マッサージ行ったのに…なぜ 肩こり再発、3つの元凶

カラダについてのお悩み、ありませんか? 体調がいまいちよくない、運動で病気を予防したい、スポーツのパフォーマンスを上げたい…。そんなお悩みを、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが解決します! 今回は、マッサージに行っても一向に肩こりが治らないという相談です。
マッサージから帰宅すると、もう肩こりがぶり返す…
40代、男性です。
以前から「肩こり」に悩まされています。特にひどくなってきたのは、コロナ以降です。
コロナ禍で会社から自宅勤務を命じられ、出社はもちろん、他社に出向いて打ち合わせすることもなくなり、毎日、自宅のデスクに座りっぱなしの生活になってしまいました。
朝から晩まで、社内外のオンライン打ち合わせをギュウギュウに入れられ、昼食をとる時間もないほどです。後回しになった自分の仕事は深夜まで続き、その間、トイレや夕食のとき以外、立ち上がることもあまりありません。
そんな生活を送っていたら、肩こりがどんどんひどくなってしまいました。首から肩にかけての痛みが強くなり、頭痛もするときは市販の頭痛薬を飲んでいます。
これはマズいと思い、緊急事態宣言が解除されてからは、2週間に一度、金曜の夜に近所の整体でマッサージを受けるようにしました。
マッサージに行くとコリもほぐれ、気持ちがいいのですが、家に帰ってくるころにはもう、肩こりがぶり返しているような気がしてしまいます。
運動不足も問題だと思い、感染対策は万全にして、週に一度、軽く泳ぎに行くようにしました。水泳のあとは肩が軽くなり、スッキリするのですが、次の日にはもう肩こりが復活しているような感じがします。
大事なプレゼンを控えていたり、仕事がうまく進まなかったりすると、さらにデスクに向かう時間が長くなり、肩こりもひどくなります。
どうすれば肩こりを根本的に解消できるでしょうか?
肩こりの原因は複数あることも
肩こりはつらいですよね。肩こりがひどくなってマッサージに駆け込む人は多いですが、「マッサージに行っても、すぐにまたぶり返してしまう」という話もよく聞きます。
マッサージだけに頼って肩こりを解消しようとしても、根本的な解決にはなりません。相談者の方のように運動を取り入れるのはよいことですが、それでも肩こりが治らない場合も少なくないですよね。
それはなぜでしょうか? 肩こりというのは、実は一つの原因で起きるわけではないからです。
肩こりの原因は、筋力不足、血行不良、ストレス、と大きく3つに分けられます。
筋力不足でなぜ肩こりが起きるのかというと、人間は、1本で約2~3kgある腕や、約5~6kgある頭を、首から肩を覆う僧帽筋をはじめとする、さまざまな筋肉で支えています。ある筋肉の力が衰えると、その分、ほかの筋肉に負担がかかるようになります。すると、負担が余計にかかっている筋肉が疲れやすくなり、それがコリにつながるのです。
また、筋肉は使わないと力が弱くなっていきます。例えば、「バッグが重いのは嫌だ」と、荷物を軽くすれば、それに伴って、バッグを持つための筋力はどんどん低下していきます。たまに、彼氏にバッグを持ってもらっている女性を街中で見かけますが、フィジカルトレーナーとしては「自分で持たないと筋力が衰えますよ!」と言いたい気持ちになります(笑)。
本人は楽をしているつもりかもしれませんが、楽をすればするほど、筋力も落ちていきます。筋力不足で肩こりが起きている人が、なるべく重い荷物を持たないようにすると、筋力不足が解消されることもなく、肩こりはひどくなる一方なのです。
一般に、女性のほうが筋力不足に陥りやすいので、慢性的な肩こりで悩んでいる女性は、肩の周辺の筋肉を筋トレで鍛えたほうがいいかもしれません(肩こり解消に効果的な筋トレの方法については「脚のむくみに肩こり 女性の悩みこそ筋トレで解消」をご覧ください)。
肩の関節を動かさないことで周辺の筋肉が血行不良に
血行不良によっても肩こりは起きます。肩の関節の周辺にある筋肉を動かさないことで血行不良が起き、それにより老廃物などが排出されにくくなり、痛みやコリが生じるのです。
肩の関節は、人間の関節のなかでも、最も多くの方向に動くといわれています。可動域がそれぞれ非常に広いのも特徴です。この関節は、上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨によってできていて、非常に不安定な構造をしているので、多くの筋肉や腱(けん)などによって支えられています。
肩の関節の構造

