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沈黙の臓器・膵臓がカチカチ 慢性膵炎で注意すべきは

NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!

【問題】膵臓(すいぞう)の炎症が長く続き、膵臓がカチカチに硬くなっていく慢性膵炎。この病気の説明として、間違っているものは次のうちどれでしょう?

(1)一番の原因はお酒である
(2)進行するほどみぞおちに激しい痛みが出てくる
(3)膵がんになるリスクが高くなる

答えは次ページ

答えと解説

正解(間違っている記述)は、(2)進行するほどみぞおちに激しい痛みが出てくるです(正しくは、進行するほど痛みは弱まる)。

膵臓は胃の後ろにある10~15cmの小さな臓器で、食べ物の消化に欠かせない消化酵素や、血糖をコントロールするインスリンなどのホルモンを分泌しています。

膵臓が炎症を起こす膵炎には、膵臓がドロドロに溶けて激痛が出る「急性膵炎」と、膵臓がカチカチに硬くなって機能しなくなる「慢性膵炎」の2つがあります。急性膵炎は年間6万3000人が発症、慢性膵炎は年間6万7000人が医療機関を受診しており、その数はいずれも年々増加しています[注1]

膵炎になりやすい人の特徴は、お酒を飲む量が多いこと、そして脂っこい食べ物が好きなことです。中でも一番注意すべきはアルコールの大量摂取で、急性膵炎で最も多い原因が飲酒であり、慢性膵炎でも約7割が長年の飲酒から起こるとされています。

「アルコールを過剰に摂取すると、それに対処しようとして、たくさんの膵液が分泌されます。つまり、アルコールは、膵臓を酷使する最大の原因なのです。大量のアルコールに加えて、脂っこいものも食べていれば、それを必死に消化しようとして膵臓の負担がさらに増し、炎症を起こすようになります」。膵臓の病気のエキスパートである東京医科大学消化器内科学分野主任教授の糸井隆夫さんは、そう話します。

慢性膵炎の痛みは、病気が進行するほど薄れていく

急性膵炎では、膵臓の中の膵管というパイプが詰まり、逆流した膵液が膵臓を溶かしてしまうため、みぞおちや背中に激しい痛みが出ます。その痛みは、尿路結石や心筋梗塞と並ぶ3大激痛の1つに数えられるほどです。

一方、5~10年かけてじっくり進行する慢性膵炎の痛みは、シクシクする重い痛みであることが多く、胃の痛みだと誤解されることも少なくありません。しかも、進行するほど痛みが徐々に薄れていくのが慢性膵炎の特徴です。

糸井さんによると、慢性膵炎で痛みが薄れるのは、痛みのもとになる膵液が出にくくなるため。「水道の蛇口を思い切りひねると、勢いよく水が流れて水圧が増しますよね。これと同じように、お酒をたくさん飲んで膵液が増えると、膵管内の圧が増して痛みが出ます。でも、慢性膵炎が進むと、膵液を出す細胞が硬く萎縮してどんどん消えていき、膵液が作れなくなります。すると、蛇口をひねっても水が出ない、水圧がかからない状態となるので痛みは消えるというわけです。しかし、『痛みが消えて調子が良くなった』と思っているうちに、膵臓の線維化は確実に進みます」(糸井さん)

健康な人に比べ、膵がんのリスクは12倍にもなる

慢性膵炎を長く患うと、膵がんのリスクが高まります。慢性膵炎と診断されて2年以上たつ人は、健康な人の11.8倍も膵がんになるリスクが高いという報告もあります[注2]。線維化して硬くなった膵臓は、まず元に戻ることはありません。そのため、慢性膵炎はいかに早く発見し、進行を止めるかが大切になってきます。

膵臓の状態を調べる検査はいろいろありますが、初期の慢性膵炎では画像上に異変が表れにくいため、腹部の超音波検査やCT、MRIなどの検査を受けても異常なしとされることもあります。そこで有効なのが血液検査です。血液中に含まれる膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の数値が上昇していれば、お腹の痛みが少なく、画像上の異変がなくても、慢性膵炎を疑う手がかりとなります。

最終的には、超音波装置のついた内視鏡を口から入れ、胃・十二指腸の壁越しに超音波を当てる検査(超音波内視鏡検査)を行い、慢性膵炎の可能性が高ければ薬物療法を始めるのが通常の流れです。

「特に大量飲酒や脂肪分の過剰摂取など、膵炎を起こすリスク因子に思い当たる節のある人は、『自分は膵臓が悪いかもしれない』と疑う目を持ってください。また、こうしたリスク因子を減らして、膵臓をいたわることも大切です」と糸井さんは話しています。

[注1]慢性膵炎は長年かけて進行する。そのため、治療を受ける人は年間6万7000人だが、新たに診断される人は年間1万8000人とされている。(出典:厚生労働省「難治性膵疾患に関する調査研究 平成23年度~25年度総合研究報告書」2014年)

[注2]Ueda J, et al. Surgery. 2013 Mar; 153(3): 357-364.

[日経Gooday2020年8月3日付記事を再構成]

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