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コロナ広げる?花粉症 今季は強力な対策「助っ人」も

ウィズコロナ時代の花粉症対策(上)

NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

2021年春の花粉飛散量は、広い範囲で昨シーズンより多くなりそうだ。花粉症の症状が引き起こす、くしゃみをする、目をこする、といった動作は、新型コロナウイルス感染症の拡大につながりかねない。そのため、今季はこれまで以上に徹底した花粉症対策が必要だ。心強いのは、従来の薬では十分な効果を得られなかった重症患者にとって強力な「助っ人」が登場したこと。2019年末に花粉症の新薬として新たに認められた抗IgE抗体医薬「ゾレア」だ。一体どんな薬なのか。ゾレアを中心に2021年の花粉症対策を2回に分けて紹介する。

昨シーズンより花粉飛散量は多くなる

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、また花粉の季節が近づいてきた。日本気象協会などの発表によると2021年春の花粉飛散量(スギ、ヒノキ、北海道ではシラカバ)は例年よりは少ないものの、昨シーズンより多い地域が多数ある。

花粉症の人の割合は地域によっても異なるが、2016年に東京都が行った調査では都全体でスギ花粉症推定有病率は48.8%に達していた。まさに花粉症は国民病だ。症状の程度は「マスクなどで花粉を避ければなんとかしのげる」といった軽症者から、「病院で治療を受けていても仕事や日常生活に支障をきたしている」といった最重症者までさまざまだ。

花粉症のせいでコロナが急拡大する可能性も?

「今シーズンは、重症度を問わず全ての花粉症患者で症状ゼロを目指したい」と語るのは日本医科大学大学院の大久保公裕教授だ。これは厚生労働省の会議で日本感染症学会の舘田一博理事長など感染症専門医らと導き出した結論だという。意外に思われるかもしれないが、花粉症は新型コロナウイルス感染症と同じ呼吸器系の疾患であるため、新型コロナウイルス感染症の流行に関与する可能性があるのだ。両者の関連が懸念される大きなポイントは下記の2点だ。

●くしゃみによる花粉症患者から周囲へのウイルスの拡散

新型コロナウイルスは、感染しても症状の出ない人(無症候感染者)が多いことは知られている。無症候感染者が他の人に感染させるリスクがどれぐらいあるかは研究途上にあるが、感染者が花粉症になり電車内などでくしゃみをすることで、たとえマスクをしていてもウイルスを拡散させてしまう可能性がある。

●花粉症症状で花粉症患者自身へのウイルス感染リスクが高まる

花粉症患者は、鼻水を拭いたり、目をこすったりしがち。つり革などを触った手で、口元、鼻、目などを頻繁に触ることで新型コロナウイルスの感染リスクが高まる。

大久保教授は「花粉症のせいで新型コロナウイルスが急拡大するという事態を避けるためには、患者と医師が一緒になって、例年以上に症状改善に努めることが大切」と話す。

発症の流れを知ることは、対策を考えるヒントになる。そもそも、花粉はどのようなメカニズムで「くしゃみ」「鼻づまり」「鼻水」「長引くせき」「目のかゆみ」「涙」「肌荒れ」といった多様な症状を引き起こすのだろうか。

花粉症の発症メカニズム

花粉症の発症メカニズムは上図の通りだ。まず鼻、目、口などに花粉が入る(1)。マスクや花粉対策メガネを使ったり、帰宅時に外でコートや帽子の花粉を払ったりすることが大切だ。しかし、それで花粉の侵入を完全に防ぐことはできない。防ぎきれなかった花粉が粘膜に入ると、患者の体内では、免疫細胞の一種であるB細胞がその情報をキャッチ。B細胞はIgE抗体(免疫グロブリンE)を作り(2)、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合する(3)。

肥満細胞に結合したIgE抗体が再び花粉侵入の情報をキャッチすると(4)、肥満細胞は花粉を排除しようとヒスタミン、ロイコトリエンといった物質を放出(5)。これらが粘膜組織に作用すると(6)、花粉を吹き飛ばそうとくしゃみが出たり、花粉を洗い流そうと大量の鼻水が出たりする。このとき粘膜の毛細血管が拡張し、鼻づまり、目のかゆみなども起きる(7)わけだ。