さまざまな方向に広く動くということは、動作をコントロールするためにも多くの筋肉が必要だということです。つまり、肩の関節を十分に動かさないでいると、動かない筋肉が増えるため、血行不良が起きやすくなってしまうのです。
読者のみなさんも、今日1日の行動を振り返ってみてください。肩の関節をどれぐらい動かしたでしょうか。「そういえば、今日は一度も腕を高く上げていない」と気づいた人も、少なくないでしょう。ラジオ体操のように、腕を大きく上に挙げる、グルッと回す動きは、日常生活ではあまりしないものです。
人間は、できるだけ体が疲れないような生活様式が身に付いています。例えば、キッチンやダイニングでは、よく使う食器類を取り出しやすい高さの棚にしまっておきます。リビングでは、テレビなどのリモコンを、少し手を伸ばせば取れる位置に置いておくのが普通です。すると、日常的な動作では肩の関節を大きく動かすことが少なくなり、血行不良になりがちになるのです。
血行不良を防ぐためには、腕を大きく回す動的ストレッチが効果的。ぜひ試してみてください。
環境の変化からストレスが増え、肩こりの原因に
さて、ここまでの説明で、筋力不足、血行不良が原因で肩こりが起きることが分かっていただけたかと思います。それでは、定期的に体を動かし、筋力不足とも血行不良とも無縁であれば肩はこらないかというと、そうではありません。肩こりは、ストレスが原因でも起きるからです。
実は、オリンピックに出場するようなトップクラスのアスリートでも、肩がこります。彼ら彼女らは、筋力も十分ありますし、練習中に腕をたくさん動かしているので、血行不良でもありません。それでも、大きな大会の前になると、ストレスから肩こりが起きるのです。
かくいう私も、毎日仕事で体を動かし、動的ストレッチも欠かさず行っていますが、肩がこることはあります。そういうときは、フィジカルトレーナーとして難しい仕事に挑戦しようとしているときだったりします。例えば、これまで指導した経験がない競技のアスリートを教えるときなどです。
以前の記事(「腰痛で病院に 治療せず、なぜ『様子を見ましょう』?」)でも解説しましたが、ストレスが高まると、脳の血流量が減り、前脳にある「側坐核」という部位の働きが低下することで、体に痛みを感じやすくなることが分かっています。そのため、ストレスがあると、肩こりがさらにひどくなってしまうのです。
ストレスから肩がこってしまったら、私は趣味のランニングに出かけます。すると、肩がみるみる楽になるのを実感できます。好きなランニングをやることでストレスが発散できるというわけです。
また、ストレスの原因を把握することも大切です。私が、肩こりに悩むクライアントに「いつから肩こりがひどくなりましたか?」という質問をすると、「そういえば、転職してから…」「結婚を機に、引っ越したので…」といった回答が返ってきます。つまり、環境の変化がストレスの原因になっていたりするのです。
相談者の方も、大事なプレゼンが迫っているときに肩こりがひどくなっているので、仕事の忙しさがストレスの原因となっている可能性はありますよね。
マッサージ中はスマホを置いて「自分を見つめ直す」時間に
肩こりをマッサージだけで治そうとするには無理があるという話をしましたが、一方でマッサージには何も効果がないかというと、そうではありません。私もマッサージが好きです。
マッサージでは、押したりもんだりすることで一時的に血行が良くなるだけでなく、心身ともにリラックスすることで、ストレスが和らぐ効果が期待できます。気分転換の手段の一つと考えればいいのです。好きな映画を見たり、ゆっくり入浴したり、散歩に出かけたりすることと同じです。
私から相談者の方へ提案したいのは、マッサージの時間を、自分を見つめ直すために使うということです。そうすれば、何が自分のストレスになっているのかが見えてくるでしょう。
私が、マッサージの時間こそ自分を見つめ直すのに最適だと知った出来事がありました。それは、大きな大会で、フィジカルトレーナーとして、あるアスリートに帯同したときのことです。
その選手は、試合を控え、「肩がこる」と訴えていました。そこで、メディカルスタッフがマッサージをすることになりました。マッサージが始まると、その選手はスマートフォンを取り出しました。練習中はスマホを見られないので、友人や家族とやり取りしたかったのでしょう。
しかし、メディカルスタッフは、「マッサージ中はスマホを置いて、自分を見つめ直す時間に使いなさい。あなたの肩こりは、ストレスからきているのだから」と言いました。目の前でそのやり取りを見ていた私は、なるほどと感じたのです。
現代社会に生きる我々は、スマホやPC、あるいはテレビの画面から、膨大な情報を受け取っています。マッサージを受けている1~2時間は、そうした情報をシャットダウンすることで、内省できる貴重な時間として使えるはずです。
マッサージの間は、自分を見つめ直し、肩がこる原因を考え、自分の体と真摯に向き合ってほしいのです。そうすれば、今よりずっと、上手に肩こりと付き合っていくことができるでしょう。
慢性の肩こりがどうしても治らない人へ…
▼肩こりの原因は、筋力不足、血行不良、ストレスの3つ
▼特に女性で筋力不足の人は、肩周辺の筋トレを!
▼血行不良の対策は、腕を回す動的ストレッチ
▼何がストレスの原因なのか、自分を見つめ直して探そう
(まとめ:長島恭子=フリーライター)
[日経Gooday2020年11月18日付記事を再構成]

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