外反母趾 親指だけでない症状、体のバランスにも響く
いつまでも歩けるための健足術(13)

女性に多い外反母趾(ぼし)というと、ただ親指が外側に曲がることと思っている人もいるだろう。確かに、「外反(外側へ曲がる)+母趾(足の親指)」と書く。ただ、それだけが問題ではないようだ。今回は、外反母趾について、足を専門的・総合的に治療する下北沢病院足病総合センター長の菊池恭太さんに聞いた。
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「外反母趾とは、親指が外側に曲がることに加え、付け根側が逆に内側に出っ張ることを指します」と菊池さんは説明する。骨の配置を見ると、親指が外側に曲がるだけでなく、親指につながる足の骨、中足骨(ちゅうそくこつ)が開いていることがわかるだろう。

実際、日本整形外科学会の『外反母趾診療ガイドライン』でも、親指の骨である基節骨(きせつこつ)と中足骨がなす角度(外反母趾角)をレントゲンで確認し、20度以上ある場合を外反母趾と規定している。また、その度合いによって重症度を判定している。
アーチの崩れが外反母趾の要因に
では、外反母趾はなぜ起こるのだろうか。
「土踏まずの部分が地面についてしまう『扁平足(へんぺいそく)』だと外反母趾になりやすいといわれていますが、それは正確な表現ではありません。扁平足になったらすべて外反母趾になるかというと、決してそうではないからです。ただ、扁平足を含む"足のアーチの崩れ"が外反母趾につながりやすい、とはいえるでしょう」
私たちの足には、3つのアーチがある。かかとと親指の付け根を結ぶ「内側の縦アーチ」、かかとと小指の付け根を結ぶ「外側の縦アーチ」、そして5本の指の付け根を結ぶ「横アーチ」だ。私たちの足は、このようなアーチ構造を持つことで全身の体重を支え、着地時の衝撃を受け止めている。
「しかし、加齢や体重増加、身体の機能の衰えなどにより、『内側の縦アーチ』に過度な負担がかかってくると『扁平足』になります。さらに前足に負担がかかると、5本の指の付け根を結ぶ横アーチが押しつぶされ、足の横幅が広がった『開張足(かいちょうそく)』になってくることもあります。どちらが起こっても、踏み返しのときに、親指の付け根には大きな負担がかかってしまいます。親指の根元のMTP関節はこの踏み返しの外力を横に逃がすために外側に曲がってくる。だから、裸足で歩いても外反母趾にはなるのです」
一方、疫学調査の結果では、変形性膝関節症と外反母趾の相関が強いこともわかっているという。

つまり、外反母趾は親指だけの問題ではない。だからこそ、外反母趾は出っ張りの部分が痛むだけではなく、さまざまな症状を伴うという。
あまり知られていないのが、外反母趾になると親指の機能が落ちてしまうことだ。
「外反母趾になると、歩行時の蹴りだし動作のときに親指が十分に働かなくなります。これは米国の足病学(ポダイアトリー)の生体力学の理屈になりますが、歩行時に地面をしっかり押して蹴りだすためには、親指の根元のMTP関節がしっかりと反ることが必要です。しかし、外反母趾で親指にあまり力を込めて蹴りだしができないとなると、親指ではなく、第2趾(足の人さし指)、第3趾(足の中指)に蹴りだしの重心が移ってしまいます。するとますます第2趾や第3趾に負担がかかり、タコなども親指ではなく、第2趾、第3趾の下にできやすくなります」


外反母趾が強くなればなるほど、親指は「歩行」という重要な役割から外れていく。
「外反母趾は歩行バランスを崩し、歩行速度を低下させるというデータもあります。だから、外反母趾は放置せず、きちんと様子を見て対処をしていくことが大切なのです」
足指が硬直しないようストレッチを
では、自分の足が外反母趾では……と思ったら、どうすればよいのだろうか。
「足の親指が変形しているということだけでは、手術や治療の対象にはなりません。『職業上どうしてもこの靴を履かなくてはいけないのに、外反母趾のために痛い』『生活上、どうしても困っている』といった支障があるときに、その状況を改善するために病院に相談した方がいいと思います。治療の選択は、その人が外反母趾によって一番何に困っているかによって始まりますから、一律に治療方法が決まっているわけではありません」
まだ変形が軽度で痛みなどもないのであれば、足指のストレッチをまめに行うことで、外反母趾の進行を予防できるという。
次回は、具体的な足指のストレッチのやり方や治療法について紹介する。

(ライター:赤根千鶴子、構成:日経ヘルス 白澤淳子)
[日経ヘルス2020年4月号の記事を再構成]
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