既存治療で効果が不十分な患者のための新薬「ゾレア」とは

花粉症の治療薬として長く使われてきたのは、肥満細胞が放出するヒスタミンの働きをブロックする抗ヒスタミン薬だ。飲めば比較的すぐにくしゃみや鼻水は止まる薬だったが、副作用として「眠気」などがあり「飲みたくない」という患者も多かった。そこで登場したのは眠気を少なくした第2世代の抗ヒスタミン薬や、抗ロイコトリエン薬だ。また、ステロイド鼻噴霧薬(スプレー)も局所だけに作用するため安全な薬剤として広く使われるようになった。

しかし大久保教授は「IgE抗体の量が多くヒスタミンなどがたくさん放出される重症、最重症の患者の場合、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、ステロイド鼻噴霧薬だけでは症状が出るのを完全に食い止めることができないことも多かった」と解説する。

そんななか、2019年末に花粉症の薬物治療として新たに認められたのが抗IgE抗体医薬「ゾレア」(一般名:オマリズマブ)だ。これはIgE抗体と肥満細胞の結合をブロック(下図)することで症状を抑える注射治療の新薬で、花粉症に対する抗体医薬としては世界で初めてのものだ。花粉飛散中、2週間または4週間に一度の注射(皮下注射)が必要だが、従来の治療で満足のいかなかった患者には朗報だ。

ゾレアや抗ヒスタミン薬はなぜ効く?

「ゾレア」はこれまでの臨床試験で鼻や目の症状に高い有効性が認められている。大久保教授はその効果について、「例えば、鼻症状の場合、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの各症状は、それぞれ0点から4点(3症状で12点満点)で評価される。その合計点数が9点以上の重症の患者では、抗ヒスタミン薬を使ってもだいたい1点、ステロイド鼻噴霧薬を使っても1.5点ほどしか改善できない。しかし、ゾレアを併用し始めると2週間後には合計で3点程度とほぼシーズン前と同じ状態にすることができた」と解説する[注1]

[注1]0点でないのは、アレルギー性鼻炎ではない人でも、くしゃみや鼻水などが出ることがあるため。

「スギ花粉」に対するIgE数値が高い患者にのみ使用

ゾレアは、体内のIgE抗体が原因で発症する疾患である気管支ぜんそくやじんましんの重症者の治療薬として使われてきた。花粉症では、現在のところ12歳以上の患者で、血液中の抗体の検査でスギ花粉によることが明らかな特異的IgE抗体が高い患者にのみ使用できる(詳細は後編で解説)。

また、他の抗体医薬と同様に薬価が高い。2020年4月に薬価の引き下げが行われたが、それでもゾレア1本当たり(150mg)の費用は約3万円(3割自己負担の場合の窓口支払額は約9000円)かかる。それを花粉症シーズンである2~4月に、投与量や投与回数を増やして使うとなると患者の負担は大きい。

それでも大久保教授は「重症の花粉症患者は国内に推定100万人おり、費用などの課題を考慮すると1万~2万人がゾレアによる治療を受けられると考えている。例えば、自治体によっては中学生や高校生の医療費が全額助成されるので『受験の季節の花粉症で悩んでいるので利用できないか』など相談されるケースも増えている」と話す。

ゾレアによる治療は、どんな人に有効で、どのような手順で治療が行われるのか、後編で詳しく紹介する。さらに、重症度別の花粉症対策のポイントや、オンライン診療について知っておきたい情報も紹介する。

(文 荒川直樹、イラスト 平井さくら)

[日経Gooday2020年1月5日付記事を再構成]

大久保公裕さん
日本医科大学大学院医学研究科 頭頸部感覚器科学分野 教授。1984年日本医科大学卒業、88年同大学院修了。89~91年米国国立衛生研究所(NIH)アレルギー疾患部門へ留学。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科部長、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会理事長、奥田記念花粉症学等学術顕彰財団理事長、日本耳鼻咽喉科学会代議員。専門は鼻科学、アレルギー学、鼻科手術。

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