよくあります。その段階でも症状が出ないことも多いのですが、当院ではその場合も年1回の肺機能検査をお勧めしています。咳や痰、息切れなどの症状があれば、もちろん早めに受診してください」(桂さん)
[日経Gooday2021年1月25日付記事を再構成]
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