半身浴より全身浴が効く 疲れとる入浴法、お湯は40度

ぬるめのお湯で半身浴をするといいと聞くけどホント? 長くつかればつかるほど汗をかくからいい? 疲れをとるための正しい入浴法について、入浴について長年研究する「お風呂教授」が解明します!
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お風呂と温泉について20年以上医学的に研究し、のべ3万8000人の入浴を調査してきた東京都市大学の早坂信哉教授。
疲れがとれる入浴法について聞いたところ、以下の5つのルールがあがった。
1 温度は40度に
2 全身浴でしっかり肩までつかる
3 つかる時間は合計10~15分
4 入浴剤でリラックス効果アップ
5 出た後は体を冷まさないように
「疲れがとれるメカニズムは、体内にたまった二酸化炭素や活性酸素などの老廃物を回収して、酸素や栄養分を新たに補給すること。その役割を担っているのが血液で、血流がいいほど、体のすみずみにまで血液が行き渡って疲労回復のスピードが上がる。そして、その状態に誰でもラクになれる方法が、入浴して湯船につかるということ。お湯の温度は40度で全身浴。時間は10~15分。6~7分を2回、または5分を3回など、合計10~15分になればいい」
血流アップと自律神経の切り替えがカギ
なぜ40度がいいのかというと理由は2つある。まずは血流の問題だ。
「数多くの実験が、40度のお湯につかると血流量が増えることを明らかにしている。血流量を上げるには、深部体温という体の内側の温度を0.5~1度上げる必要がある。私たちの平常時の深部体温は約37度だから、それより少し高い40度のお湯につかると、スムーズに0.5~1度上がる。深部体温と同じようなぬるめのお湯だと、つかっているうちに深部体温以下になりやすく、適温とは言い難い」
逆に、お湯の温度が高すぎると、今度は自律神経の問題で適さない。自律神経のうち、交感神経が優位になると体は活動モードになり、副交感神経が優位になるとリラックスモードになる。夜、優位にしたいのは後者の副交感神経で、それには40度のお湯が向く。40度がいい2つ目の理由だ。
「42度以上の熱めのお湯だと、活動モードの交感神経が優位になる。現代社会はストレスが多くて、交感神経が必要以上に刺激されている。いかにして交感神経のスイッチをオフにするか、ということも疲れをとるカギ」
お湯の温度は1度の違いで体に与える効果が変わる。お風呂に温度調節機能がない場合は、「湯温計」を利用しよう。
半身浴ならではの特筆すべき効果はない
全身浴がいい理由は、半身浴よりも温まりやすくて、血流アップしやすいため。
「半身浴はお湯が少ない分、同じ入浴時間だと得られる効果は半減する。実は、半身浴だからいい、という特筆すべき効果はない。半身浴にするなら時間は倍にして、お湯の温度が下がりすぎないように途中で調節を」
入浴剤は、血流を良くする効果がある硫酸ナトリウムが入ったものや、泡が出る炭酸系のものがお薦めだ。それらが入ってなくても、お気に入りの香りのものはリラックス効果を得られる。そして、出た後は体を急激に冷まさないこと。
「のぼせたとき以外、湯上がりに扇風機や冷房で涼むのはNG。血流がいい状態がすぐに終わってしまう。入浴後はタオルで体の水分を拭いたら寝間着を着て、冷えないように」
久々に運動したり、重い荷物を持って筋肉痛が出たときは温冷交代浴がお薦めだ。温冷交代浴はヨーロッパの温泉療法の一つとして行われてきたもので、温かいお湯につかった後、冷たい水をかける、あるいはつかるという入浴法のこと。
40度のお湯に3分つかったら湯船から出て、30度ぐらいのシャワーを30秒手足にかける。これを2回繰り返し、最後にもう一度お湯に3分つかってから出る。慣れてきたらシャワーの温度を少し下げてもいい。
「温冷交代浴は、近年、アスリートたちが疲労回復法として積極的に用いている。温かいお湯では血管が拡張し、冷たい水では血管が収縮する。この拡張と収縮の繰り返しによって血流が改善し、筋肉痛などを引き起こす炎症物質が減少すると考えられる。一般家庭で行う場合は、温かいお湯は40度で、水は30度ぐらいのぬるま湯でOK。10度の差があれば、血管の拡張と収縮を十分促せる」

パソコンやスマホによる目の疲れを解消するのにも、入浴による血流アップが効果的。目の疲れの一因は、目のまわりの筋肉が緊張して血流が滞り、疲労物質がたまることにあるからだ。
「目の疲れをとるには、38~40度のお湯にゆっくり15分つかりながら、ホットタオルを目に当てること。タオルの上から目のまわりを指で軽く押すとさらに効果的。ホットタオルの代わりに、目のまわりに熱めの42度のシャワーをサッと当ててもいい。ある実験では、目の疲れによって一時的に下がった視力が熱めのシャワーで回復したという結果も出ている」
38~40度のお湯に15分つかりながらホットタオルを目に当て、上から目のまわりを指で押す。お湯の温度が下がったら途中で調節を。ホットタオルの代わりに、熱めの42度のシャワーをサッと当ててもいい。
※ホットタオルは電子レンジで30秒ほど温めてつくるといい。
長湯は禁物 肌の乾燥が進みやすい
やる気が出ないときは、42度の熱めのお湯だと活動モードの交感神経が優位になる働きを利用して、42度のお湯に5分つかるといい。ここ最近、うつうつとした状態が続いているな、というときは、朝少し早めに起きて入浴するといいだろう。
「入浴によるストレスや不安の軽減効果は、さまざまな医学研究や心理学の実験で明らかになっている。朝は入浴するのが面倒という場合は、42度のシャワーを浴びるだけでもOK。その際、風呂おけや洗面器に43度ぐらいのお湯をためて足をつけるのがお薦め。ただシャワーを浴びるだけよりも、体が温まりやすくて効果が増す」
逆にイライラや焦りで気が立っているときは、リラックスモードの副交感神経を優位にしたいから、長めにのべ20分、40度のお湯につかるといい。もっと長くつかれば、もっと効果があるのでは? と考えるのはやや早計。リラックス効果は増すが、肌のうるおいを奪ってしまう。

「肌のうるおいを保つ主要成分のセラミドは、お湯につかることで流出するため、長湯は禁物。たくさん汗をかいたわけでもないのに、1日に何度も入浴するのも避けるべき。セラミドが必要以上に奪われて、乾燥が進む。入浴直後は、肌の角質が水分を吸うためうるおったように見えるが、一時的なものにすぎない」
熱めの42度のお湯に5分つかることで、交感神経を刺激して心身を活動モードに切り替えられる。朝、出勤前などの時間がないときは、同じ42度の熱めのシャワーを浴びるだけでもやる気アップにつながる。
繰り返すが、基本の入浴法は、お湯の温度は40度で全身浴、合計10~15分。これを1日1回だ。
早坂教授のチームが約1万4000人の高齢者を対象にして調査したところ、毎日入浴する人は、3年後に要介護になるリスクが29%低かったという。高齢者になるのはまだ先でも、毎日の入浴が健康寿命を延ばす一因であることは覚えておこう。

(取材・文 茅島奈緒深、構成 高宮 哲=編集部)
[日経ヘルス 2020年4月号の記事を再構成]
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