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認知症予防は子ども時代が大事? 専門医が明かす事実

医師がやっている認知症予防(下)

NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

食事や運動など生活習慣に気をつけると、将来、認知症になるリスクを下げられることが分かってきた。しかし、実際に認知症予防を意識した生活を送っている人は、まだ多くはない。『医師が認知症予防のためにやっていること。』(日経BP)の著者である、認知症専門医の遠藤英俊さんによると、実は若い頃から取り組むと効果的な認知症予防があるという。

◇   ◇   ◇

認知症予防は子ども時代から?

認知症といっても、若いうちから心配する人はあまり多くはない。年を取り、物忘れが増えてくると、「何か脳によいことをしたほうがいいかな」などと気にするようになってくる。

実際のところ、認知症予防にはいつ頃から取り組むのがいいのだろうか。認知症専門医の遠藤さんに聞くと、「認知症の予防は、子ども時代から始まっているんです」という意外な答えが返ってきた。

「2017年に医学雑誌『ランセット(Lancet)』が発表した論文では、アルツハイマー型認知症の『自分次第で改善できる9つのリスク要因』として、小児期のリスクに「低学歴(11~12歳で教育が終了)」が挙げられていました(Lancet. 2017;390:2673-734.)。早く教育が終わってしまうことが、将来の認知症につながってしまうのです」(遠藤さん)

日本では高齢人口が急速に増え続けているので、認知症患者数も増加の一途をたどっている。しかし、米国、英国、オランダなどでは、逆に患者数が減っているのだ。これは、高学歴の高齢者が増えているためではないかといわれている。

「日本の義務教育は15歳まで続くので、『11~12歳で教育が終了』という事態はあり得ません。ただ、できるだけ学歴を伸ばし、頭を使う経験を積むほうがいい、というのが私の考えです。すると、認知能力の"余力"が生まれ、それが認知症の発症を防ぐのです。子育てをされている方にはぜひ、意識してもらいたいですね」(遠藤さん)

『ランセット』の論文が画期的だったのは、アルツハイマー型認知症のリスク要因を評価し、「自分次第で改善できる」という観点からまとめたことだ。これは、2019年にWHO(世界保健機関)が初めて発表した「認知症予防ガイドライン」の土台にもなっている。

「アルツハイマー型認知症のリスク要因として中年期(45~65歳)に気をつけなければならないのは、高血圧、肥満、難聴の3つです。これは『ランセット』の論文で明らかになったことで、一言でいうならば、生活習慣病対策をきちんとやる、ということです」(遠藤さん)

定年後に目指す体形は「小太り」

肥満と高血圧の2つは、密接に関係している。つまり、太っている人ほど血圧が高くなりやすい。また、肥満を放置すると、高血圧だけでなく、糖尿病にもなりやすくなるので、それがやがて認知症のリスク要因となる。

「血圧は、正常である130/80mmHg以下を目標にしたいものですが、まずは高血圧とされる140/90mmHgを下回ることを考えましょう。食事の塩分を減らしたり、運動によって血圧を下げたりする努力をする必要があります。それでも難しい場合は、薬で血圧をコントロールすれば、認知症のリスクが高まることはありません。私は以前から血圧が高いので、50代から降圧薬を服用しています」(遠藤さん)

遠藤さんによると、降圧薬にはいろいろな種類があるが、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、というタイプの薬が、最も認知症リスクを下げるという調査結果があるという(日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」)。遠藤さんが服用しているのものARBだ。

「血圧を下げる薬を飲み続けるのはわずらわしいと思う方もいるようですが、きちんと薬によって血圧を下げておくことが大切です。また、血圧が高いと脳梗塞のリスクも高くなり、これらが原因で起こる『血管性認知症』はアルツハイマー型認知症の次に多い認知症ですから、なおのこと血圧を下げるよう注意してください」(遠藤さん)

肥満対策はどうだろうか。人によって体形が違うので、目標とする体重はそれぞれだ。遠藤さんによると、一般的には自分が30代の頃の体重を目標にするのがいいという。

「私の場合はというと、仕事が忙しかったこともあり、たまにジョギングやゴルフをしていたものの、定期的には運動できていませんでした。そのため、60代半ばの現在は、30代の頃と比べると10キロほど体重が増えてしまっています。とはいえ、短期間で10キロ減量すると体に悪いので、まずは5キロ痩せられるよう、体を動かそうと考えています」(遠藤さん)

なるべく痩せているほうが健康だと思う人は多いかもしれないが、60代半ばを過ぎるとそうでもなくなってくる。

「小太り気味の人のほうが長寿であるという研究データがあります。特に高齢者の場合、筋力が衰える『フレイル』という虚弱状態を予防したり、脳卒中などの病気後のリハビリを考えると、標準体重よりもやや重いほうが健康維持に適しています。つまり、中年期は肥満を予防することが大切だけれども、定年退職を過ぎたあたりからは、小太りが目指す体形なのです」(遠藤さん)

なお、難聴も中年期のリスク要因として挙がっている。「年を取って耳が遠くなることを『加齢性難聴』といいますが、早い人は50代でも補聴器が必要なほど難聴が進んでしまいます。早くから進んでしまった難聴をそのままにして、補聴器を使わずに過ごしていると、脳に対する聴覚からのインプットが少なくなり、それがやがて抑うつ状態を招いたり、認知症につながってしまうのです。補聴器を正しく活用すれば、認知症のリスクは上がらないことが分かっています」(遠藤さん)

(イラスト:堀江篤史)

遠藤英俊さん
1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! "元気脳"のつくり方』(世界文化社)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。

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